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Akashic Vision  作者: MCFL
102/266

第102話 囚われの太宮院様

ギャギャギャギャ

ものすごい音を響かせて玻璃とセレスタイト・サルファがぶつかり合う。

振動はセレスタイト・サルファを伝わって葵衣自身を揺さぶり腕の力を削いでいく。

「振動剣による攻撃力の低下、超音振による意識の略奪。クリスタロスは相手の力を奪う能力に長けていますね。」

葵衣はすぐさまつばぜり合いから脱して中距離を維持する。

近づきすぎれば再び剣が迫り、離れると音震波が襲ってくる。

葵衣が戦うには中距離しかなかった。

周囲にデュアルジュエルによって発動したサンスフィアを展開しつつジュエルを正眼で構える。

「バッドステータスを与える魔法使いってわけか?なるほどな。」

由良は初めて気付いたようにクッと笑う。

初期の"Innocent Vision"はアタッカーの明夜、キャスターの由良、ディフェンダーの蘭に参謀の陸という布陣だった。

それが最盛期にはアタッカーに真奈美、キャスターに八重花、ヒーラーに叶とパーティーとして最適なバランスを誇っていた。

今の"Innocent Vision"は真奈美と海のアタッカーと由良・八重花のキャスターが2人ずつと叶のヒーラー1人の攻撃重視型。

「俺たちが攻勢に出たらジュエルを2本装備したくらいでヴァルキリーに止められるか?」

由良が玻璃を天に向けて掲げる。

振動で生み出された波が重なり大きくなっていく。

それは由良を中心とした竜巻となりつつあった。

「止められるかではありません。止めなければならないのです。」

短い言葉に思いを凝縮して葵衣もセレスタイト・サルファに風を幾重にも纏わせていく。

「吹っ飛べ、激震波!」

「デュアルグラマリー・サンブラスト。」

暴風に対して風と日の剣が真っ向から衝突し周囲を薙ぎ払う衝撃波を生み出した。




「くっ、暴れすぎよ、由良。」

八重花は左腕で飛んでくる砂埃を防ぎながら顔をしかめる。

由良たちの戦いの余波が近くにいた八重花にも襲ってきたのだ。

「隙あり!式!」

八重花が視線を逸らしたタイミングで緑里が式を放つが暴風に煽られて飛んでいってしまった。

「ああっ!?」

「紙の式をこの状況で使うなんてダメね。ここは物質ではない光刃が正解よ。」

八重花がジオードを大上段に構える。

燃える炎が風を受けて瞬く間に大きくなっていく。

風は火を消すこともあるが上手く使えば火を炎にまで猛り上がらせもする。

緑里の周囲にはすでに多くの木々が灰になって虚空を風に乗って舞っており地に足をつけている木はまばらだった。

「木をまるごと飲み込む炎の津波、防ぎきれるかしら?」

「え、あれ、なんで木が逃げてんの?」

八重花の本気に種の存亡の危機を感じたのか木は緑里を守るどころか道を開けた。

木の防御を当てにしていた緑里は周囲を見回すが木は視線をそらすように幹を捻っている。

ジオードが生み出す炎が剣に巻き付いて荒れ狂う。

気流の乱れで髪をはためかせながら八重花は笑う。

「グラマリー・アーデントレッド!」

「わあー!」

赤き情熱の炎が大爆発を引き起こした。




ドーン

「何事です!?」

「炎…東條八重花ね。」

ギリと歯を剥き出しにして苛立ちを露にする美保はその目を目の前の木に向けた。

「こっちはこっちでウザったいし。さっさと殺されなさいよ。」

すでに迎合ではなく殺す気満々だが撫子は訂正しない。

戦って改めて"Innocent Vision"が御しがたい力を持つ組織だと分かってしまったからだ。

撫子はルビヌスを纏うアヴェンチュリン・クォーザイトを握りしめると木の下まで移動し

「はっ!」

幹をおもいっきり叩いた。

ドォン

局所的に直下型地震を受けたように激しく揺れる木から真奈美がコロンと落ちてきた。

「カブトムシの取り方みたいですね。覚悟!」

「覚悟しないよ。」

真奈美は落っこちてきた割には冷静に美保の斬撃を避けて飛び退く。

「木の上に潜んでも今のように落としてあげましょう。まだかくれんぼを続けますか?」

真奈美が撫子1人を標的にしていたように、撫子は攻撃を美保に任せて自身は真奈美の動きを封じることにしたのだ。

攻撃する対象に攻撃を妨害されては美保への対応が難しくなる。

「ふぅ、さすがに1人だと厳しいかな。」

そう呟きながらも真奈美の瞳に弱気は宿っていない。

追い詰めたはずの相手がまだ余裕を見せていることに撫子は警戒し、美保は憤る。

「さっさと諦めてやられなさいよ!」

美保がレイズハートを放ったのと同時に真奈美は地面ギリギリを滑るように駆けてレイズハートの下を潜り抜けた。

そのまま美保に迫るが

「それで避けたつもり?甘いわよ!」

美保がスマラグド・ベリロスを大きく振り回すとまっすぐ飛んでいたレイズハートは縦に旋回し真奈美の背中に向かう進路を取った。

真奈美が攻撃を仕掛けるよりも先にレイズハートが到達する。

「喰らいなさい!」

グンッ

美保の視線の先にいた真奈美がさらに体勢を低くし、地面に手をついた。

「今さら止まったって…」

「止まらない、よ!」

掛け声と共にスピネルが光を放ち、倒立する要領でレイズハートを切り裂いた。

「は!?」

美保の目の前にはスカートが盛大に捲れてスパッツが見えているだけ。

その上から迫っていた翠の光は礫となって消え去った。

「まだです、美保さん!」

撫子の声にはっと意識を戻す。

真奈美の光も勢いも衰えてはいない。

倒れ込む勢いに腕での反動を足した光の斬撃が放たれる。

「ガンマスピナ!」

「ぐぅ!」

咄嗟にスマラグド・ベリロスで防御したが魔剣の身体能力強化が弱まって押し返せない。

「美保さん!」

撫子は無防備な真奈美の胴体にアヴェンチュリン・クォーザイトを振り降ろした。

「おおお!」

「うわぁ!」

だが真奈美はハンドスプリングのように腕の力で上体を浮かせるとあろうことかスピネルを支点に体を跳ね上げた。

美保を蹴り落とす踏み台にして撫子の一撃をかわす。

「避けたというのですか!?」

撫子は避けたことを驚いているが、本当に驚くべきはここから。

何故なら、真奈美の攻撃はまだ終わっていない。

上体を跳ねあげた反動で真奈美は風車のようにくるくると回る。

スピネルの光が増し回転する光の輪を生み出した。

「!美保さん、まだ来ます!」

撫子が防御し、蹴り倒れていた美保が慌てて横に転がった直後

「デルタスピナー!」

三日月状の斬撃が発生した。

「ぐうう、ああ!」

錫杖で受け止めた撫子は防御の姿勢のまま近くの木に背中をぶつけるまで弾き飛ばされ、美保が避けたギリギリのところまで地面に斬撃の傷痕が残された。

ビリビリと痺れるように痛む手でジュエルを手にする撫子の側に美保が慌てて駆け寄って2人して真奈美を睨む。

着地してしゃがんでいた真奈美はゆっくりと立ち上がり右手で汗を拭った。

ヴァルキリー2人に恐怖を植え付けた相手は一勝負した後みたいな爽やかさだった。

「やっぱりあたしはこういう戦い方が合ってるみたいだね。だったらかくれんぼは終わりでいいかな?」

「花鳳先輩?」

「…早まったかもしれませんね。」

ようやく真奈美を木の上から引きずり落としたはいいが早速後悔し始めていた撫子たちであった。




「あちこちで戦ってる。今のうちに琴お姉ちゃんを助けよう。」

叶は別荘に向かって急いでいた。

さっき良子みたいな彫像の前を通りすぎたがあれがなんだったのかは分からない。

森を逃走中に叶を見つけて駆け寄ったが例のごとくディアマンテで停止させられていたなどと叶が知るわけもない。

ちなみに駆け寄った理由が海から助けてほしいという情けない理由だということももちろん知らない。

「ヴァルキリーの別荘だからそれぞれの像があるのかも。お金持ちだもんね。」

間違った金持ち観で納得しつつ森を進んでいくと明かりのついた建物が見えてきた。

「あれかな?」

叶は一応周囲を見回して誰もいないことを確認しながら堂々と正面玄関に立つ。

コンコン

「誰もいない…ですよね?」

しかもノックまでしてドアを開ける。

これで返事があったらどうするつもりだったのか、幸い返事はなかったので中に入った。

慌てて飛び出したためヴァルキリーメンバーの飲みかけのお茶のカップがテーブルの上に置いてある。

「琴お姉ちゃん、どこですか?」

どこに人が潜んでいるかもしれないので小さめに呼び掛けるがそれでは当然琴にも聞こえない。

それほど広くない建物なので広間の他は奥に寝室に当たる数室があるだけのようだった。

「…あ…」

その奥の部屋から微かに声が聞こえてきた。

「琴お姉ちゃん?」

返事をしてくれたのかと呼び掛けるが返事はない。

だが耳を澄ませると話し声のようなものが聞こえた気がした。

「こっち?」

違う人の可能性もあったが叶は奥へ足を伸ばす。

近づくごとにはっきりと聞こえてきたがドアが閉じているせいでくぐもっていてはっきりとは聞こえない。

「もうだめ、です…」

部屋の前に到着するとはっきりと琴の声が聞こえた。

追い詰められた声に琴が限界に近いのだと知った叶は慌ててドアに手をかけた。

「琴お姉ちゃん!」

バンッ

勢いよくドアを開けた先には


「え?」

天井から吊るされたまま巫女装束を着崩した琴と


「あら?」

その琴を後ろから抱きすくめて顔を寄せている悠莉がいた。


「はわぁ…」

叶はそこにヴァルキリーの悠莉がいることなど完全にブッ飛んでいて顔を真っ赤にしたまま慌てて顔を手で覆った。

指の隙間から見ても琴は頬が上気していて色っぽく、悠莉は女王様みたいに嗜虐的な笑みを浮かべている。

それはどう見ても同性愛者のそれだった。

「叶さ…」

「琴お姉ちゃん…。お幸せに。」

パタン

叶はペコリと頭を下げるとドアを閉めた。

歪んでいるとは思うけど愛し合う2人を邪魔することなど叶には出来ない。

「あー!待ってください、叶さーん!」

なんだか本気で泣きそうな声で呼んでいる気がするが今さらピンク色をしていそうな部屋に入る気は起こらなかった。

叶はドアに背を預けたまま胸に手を当てて気を落ち着けていた。

ガチャ

すると部屋の中からドアが開いて悠莉が出てきた。

「わっ!」

ようやくヴァルキリーを前にしているのだと思い至って身を引き締めるが悠莉は穏やかな笑みを浮かべたままだ。

だが敵だと分かっていても聞かなければならなかった。

「あの、琴お姉ちゃんはいいんですか?」

悠莉はキョトンとしたあとクスクスと笑った。

「助けに来た作倉叶さんがそれを言っては太宮院琴さんが泣いてしまいますよ?」

「は、はぁ。」

叶はよく分かっていないので悠莉はまたおかしそうにしていた。

ある意味盛大に精神的なトドメとなって今ならば琴を簡単に陥落させられそうだったがさすがにそこまでアンフェアにもなれないらしい。

「そうですね。あなたがそうだからこそ…。ふふ、お迎えに来られたようですがヴァルキリーの一員として未来視を持つ太宮院琴さんを連れ戻されるわけにはいきません。」

悠莉の左目が朱色に輝き、その手にサフェイロス・アルミナが現れる。

「来て、オリビン!」

叶もすぐにオリビンを顕現させ右目が青く輝きを放つ。

薄暗い廊下で朱色と青色の瞳が見つめ合う。

「花鳳様の別荘を壊すわけにもいきません。外に出ましょうか。」

「はい。」

琴を心配しながらも叶は頷いた。

悠莉は先んじて外に向かって歩き背後からの攻撃をする意志がないことを示す。

「ここでいいですか?」

「はい。あんまり琴お姉ちゃんから離れるのも心配ですから。」

別荘の前に出た2人は距離を置いて対峙した。

まだ森のあちこちから戦闘の生み出す音が響いている。

「あまり戦闘向きではない私たちの戦いとは、面白いですね。」

片や回復能力を持つシンボル、片や障壁を作り上げる防御型のジュエル。

デュアルジュエルとして式を持っているがこちらもコランダムの補助に用いているので緑里のような攻撃用ではない。

武器で殴り合うタイプではないのでどのように戦うかどちらも判断できなかった。

「私が勝ったら琴お姉ちゃんは返してもらいます。」

「それは構いませんが、ここから助け出しても森にいるヴァルキリーの妨害は止められませんよ?」

悠莉はさりげなく言葉で相手を追い詰める術を持つ。

戦いがここで終わりではないと知ればどうしても力を温存するようになり、結果として悠莉と戦う力は弱まる。

ほぼ無意識の行動を誘導する悠莉の話術だった。

叶の体が緊張したのが分かる。

叶は表情の変化も素直なので分かりやすいが相手のわずかな変化から相手の感情を読み取る技術も悠莉は持っていた。

恐怖を悟られまいとしている相手にその恐怖心を指摘した時に見せる驚愕や絶望を見たいがために会得した一種の読心術だ。

実に歪んだ乙女である。

「…」

叶は悠莉から目を逸らさないながらも戸惑いが見て取れた。

ゴウッ

ドーン

遠くで竜巻が発生して木々を舞い上げ、炎が大爆発した。

かなり遠いというのに折れた太い枝が叶のすぐ近くに落ちてきた。

悠莉ですらヒヤリとする落下物に対して

(笑っている?)

叶は怯えではなく笑みを見せていた。

怯えを越えた壊れた笑みではない。

悠莉はその感情の変化を知らない。

叶は落ちてきた木に手を触れるとまっすぐに悠莉を見た。

そこに緊張や怯えはない。

「"Innocent Vision"のみんなが抑えてくれます。だから私は下沢さんに絶対に勝って琴お姉ちゃんを助けます。」

戦闘向きでない叶は強い決意を示してオリビンを構えた。

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