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Akashic Vision  作者: MCFL
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第11話 報告会

週明けの月曜日、すっかり平常授業に移行した学校は一定のリズムでの生活になっていた。

朝登校して午前の授業を受け、午後は眠気と戦い、そして放課後を迎える。


「カナ、いるか?」

「あ、お姉さん。」

「「!?」」

教室を訪ねてきた由良と叶のやり取りに真奈美を含めたクラスメイトが驚いて動きを止めた。

当の2人は気にした様子もなく叶がドアのところに近づいていく。

「どうかしたんですか?」

「近況報告をするぞ。連絡は任せた、リーダー。」

「あ、はい。わかりました。」

叶はすぐに携帯を操作して"Innocent Vision"のメンバーに集合メールを送る。

唖然としたままの真奈美の携帯も鳴るがフリーズしたままだった。


さらに琴にも連絡を取るが

「今日は琴先輩に予定があるそうです。」

というわけで太宮神社ではなく商店街のファーストフードに集まっていた。

「それでリーダー。召集した理由は?」

八重花がわざとリーダーと呼んで煽ると案の定叶は慌て出した。

「えっと、あの…」

不安げに瞳を潤ませて由良に助けを求めると"お姉さん"は仕方がないとばかりに溜め息をついた。

「まだまだ精進が必要だな。」

「すみません。」

「まあ、いい。今日でジェムに似た化け物にカナと八重花が襲われて1週間だ。その間に分かったことや起こったことがあれば検討するぞ。」

こうなることは予想済みだったらしく由良はあっさりと進行役を引き継いで話を進め始めた。

叶がやっぱりリーダーは由良の方がいいんじゃないかと思ったが口には出さないでいた。

「俺は町で以前のような不審な事件が起こってないか探ってみたがまだ特にそれらしい事件は起こってないな。」

「夜の町も平和。」

由良と明夜が独自に調査した結果を報告する。

由良は主に不良グループなど裏側に近い人脈から不審な殺人が行われていないかの聞き込み、明夜はこれまで通り深夜の町を飛び回っての直接的な捜査を行っていた。

「まだ動き始めたばかりだからなんとも言えないが現状では2人が見た人型の闇はジェムやデーモンとは違うような気がする。あるいは人を媒介にしないタイプのジェムなのかもしれないが今までとは違うようだな。」

「うん。夜が静か。」

真面目な調査と考察に叶と真奈美が感心しつつ冷や汗を流す。

2人とも現在の"Innocent Vision"の貴重な戦力だが調査は何もしていなかった。

だけどそこは慣れた"Innocent Vision"と新規メンバーの違いと納得する。

「私は例の結界に関する結界について報告するわ。」

「「!?」」

だが"Innocent Vision"としては新規メンバーである八重花が手を上げたことに2人は焦る。

「色々な解析をしたらあれは商店街全部を作った幻覚でも私たちの認識がおかしくなったわけでもなくて鏡の世界に飛ばされたのよ。監視カメラの映像で鏡の中にだけ姿が映っていたのを確認したわ。」

「監視…」

「カメラ…」

叶と真奈美では確認の仕方すら思い付かない方法にただ聞いている事しかできない。

「鏡の結界、幻覚…」

由良が難しい顔をして俯く。

「結界を作り出したのがあの人形の闇なのか別の誰かなのかはまだ分かっていないわ。」

八重花も由良と同じ疑惑を持って調査を続けていたが結局尻尾を捕まえることはできなかった。

「厄介な技を使う敵だって事だな。それでカナ、何か無いか?」

「真奈美もね。」

全員の視線が集まると2人は冷や汗を滝のように流し始めた。

見る見る顔色が悪くなっていき

「「ごめんなさい!」」

テーブルに土下座するように頭を下げた。

反応がないためビクビクしながら審判を待つ。

「なるほどな。最初の接触以来は特に音沙汰無しか。狙ってくるなら2人だと思っていたんだが、思った以上に相手は慎重なのか?」

「あるいは別の目的もあってそちらを優先させているかね。」

だがお叱りは無く、むしろ2人の反応をもとに議論が展開していた。

訳が分からず叶が顔をあげると由良はフッと笑みを浮かべた。

「もともと調査してるとは思ってない。それに一番狙われるはずのお前らが普通に生活を送れるかどうかで相手の出方を見ていたんだ。」

「あ、なるほど。」

真奈美がポンと手を打つ。

確かにそれならば下手に情報を与えず普段通りに生活させた方が判断しやすい。

「だが最初の接触から1週間、その間に何もしてこないのはやはり妙だな?」

「そうね。ヴァルキリーの方にちょっかいを出しているとも考えられるけどあの人型の闇が1体しかいないわけがないもの。もしかしたら私たちの気付かないところで襲撃の準備をしているのかもしれないわ。」

由良と八重花が話を進めていく。

明夜はほとんど口を挟まないが時折相づちを打っている。

真奈美は苦笑い、叶は首を捻る回数が多かった。

「八重花の考え方は陸に近いな。だが予測が予測でしかないのが痛い。こっちから打って出られない。」

「それが普通よ。これまでの"Innocent Vision"が異常だっただけ。」

ヴァルキリーの側から"Innocent Vision"を見ていた八重花だからこそ陸の未来視によって行動していた"Innocent Vision"の異常性を強く感じていた。

そんな力を使い続けていたからこそ陸は眠りについてしまったとも考えられ、八重花は悔しさをかみ締める。

「そうなると後手に回るしかないか。面倒だな。」

「攻略本を片手に戦いを挑むような考えは改めないといざというときに危険よ。」

すっかり2人が"Innocent Vision"の活動の方向性を決めていく。

「あ、あの。」

そこに申し訳なさそうに手を挙げた叶が割り込んだ。

「何だ?」

「2人ともすごいのでリーダーをお任せしてもいいのではないでしょうか?」

「ダメよ。」

「駄目だな。」

「無理。」

「諦めな、叶。」

「あれ!?全員?」

叶の申し出は即答で却下された。

「カナ。リーダーに必要なものは何だ?」

「ええと、みんなを引っ張るリーダーシップです。」

由良はコーヒーを口に運びながら頷く。

「正解だ。だが、どんなにリーダーシップがあってもついていきたくない人間の指示は受けたくない。俺なんかはその傾向が強い。だからヴァルキリーからの誘いを蹴って最終的に"Innocent Vision"に入ったんだ。」

由良の蹴っては斬ってであり壮絶な戦いを繰り広げたのだが血なまぐさい話になるので由良は何食わぬ顔で端折った。

叶は由良の意見をヒントに別の答えを考える。

「つまり、人望ですか?」

叶の答えに由良は満足げに頷いた。

他の皆も同様に頷いている。

「ああ。陸は人望があり、リーダーシップもあった。だがカナに陸と同じことをしろとは言わない。幸い陸並みの作戦参謀に八重花もいるんだ。使ってやらなきゃ勿体無いだろ?」

「本当はりくにアピールするためにリーダーを引き受けたいところだけど譲ってあげる。しっかりやりなさい。」

「叶なら安心。」

「あたしはリーダーって柄じゃないからね。叶はあたしが守るよ。」

叶は自分に人望があるなんて思っていなかった。

だけど自分をみんなが必要としてくれていることが嬉しくて

「はい。頑張ります!」

今度は自分の意思でリーダーを引き受ける事にした。

"Innocent Vision"のメンバーはそんな新リーダーを温かく見守っていた。



ヴァルキリーでもまた乙女会議を開いていた。

議長は良子ではなく葵衣だ。

報告は会長である良子から始まった。

「この1週間でうちの部もだいぶまとまってきたから良いところまでいけるはずだよ。」

乙女会会長としてでもヴァルキリーのソーサリスとしてでもなくバレー部部長としての意見に美保と緑里が額に青筋を浮かべ、悠莉は笑っており、葵衣は無表情だった。

「良子先輩は座っていればいいですよ。」

口の端をひくつかせながら美保が妙に優しい口調で戦力外通告をした。

どこからも異論が上がらないので良子は慌てる。

「じょ、冗談だって。ええと、部員に純乙女会について聞いてみたんだけどあんまりいい印象を持ってないみたいだったよ。競争が厳しいとか、あとクリスマスパーティーの敗けでまだジュエルの子の士気も低い。」

「東條八重花についてたジュエルが抜けたから今ジュエルに残ってるのって良子さんの後輩がほとんどですよね?つまり今のジュエルの総意って事ですね。」

かつて100人を超えていたジュエルは今や10人程度にまで減っていた。

活動も停止状態なので士気は下がる一方だった。

「由々しき事態ですね。このままでは折角新たにジュエルの力を手に入れたとしてもその風評が原因で参加を自粛するかもしれません。」

悠莉も困ったように頬に手を当てる。

視線が葵衣に向く。

「その件に関しては第二次ジュエル計画の中に解決案が盛り込まれております。皆様、こちらをご覧ください。」

葵衣が全員にレジュメを配る。

「『プロジェクトジュエル要綱』ですか。」

「詳細はお読みいただければ分かりますが簡単にご説明します。まず、現在の純乙女会は解散します。」

「解散?そうしたらジュエルはどうするの?」

緑里の質問に葵衣は頷く。

「この解散という措置は今後のジュエルが壱葉に留まらず全国、全世界へと展開していく事への措置です。」

「確かに壱葉高校の乙女会の下部組織じゃここの生徒の管理しかできないからね。」

良子が資料を見て嫌そうに顔をしかめながら聞いた話に関する意見を述べる。

「良子様の仰る通り私たちがすべてのジュエルを統率しようとするには構成員が多すぎます。そこでお嬢様との検討を重ねた結果、…」

ピラリとレジュメを捲るとそこには強調された文字が並んでいた。


「ジュエルクラブを新たに設立することに決定しました。」


「ジュエルクラブ?」

「各地にWVeの支店を展開し、ネットにはジュエリアクラブとしてその存在を公開します。表向きはWVeの会員となりますがジュエルが覚醒された方には暗証番号が記憶され、隠しページからジュエルクラブへ招待されるシステムになります。」

「今まではボクたちが指導していたジュエルをWVeで管理するんだ。でも訓練とかはどうするの?ボクたちが出張する?」

近隣ならまだしも遠出や海外派遣となると学生であるソーサリスには厳しくなる。

当然理解している葵衣は首を横に振ってページを捲る。

「お嬢様が信頼のおける方を選出しインストラクターとして派遣されます。新規ジュエルにはヴァルキリーへの忠誠だけではなく守秘義務の暗示も組み込まれており情報漏洩にも配慮がされていますので壱葉から離れた地でも不祥事の発生を抑制できると考えられます。さらにはヴァルキリーへの昇格を排し、ジュエル内での順列を儲け、高位の方には褒賞を与える制度も検討中です。」

これまではヴァルキリー(乙女会)への昇格を餌にジュエルの士気を高めていた。

しかし実際は誰1人としてジュエルからソーサリスに格上げになった者はいない。

それはそもそもソーサリスとジュエルが違うものだから。

これからはヴァルキリーの存在を知らないままジュエルになる人が増えていくため、ジュエルの中で士気を高めるための配慮だった。

聞き終えたソーサリスは感心した様子で冊子を眺めていた。

「いつ頃プロジェクトが始まるんですか?」

「現在ジュエリアの生産を急ピッチで行っている段階です。予定では5月上旬、ゴールデン・ウィーク中にプロジェクトを始動することになっております。」

「ならこれからだね。うちの部員もそれに入れるんでしょ?」

「はい。通知はいたしますが良子様からもお伝えいただけると助かります。」

ジュエル計画が順調に進んでいるのがわかり良子と悠莉は喜んでいたが緑里と美保はまだどこか不機嫌そうだった。

「ボクのジュエル、式が全然使えないんだけど?」

「あたしの方もレイズハートとか光刃が使えないですよ?」

2人は自分たちのジュエルについての不満が残っていた。

良子はアルミナが直球ど真ん中でバラスが使えなくなった以外は形状も長斧なので遜色なかった。

葵衣はウインドロードが使えない以上基本的には何を使っても同じなため風を操れるエルバイトになっている。

だが美保にアルミナ、緑里にクォーツはどちらも特性とあっておらずグラマリーが使えない状態だった。

「以前解析したデータから美保様と姉さんは『ベリロス』と呼ばれる力の流れに当たるようです。現在ジュエルの種類を増加させるべく研究されていますので完成までもうしばらくお待ちください。」

葵衣は分かっていたようにスラスラと答えた。

結局のところ現在のジュエルを使っていろということに変わりはない。

美保はテーブルに頬杖をついて紅茶に手を伸ばし、緑里は机にだらしなく倒れ込んだ。

葵衣は緑里を横目で見つつさらに続ける。

「続いて"Innocent Vision"の動向についてですが…」

その前置きで全員が葵衣を見た。

表情は各々異なるが概ね真剣だった。

「いくつか不可解な点は見られますが基本的には主だった活動はしていないようです。先日、作倉叶様が新しいリーダーに抜擢されたとのことですがその真意は不明です。」

全員が叶を思い浮かべる。

ファブレとの戦いでは主に回復役として活躍した叶がリーダーとしてはどうなのか、ほとんど付き合いのないヴァルキリーのソーサリスたちには判断できない。

「リーダーを決めて動かなきゃならない何かがあるってことよね?ジュエル計画についてバレたんじゃなければ何をしようとしているのか、興味ありますよね?」

美保がクックッと笑いながら提案する。

美保の不気味な笑いに緑里が怪訝な顔をした。

「何する気?」

「このまま訓練だけってのもつまらないですよね?だからちょっとお話を聞くついでに遊んでもらおうかと。」

「それでしたら私も一口乗らせていただきます。」

美保と悠莉は"遊び"の計画を練り始めたが誰も止めようとはしなかった。

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