表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Akashic Vision  作者: MCFL
111/266

第111話 赤き世界の再来

「オ、オリビン!」

飛鳥の姿を見た叶たちはすぐさまシンボルやセイバー、ソルシエールを顕現させた。

「わたくしが今日ここにいることも運命ですか。皆さん…ジュエル、抜剣!」

撫子の掛け声に合わせてヴァルキリーとジュエルもその手に人造の魔剣を顕現させた。

赤い世界にいくつもの朱色の輝きが現れる。

その光景を見ても飛鳥は余裕の見下したような表情を崩さない。

その背後にいるオーが敵意に反応して紅色の目を細めた。

痛いくらいの殺気が方々から立ち上る。

「生きていらしたのですね。」

撫子の問いに飛鳥はふんと見下したような笑いを漏らした。

「飛鳥が死ぬわけないじゃない。ちょっと準備が遅くなっただけよ、あんたたちを(みなごろし)にする準備をね。」

「明夜をどこにやりやがった!」

由良がようやく見つけた明夜の手がかりに鬼の形相で問う。

「さあね。」

「てめぇ。」

飛鳥が真面目に答える様子がないのを見て由良の目元がひくつく。

「別にいいじゃない。どうせみんな死んで地獄で会えるんだからね!」

飛鳥の左目がまた朱色の光を放ち、その手に黒く透明なソルシエール・モーリオンが現れる。

苛烈な視線は海に向けられていた。

「特にアダマスのソーサリス。飛鳥を馬鹿にしたあんたは絶対に許さない!」

「へぇ、また私に遊んでほしいんだ?」

海はアダマスの刀身を撫でながら笑う。

それを見た飛鳥が激昂しモルガナがウネウネと暴れた。

「海。時坂飛鳥が暴れだしたら面倒だからあまり挑発しな…!」

八重花は海をたしなめている途中でわずかに上空からの光の加減が変わったのを察知して顔を振り上げた。

そこには上空で魔剣を光り輝かせた女が今まさに"Innocent Vision"に向けて落ちてきているところだった。

「ジオード!」

八重花が赤い炎を空に向けて放つ。

襲撃者はそれを空中で体を捻ってかわしたが

「まだよ!」

赤き炎の蛇は空中で旋回し背後から襲撃者を飲み込もうとしていた。

襲撃者は体を反転させて蛇に向かい

シャキン

炎の蛇を切り裂いた。

「敵に背を向けるなんて大胆ね。」

「!?」

その時すでに八重花は飛び上がっていた。

背後からの攻撃に魔剣を合わせた襲撃者と八重花は鍔ぜりになり

「あ!?」

八重花が相手の顔を見て目を見開いた。

力で押し合った両者の体は離れ、八重花は"Innocent Vision"に、襲撃者はオーの軍勢の前に着地した。

「…。」

八重花は襲撃者を睨む。

それはゆっくりと立ち上がり、八重花を睨み付けた。

「あ、あれは!」

ヴァルキリーから驚きと戸惑いの声が上がる。

「そんな、どうして?」

真奈美もまた驚いている。

戦場を困惑に満たした相手に対し八重花は不敵な笑みを浮かべた。

「久々の再会にしては随分とご挨拶じゃない、元私のジュエルの桐沢茜。」

茜は名前を呼ばれただけで視線をキツくしてアルミナよりも美しく禍々しい魔剣を構えた。

「桐沢茜さん。ファブレとの決戦の後消息を断っていたジュエルでただ一人グラマリーを発現された方。それがなぜオーと一緒に?」

撫子の疑問に答えられる張本人は言葉が聞こえていないかのようにただ八重花だけを睨んでいた。

「…どうやら私に用があるみたいね。叶、ちょっとパーティーから抜けさせてもらうわよ。」

「うん。でもちゃんと戻ってきてね。」

緊張感の足りない軽口で会話を済ませると八重花は"Innocent Vision"から外れて校庭の方に駆けていった。

それを茜とオーの一部が追撃していく。

「レイズハート!」

それを見送っていた背後で叫びが上がり翠の光刃が宙に舞う。

「超音壁!」

由良は振り向かないままに玻璃を掲げると超振動の障壁を展開して光刃を撃ち落とした。

「ちっ。」

舌打ちする美保に由良がヤクザっぽいドスの効いた睨みを向ける。

美保や良子、緑里は脅えて後退った。

「さっきまでは"Innocent Vision"と演劇で仲良しこよししてたけどやっぱりこっちの方がうちららしいわね。久々に"RGB"の力を思い知らせてやるわよ!」

「"ザ・玉"の間違いじゃないのか?」

「黒歴史を明かすなー!」

美保が半泣きで叫び、提案者の良子も美保の拒絶でしょんぼりしている。

唯一無傷の悠莉はため息を溢しながらサフェイロスを構えた。

「仕方がありませんね。羽佐間さん、お相手願います。」

「ちっ。目の前に"化け物"がいるってのに。カナ、マナを借りてくぞ。」

さすがにジュエルとはいえ"RGB"3人を1人で相手できると思うほど由良は傲慢ではない。

時坂飛鳥との戦いではモルガナが見える叶と一撃で大量のモルガナを切り落とせる海の方が効率が良い。

そしてジュエルには聖剣の力が有効だと考えて由良は真奈美を連れていくことを選んだ。

「わ、わかりました。気を付けて下さいね、由良お姉ちゃん。」

由良は笑みをもって答えると

「ぶっ飛べ、音震波!」

"RGB"を中庭まで吹き飛ばして真奈美と共に駆けていった。

逃がさないためか飛鳥が合図をするとオーの一団がその後を追いかけていった。

残ったのは"Innocent Vision"の叶と海、オーと時坂飛鳥、そしてヴァルキリーの花鳳撫子と海原姉妹だった。

叶は不安げに撫子を見る。

「撫子さんも私たちと戦いますか?」

「…」

撫子は考え込むように瞳を閉じた。

"Innocent Vision"とオーのどちらを排除するべきかと考える。

(オーはわたくしたちを倒す準備をしてきたといいました。つまりここで"Innocent Vision"と戦ってもその後にオーと戦うことになるのは避けられません。それにジュエルだけでオーや時坂飛鳥さんを倒すのは困難。ここは"Innocent Vision"と共に戦うのが得策。)

美保と同調しなかった時点でわかっていた答えに理由付けを済ませた撫子は飛鳥の方を見た。

「ヴァルキリーの作り上げる世界にあのような異形は必要ありません。ならば"Innocent Vision"よりも先に排除すべきはオーです。」

撫子のアヴェンチュリン・クォーザイトに光が宿る。

「お嬢様の決定に異存などありません。私自身、オーには危険なものを感じています。」

「撫子様がそう言うならしょうがないね。」

葵衣と緑里もジュエルをオーに向けた。

撫子は横目で叶を見て

「お話を聞く限り時坂飛鳥さんは強力なソルシエールをお持ちのようですね。オーはわたくしたちが相手をします。叶たちは彼女を。」

「わかりました。」

撫子たちがオーの側面に回り、それに対応するオーが動いた。

そして最後まで残ったのは"Innocent Vision"の叶と海、オーと飛鳥だった。

飛鳥はたった2人しか残らなかった敵を見ておかしそうに顔を歪めた。

「せっかく出てきてあげたのにおもてなしはこれだけ?まあ、何人いても結果は同じだけどね。」

「確かにそうかも。その醜い触手が切り裂かれる未来は変わらないよ。」

海もあくまで余裕の態度を崩さない。

「へぇ、面白い冗談ね。」

「本当に。お迎えが2人なのもホッとしてるんでしょ?」

互いに笑みを浮かべながらもバチバチと火花を散らす飛鳥と海。

周囲の空間が殺気で張り詰めて飛んできた木の葉が勝手に破裂した。

構図的には輝く剣を手に蛇の化け物に向かっていく感じだが実際は化け物同士の怪獣大決戦に近い。

「うう、私はどうすれば…」

叶が間に飛び込むべきか悩んでいるうちに

「押し潰しなさい、モルガナ!」

「消し去っちゃえ、ブリリアント!」

"化け物"同士の戦いが始まった。




裏庭では暴風と光が飛び交っていた。

「悠莉、防御は任せるわよ!レイズハート!」

「無茶をする等々力先輩で手一杯です。美保さんは自分で守ってください。」

「行くよ、ルビヌス!」

赤と青と翠の光が縦横無尽に戦場を飛び回る。

赤が接近し、翠が狙撃して攻撃を仕掛け、青が防御を担当する基本にして安定な戦術を展開する。

だが対する2人はその暴力の光に負けていない。

「奔れ、アルファスピナ!」

ルビヌスで強化されたラトナラジュの斬撃をスピネルが真下から迎え撃ち、

「邪魔だ、横震波!」

横薙ぎに振るった玻璃の放つ音の横波がレイズハートを撃ち落としていく。

さらに振り抜いた玻璃で突きの構えを取り

「縦震波!」

今度は縦振動の音震波を放つ。

「コランダム。」

だが良子に迫るコランダムに阻まれ

ビキィ

その障壁にヒビを入れた。

「悠莉のコランダムを一発で砕いた!?良子先輩!」

美保は驚きながらもレイズハートを操作して真奈美に向ける。

真奈美が上からの攻撃をかわすのと良子が飛び退いたのはほぼ同時だった。

良子の眼前を暴風が突き抜けて髪を揺らした。

「はあ、はあ。危なかった。助かったよ、悠莉、美保。」

コランダムの障壁を突き抜ける攻撃をまともに浴びていたら良子だって無事では済まなかったはずである。

「なんなのよ、あれ?」

「羽佐間先輩が言っていたじゃないですか。縦波です。」

「縦波ってこういうこと?」

良子が縦波を尺取り虫、横波を蛇の移動のように手の動きで表現する。

美保と悠莉、そして由良と真奈美がとても残念なものを見るような目で良子を見た。

「等々力先輩。それはどちらも横波です。縦波は進行方向に対して平行に進む波ですよ。」

悠莉は手を押し出す仕草で伝えるが良子には上手く伝わっていない。

悠莉は嘆息するとあっさりと諦めて由良を見た。

「振動の動きを限定して縦波だけにすることで威力を一点に集中させたというわけですね。さしずめ空気の槍と言ったところですか。」

一発で見抜かれて由良が苦い顔をした。

「やりづらい相手だな。等々力なら最後までわかなかっただろうに。」

「そうでしょうね。」

「敵からも味方からも馬鹿にされた!?」

良子は絶望した感じに叫んでいるが相手にしてもらえない。

場には緊迫感が満ちていた。

「スピネルだけじゃなくて音震波でもコランダムが破られるんじゃ守りづらいわね。」

美保は自分の周囲にレイズハートを展開してくるくると漂わせている。

隙あらば叩き込もうという魂胆だが正面から向き合っている現状では隙も作りようがない。

由良としてももう少し動揺してくれればやりやすかったのだが悠莉のせいで落ち着きを取り戻してしまっている。

(この分じゃもう縦震波の対策も考え始めていそうだな。)

「マナ!」

「は、はい!」

真奈美はボーッとしていたのか慌てて返事をした。

だがすぐに由良の意図を理解すると"RGB"に向かって駆け出した。

「いくらセイバーだからってうちらに1人で突っ込んでくるなんて無謀ね!」

すぐさま美保がレイズハートを放つが真奈美はフットワークと手甲の捌きだけでそれらを切り抜けた。

真奈美の正面からの突撃に良子はデュアルジュエルを起動させる。

「エアブーツとルビヌスの突進力ならいくらセイバーだって貫けないはずがない!」

良子の体を赤い光と風が覆い、ドンと地面が爆発したような踏み切りと共に赤い風となった。

だが、その時すでに真奈美は飛び上がっていた。

ギリギリの差で真奈美が上へと跳んで良子の突進を避けた。

「行くよ、スターダストスピナ!」

真奈美はそのまま流星となって悠莉に向かい、良子はまっすぐに突きの構えを取る由良に向かっていく。

「どっちもコランダムを貫く一撃だ。片方もしくは両方潰れてもらうぞ!」

玻璃が激しく振動して良子を迎え撃つ。

美保はすぐに悠莉の前に立った。

「良子先輩がヤバいわ。悠莉はあっちに障壁を張って。あたしが悠莉を守るわ!」

「かっこいい台詞ですね。それでは…コランダム!」

悠莉は良子の前にコランダムを出現させた。

「へぶっ!」

突然目の前に出現した壁にビタンとぶつかって良子が蛙が潰されたみたいな声を漏らした。

バシィ

「…」

一応直後に縦震波がコランダムに弾かれたがどちらがマシだったのか。

美保は気を取り直してデュアルジュエルのコランダムを左腕に盾のように展開する。

「あんたがこの盾を砕いてる間に至近距離からレイズハートを叩き込んでやるわ!」

光の流星が美保を捉える。

グンッ

美保が感じたのはコランダムが割れる感覚ではなく左腕にかかる重圧だった。

真奈美は左足の刃ではなく右足でコランダムを蹴っていた。

「なにぃ!?」

当然それでは砕けない。

そして、それならば攻撃はまだ終わっていない。

「失礼!」

「あたしを踏み台にした!?」

「やはり初めから狙いは私だけでしたか。」

美保の叫びを背中で聞きながらスターダストスピナで溜めた力を込めて悠莉に向かって蹴り下ろす。

「ガンマスピナ!」

「コランダム。」

悠莉はそれを2枚重ねのコランダムで受け止めるがビキビキと障壁が砕けていく。

「くっ、一撃でこの威力ですか。ブレイク!」

「うわっ!」

咄嗟に悠莉はコランダムの爆風で真奈美を吹き飛ばした。

真奈美は器用に空中で回って着地した。

由良が真奈美の隣に並び、悠莉の下に美保と鼻をさする良子が並ぶ。

完全に仕切り直しである。

「うー、ひどい目にあった。まだ目の前がチカチカするよ。」

「すみません、すべて美保さんが悪いんです。」

「悠莉、あんた人のせいにしないでよ!あー、でもさすがにソルシエール相手だと分が悪すぎ。」

今回はどうにか捌けたが何度も上手くいくとは思わない。

早いうちにどうにかする必要があった。

美保は周囲を見回す。

「何か…」

美保の目が遠巻きに見ているオーに向けられ、ニヤリと顔が歪んだ。

「観客気取ってるんじゃないわよ、さあ、暴れなさい!」

美保がレイズハートをオーの軍勢の中に叩き込む。

「オー!」

オーは雄たけびを上げながら襲いかかってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ