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魔道具修復士と魔術師

 シリルが突然連れて帰ってきたその男性が胸元からペンダントを取り出した。


「この魔道具の修復をこの子に合うようにお願いしたいのだが、出来るだろうか?」

 レイラは懐かしいそのペンダントをその男性から受け取ると、ぽろぽろと涙を流しながら、何度も何度も頷く。


「…ありがとう。テオドール」

「うん。ずっと探したよ。レイラ」


 ふたりは自然と抱きしめ合い、何事かと出てきたリアンさんもふたりの様子を見るなり、エプロンで涙を拭った。




「シリルは眠ったか?」

「ええ、やっと寝たわ。初めてのお客様に興奮したみたい」

 レイラは慣れた手つきでテオドールにお茶を淹れ、テーブルの席に着いた。


「何から話そうか。ずっとレイラに話したいことがたくさんあったのに、本人を目の前にするとなにも思い出せない。でもまずはレイラに謝りたいことがある」

 テオドールはそう言うと、座り直して姿勢を正し、眉間にしわを寄せ緊張の面持ちになった。その様子からして、今からかなり言いにくいことを言うのだろうとすぐに察しがついた。


「私の本当の名をレイラに伝えていない。私の本当の名はセオドア・ウォーカーだ。本当に申し訳なかった。これをレイラに伝えていなかったためにレイラを随分と苦しめてしまった」

 レイラは微動だにせず、頭を下げるテオドールをじっと見ている。

 しばらく沈黙の後にレイラが口を開いた。

「もしかしてセオドアとテオドールのスペルはほぼ一緒ではないかしら?「TheodoreとTheodor」いずれも神の贈り物という意味ですよね」

 俯いていたテオドールが顔を上げる。

「なぜ、それを」

「私は魔道具修復士ですよ」

 レイラが苦笑いをし、4年ぶりに自分の胸元に戻ったペンダントを取り出した。

「このペンダントに書き込まれた古い術式を消し、新しい術式を入れる時に「複製」を使いました。あなたがご自分の私室に怪我をした私を運んだ時に転移の魔法陣を展開しましたよね。それを複製したときに初めて「セオドア・ウォーカーの名の元に発動させる」という詠唱があることに気づいたのです」

「複製?」

 レイラは申し訳なさそうに目を伏せた。

「私があなたの私室から外に出るのに、扉から出ることは出来ないでしょう。それにどこに転移したのかもわからない。だからこのペンダントの魔道具であなたが展開した魔法陣を複製をして、そしていままで抑制していた自分の魔力を「解放」して元にいた場所に転移したの。私も魔力が多いから、このペンダントで魔力を抑制していたのだけど、さすがに転移となると、自分の魔力を解放しないと転移できなかったの」

 テオドールはレイラの髪の色と瞳の色が自分と同じ黒色になっていることは再会したときに気づいていたが、この話からもうひとつのことに気づいた。

「では、レイラは私が「テオドール」と婚約者の「セオドア・ウォーカー」と同一人物だとわかっていても、姿を消したのか?」

 レイラはまっすぐにテオドールを見据えた。

「そうよ。確信はなかったけど。あの時はずっと家を出るために、魔道具修復の店で仕事をもらいながらお金を貯めていたの。もうあなたは知っているかもしれないけど、私はあのとき継母とロザリアからかなりひどく虐げられていたわ。だから、あとはあなたに婚約を解消してもらえたら、すぐに家を出るつもりだった。私が愛した最初で最後の男に抱かれたときに最初で最後のその思い出だけでひとりで生きていく覚悟を決めたの。それに、なんとなくわかったのよ」

 口にすることを恥ずかしそうにレイラが一瞬ためらった。


「だから、その…あなたとひとつになる行為をしてシルコット家の帰路に就く途中で、なんとなくわかったのよ。妊娠する予感がしたのよ」

「そんなことが…」

「信じられないかも知れないけど「自分のものでない魔力」を自分の身体の中に感じたの。だから、シルコット侯爵家からシリルを守ることを選んだの」


 テオドールはレイラのその言葉を聞くと天を仰いだ。そしてまるで神に感謝のことばを述べるように呟いた。

「レイラ、ありがと…う…」

 最後のほうは涙声で言葉になっていなかった。

 

 感極まったテオドールは自分の感情を落ちつけようと深く呼吸をする。

「私がシリルを見つけて、あの子に初めて触れた時、自分と同じ魔力を感じて間違いなく自分の子だと確信したよ。それに忘れることのできない魔力も感じた。レイラ、きみのね」

 テオドールは真っすぐに涙で潤むレイラの瞳を見る。

 「レイラ、怒らないで聞いて。実はまだ私たちは婚約解消をしていない」

「えっ!どうして?4年も時間はあったのよ」

 前のめり気味になって、レイラは驚きの表情を隠そうともしない。それだけ、もうセオドア・ウォーカーとの縁は切れたと思っていたのだろう。

 

「ずっと今日のような日がくると信じていた。だからね、魔術師副団長として遠征に出るたびに時間を見つけてはレイラを探していた」

「テオドール…」

 テオドールは席を立ち、レイラの傍に行くと跪き、レイラに手を差し出した。

「レイラ・シルコット。このセオドア・ウォーカーは貴女が思い出せないぐらい幼い時に出会ったその瞬間からずっと貴女を愛している。どうか私と結婚してください」

 テオドールは祈るような気持ちで、レイラが自分が差し出した手を取ってくれることをレイラにわからないようになにかを口の中で呟きながら待つ。

 「はい…」

 レイラが返事をし、テオドールの手を取った瞬間、レイラの左手の薬指が光に包まれると、その指には指輪が嵌められていた。

「えっ!!」

「忘れていないかい。私は当代きっての魔術師だよ」

 テオドールは満面の笑みで応えた。

「いつのまに?」

「さあね。それよりも私達の大事な「シークレットベビー」をどう守っていこうかね。シリルは当代きっての魔術師と魔道具修復士の魔力を受け継いでいるとんでもないシークレットベビーだよ」




シークレットベビー企画

主催 氷雨そら先生 ありがとうございました!


⭐︎この後の続きが気になる方がおられましたら、⭐︎やブクマをお願いします。

たくさんのお声を頂いたら、当代きっての魔道具修復士と魔術師がどうシークレットベビーを守っていくのか、第2章を書いてみようかな。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
一気に読みました!面白かったー! 素敵なお話をありがとうございました。 続き気になりますー!!! 特に元の婚約のまま結婚することで実家と変な繋がりが残らないか心配なので、ちゃんと幸せになった3人を見…
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