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Akashic Vision  作者: MCFL
110/266

第110話 シンデレラの魔法が終わる時

むかしむかし、とても美しくて、とても優しい娘(葵衣)がいました。

しかし悲しい事に、娘のお母さんは早くに亡くなってしまいました。

「ああ、お母さん。どうして死んでしまったの?」

そこでお父さんが2度目の結婚をしたので、娘には新しいお母さん(悠莉)と2人の姉(美保、緑里)が出来ました。

ところがこの人たちは、そろいもそろって大変な意地悪だったのです。

「何よ、こぶ付きだなんて母さんも物好きね。」

「ふふ、稼ぎの良い方ですから。」

「うわぁ、お母さん、悪女。」

新しいお母さんは、自分の2人の娘よりもきれいな娘が気に入りません。

「まあ、あんたは何て、にくらしい娘でしょう。」

お母さんと2人のお姉さんは、つらい仕事をみんな娘に押しつけました。

「何よ、こんなフカフカな布団で寝ているなんて。ボクのと変えてよ。」

交換だったはずの娘の寝るふとんは粗末な藁布団になり、

「いい服着てるじゃない。あんたみたいなのには勿体無いわね。あんたはこれでも着てなさい。」

娘の着る服はボロボロのつぎ当てだらけです。

「ふふ、みすぼらしい格好ですね。まさかそんな姿の娘が私たちと同じお風呂を使えると思ってるんですか?」

お風呂に入る事も許してもらえず、娘の頭にはいつもかまどの灰が付いていました。

「髪の色まで灰のようになったわね。」

「これじゃあ灰かぶりだね。」

「あなたは今日からシンデレラです。嬉しいでしょう?」

そこで3人は娘の事を、『灰をかぶっている』と言う意味のシンデレラと呼んだのです。

「私はシンデレラ、灰かぶりの女。地味な私にはお似合いな愛称ですね。」

自嘲気味に笑う可愛そうなシンデレラでしたが、それでもシンデレラの美しさは、お姉さんたちの何倍も何倍も上でした。

姉たちはそれが憎らしくていつもシンデレラを苛めていました。


ある日の事、お城の王子さまがお嫁さん選びの舞踏会を開く事になり、シンデレラのお姉さんたちにも招待状が届きました。

「上手くすれば、王子さまのお嫁さんになって玉の輿ってこともあり?」

上の姉がニヤリと悪どい笑みを浮かべています。

「いいえ、もしかするとじゃなくて、必ずお嫁さんになるんですよ。これで国のお金も私たちのものです。」

「よーし、ボク頑張っちゃうよ。」

2人のお姉さんたちとお母さんは、大はしゃぎです。

「シンデレラ、この世で一番美しいのは誰?」

「お姉様です。」

上の姉にも

「ボクが王子様に気に入られるようにうんとおめかしして。」

「お姉様は十分に可愛いですよ。」

下の姉にも

「ああ、シンデレラはお留守番ですよ。分かっていますね?」

母にも良いように使われました。

そんなお姉さんたちの仕度を手伝ったシンデレラは、お姉さんたちをニッコリ笑って送り出しました。

「……うう。」

それからシンデレラは悲しくなって、シクシクと泣き出しました。

「ああ、わたしも舞踏会に行きたいわ。王子さまに、お会いしたいわ。」

しかしシンデレラのボロボロの服では、舞踏会どころかお城に入る事も許されません。

その時、どこからか声がしました。

「泣くのはおよし、シンデレラ。」

「…? だれ?」

するとシンデレラの目の前に、魔女のおばあさん(撫子・友情出演)が現れました。

シンデレラは目を見開いて驚き、魔女のおばあさんは楽しげに笑いました。

「シンデレラ、お前はいつも仕事を頑張る、とても良い娘ですね。そのご褒美にわたくしが舞踏会へ行かせてあげましょう。」

「本当ですか?」

「ええ、本当ですよ。ではまず、シンデレラ、畑でカボチャを取ってきなさい。」

シンデレラが畑からカボチャを取ってくると、魔女はそのカボチャを太陽の意匠のついた魔法の杖で叩きました。

するとそのカボチャがどんどん大きくなり、何と黄金の馬車になったではありませんか。

「まあ、立派な馬車。素敵です。」

「まだまだ、魔法はこれからよ。さて、馬車を引くには、馬が必要ね。その馬は、どこにいるのかしら?…ああ、ネズミ捕りに、ハツカネズミが6匹いるわね。」

魔女はネズミ捕りからハツカネズミを取り出すと、魔法の杖でハツカネズミに触りました。

するとハツカネズミはみるみるうちに、立派な白馬になりました。

別のネズミ捕りには、大きな灰色ネズミが1匹いました。

「このネズミは…」

魔女が魔法の杖で灰色のネズミをさわると、今度は小柄な御者(紗香)に早変わりです。

「シンデレラ、次はトカゲを6匹集めなさい。」

「はい。」

シンデレラが集めたトカゲは、魔法の杖でお供の人(有志の乙女会員たち)になりました。

「ほらね。馬車に、白馬に、御者に、お供。さあシンデレラ、これで舞踏会に行く仕度が出来たわ。」

「うれしいです。ありがとうございます。…しかし、こんなドレスじゃ…」

「うん? あらあら、忘れていたわ。」

魔女が魔法の杖を一振りすると目映い光が放たれ、みすぼらしい服は、たちまち輝く様な純白の美しいドレスに変わりました。

そして魔女は、小さくて素敵なガラスの靴をシンデレラに履かせました。

「さあ、楽しんでおいでシンデレラ。でも、わたくしの魔法は12時までしか続かないから、それを忘れないのよ。」

「はい、行ってまいります。」


さて、お城の大広間にシンデレラが現れると、そのあまりの美しさに、辺りはシーンと静まりました。

招待されてきていた客たち(乙女会有志)は見惚れてしまいます。

「どこの娘かしら?」

「リストにはない子だ。チェック甘いぞ。」

会場がシンデレラの登場にざわめきます。

それに気づいた王子さま(良子)が、シンデレラの前に進み出ました。

「僕と、踊っていただけませんか?」

キラリと輝く白い歯を見せて笑う王子の手をシンデレラは取りました。

シンデレラは、ダンスがとても上手でした。

王子はひとときも、シンデレラの手を離しません。

「何よ、あの娘!王子さまがフリーにならないじゃない!」

「予想外の伏兵がいましたね。これは対策を講じないと。」

楽しい時間は、あっという間に過ぎて、ハッと気がつくと12時の15分前です。

「あっ、いけません。…本日は楽しい夢を見させていただきありがとうございました。おやすみなさいませ、王子さま。」

シンデレラは丁寧にお辞儀をすると、急いで大広間を出て行きました。

「待ってくれ!名前を…」

呼び止める王子から逃げるように出口に向かいます。

しかし、慌てた拍子にガラスの靴が階段にひっかかって、脱げてしまいました。

「ハイヒールは走りづらいですね。時間は…」

12時まで、あと5分です。

ガラスの靴を、取りに戻る時間がありません。

「待つんだ!衛兵、彼女を捕らえろ!」

王子が強行手段に出ようとしたためシンデレラは待っていた馬車に飛び乗ると、急いで家へ帰りました。

「とてもシャイで美しい女性だったな。おや?」

シンデレラの後を追ってきた王子さまは、落ちていたガラスの靴を拾うと父である王様(何故か琴)に言いました。

今夜の舞踏会も実は王子の妃を探すために王が催したものでした。

「僕は、このガラスの靴の持ち主の娘と結婚します。」


次の日から、お城の使いが国中を駆け回り、手がかりのガラスの靴が足にぴったり合う女の人を探しました。

「ガラスの靴を落とした娘はいませんか?」

「今ならもれなく王子様と結婚できますよ。」

ですがなかなか見つかりません。

お城の使いは、シンデレラの家にもやって来ました。

「さあ娘たち。この靴が足に入れば、あなたたちは王子さまのお嫁さんです。足の形が変わってでも押し込みなさい。」

「分かってるわ。お母様。」

「さすがに形が変わるのはボクはやだな。」

2人の姉たちは小さなガラスの靴に足をギュウギュウと押し込みましたが、どう頑張ってもガラスの靴は入りません。

下の姉は惜しかったですが一人称が私ではなかったので駄目でした。

「残念ながら、この家には昨日の娘はいないようだな。」

そう言って、お城の使いが帰ろうとした時、シンデレラが洗濯から戻ってきて首を傾げました。

「もう1人娘がいたのか。」

「いいえ、彼女は男の娘です。」

母はさらりと嘘をつきましたが城の使いは取り合わずシンデレラにもガラスの靴を履くように言いました。

それを聞いた2人の姉たちは、大笑いしました。

「何、バカな事を言っているのよ?」

「そうよ、ボクたちにも入らないのに、…あっ!」

シンデレラが履いてみると、ガラスの靴はピッタリでした。

「あら、何てこと。いいえ、そんなことありえないわ。」

みんなは驚きのあまり、口もきけません。

するとそこへ、あの魔女が現れました。

「わたくしの出番のようね。」

魔女が魔法の杖を一振りすると光に溢れ、シンデレラはたちまちまぶしいほど美しいお姫さまになっていました。

「あっ、あのシンデレラが?!」

「こんなことなら恩を売っておくべきでした。」

母と2人の姉たちは、ヘナヘナと腰を抜かしてしまいました。

城の使いに連れられた城の前には王子がソワソワした様子で待っていました。

シンデレラを見てその顔が笑顔で輝きます。

「また会えたね。僕と結婚して欲しい。」

王子の求婚にシンデレラは頬を染め

「はい。不束者ですがよろしくお願い致します。」

優しい笑顔で頷きました。

それからシンデレラは王子さまと結婚して、いつまでも幸せに暮らしました。





演劇対決は立ち見客が溢れるほどの盛況を博した。

どちらの演劇も素晴らしい出来で投票はなかなか終わらなかった。

特に森本の書き上げた『姫と王子と5人の魔女』のシナリオはただの幸せで終わる話ではなく身の回りの平和と大きな世界の平和、どちらを選ぶのが正しいのかという現実にも起こりうる選択を提示したことが好評だった。

そして姫の最後の台詞は叶のアドリブで"Innocent Vision"の理想を盛り込んでいた。

ちなみにナレーションも森本が担当した。

参加者のアドリブ台詞への臨機応変な対応も何気に評価されていた。

対する乙女会は王道のシンデレラだが乙女会役員に加えてエキストラの数、そしてサプライズで前会長の撫子までが参加する出演者の豪華さと葵衣の迫真の演技が評価された。

両作品の関係者が固唾を飲んで開票結果を待つ。

投票した観客たちもザワザワと落ち着かない様子であり皆が期待と不安を抱いているようだった。

公平を期すために教師に開票作業を任せていた結果がついに舞台へと運ばれてきた。

「本日の2年1組4組合同演劇と乙女会主演演劇の開票結果を発表します。」

ダラララララララ

ドラムロールが体育館に鳴り響き、スポットライトが飛び回る。

ダンッと音が鳴り止むと同時にスポットライトが一斉に教師に向けられた。

「投票総数327。162対165…乙女会の勝ちです!」

開票結果を聞いて拍手と歓声が沸き起こる。

「おめでとうございます。海原先輩の演技、素敵でした。」

「悔しいけど私たちの負けね。」

叶と八重花に褒められて葵衣は首を横に振った。

「乙女会の人気を抑えて接戦にまでもつれ込んだ皆様の演技力とシナリオは素晴らしかったです。」

"Innocent Vision"とヴァルキリーは互いの健闘を称え合っていた。

八重花と良子が壇上で握手を交わすと観客がもう一度歓声に沸いた。

(そういえばこの勝利の後に何か考えていたはずなんですが、何だったでしょう?)

悠莉は演劇に夢中になるあまり勝負を始めた理由をすっかり忘れてしまっていた。

讃え、讃えられる輪に入っていく。

叶は拍手鳴り止まない観客の笑顔を眺め

「あ!?」

体育館の入り口に背を預けるようにして立つ時坂飛鳥を見た。

飛鳥は叶が見ていることに気付いて不敵な笑みを浮かべると体育館から出ていった。

出演者全員でお辞儀をして緞帳が降りきると叶はすぐに着替え始めた。

「そんなに急いでどうしたの、叶?」

「今、体育館に時坂さんが見えたの!」

それは同じ更衣室を使っていたヴァルキリーにも聞こえていた。

「時坂って、オーの親玉よね?サマーパーティーで死んだんじゃなかったの?」

「見間違いか本物か、確認する必要がありますね。」

撫子の意見に全員が頷くとすぐに着替えて外に飛び出した。

舞台の裏口に当たるドアを開けた瞬間、


世界が血のように赤く染まっていた。


「これは…魔女ファブレの時と同じ空!」

そしてただ一つ違うのはかつての赤い世界とは違い一般人が時を止めたように色を失って静止していた。

動いているのは"Innocent Vision"とヴァルキリー、そしてジュエルの魔剣使いだけだった。

今まで分からなかったジュエルが判明する。

「こんなにジュエルがいたのか。」

「そうみたいね。でも今はそんな場合じゃないわ。」

八重花の緊張した声に由良も頷いて視線を動かす。

校門へと続く道の先は闇に染まって見えない。

否、

「久しぶりね。」

「オーッ!」

それは時坂飛鳥とその背後に湧き出るオーの大群だった。

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