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魔術師は見つけた

「おかあしゃま、あそびにいってきましゅう」

「はい、わかりました。シリル、ママはお仕事のお話をここでしているからあまり遠くに行かないでね。そうしないと怖いおじさんに連れていかれてしまいますからね」

「あーい!」


 レイラがテオドールの元から姿を消してから4年の月日が経った。

 いま、ここはサタベィル王国の辺境の地、テモティールの裏路地だ。

 あれから、レイラは一度だけ屋敷に現れたらしい。そのあとは誰にも姿を確認されていない。

 それでもシルコット侯爵はレイラを探すこともなく、ウォーカー家とセオドアに事情の説明の面会に来た時も淡々と報告をするのみだった。

 

 いま、レイラはこの辺境の地で魔道具修復士として、仕事をしている。

 辺境の地は、隣国との国境で大きな森と接している。

 そのため魔獣の出没が頻繁なため、魔道具で魔獣を討伐をするのに、その魔道具の修理やメンテナンス作業で魔道具修復士の需要が高い。


「シリルちゃん、よくしゃべるようになったね」

「そうなんです。3歳になった途端によくしゃべるようになりました」

 長く伸びた黒い髪を横に流し束ねながら、レイラは自分の子どものシリルを褒められて、うれしそうに笑った。

「ますますシリルちゃんは男前になっていくね。あの黒髪に黒い瞳はレイラちゃんに似たのかい?それとも父親かい?」

「そうですね。どうでしょう」

 レイラはその問いに微笑むとそれ以上に、シリルの父親について語ることはない。


「若くて美人なあんたを紹介してほしい男は多いよ。その気になったらいつでも言いに来な。シリルちゃんを育てていくには父親がいたほうがいいだろう。お前さんは魔道具修復士として、生計は立てていけるがこんな世の中だ。無用心だよ。男手があった方がいいに決まっているんだ。私らもいつまでも元気でいられるかわからないんだしね」

 レイラがこの街にたどり着いた時から、親代わりとして面倒をみてくれている魔道具屋の女将リアンが、レイラの背中を励ますように叩いた。

「そんなことよりも修復の仕事が砦から来ている。頼まれてくれるかい?」

 魔道具屋の女将に、壊れかけた魔道具を渡された。


「珍しい。剣なんですね。しかも年季が入っている。魔術師の方からのご依頼ですか?」

「最近、魔獣の出現が頻繁だからね。王都から魔術師が来ているらしくってその魔術師のものだ。この間の討伐で折れそうになったらしくて、その…修復はレイラちゃん、できそうか?」

 レイラはいつものごとく、優しく自分の魔力をその剣に流し込んでみる。

 魔道具に書き込まれた術式が浮かび上がるが、一見では読み切れないほどの術式が書いてある。


「リアンさん、この魔道具の術式、すごく面倒なんですけど」

「つまりはお前さんしかできないってことだろう」

 ははは…とレイラは力なく笑う。


「これは骨が折れる作業になりそうですね。でもやってみます」

「レイラちゃん、助かるよ。王都でも修復できなかったらしいんだ」





「おーい、シリル。あれをとってほしい」

 子どもが5人ほどでたわわに実った柘榴の木を見上げていた。

 おいしそうだよね。指さしながらあれが良いだの、やっぱりこれが良いだの口々に言い合っている。

「できるか?」

「たぶんできるよ」

 口々に話していた子どもたちがシリルの方を一斉に見る。

 シリルはにこにこ笑いながら、短い詠唱をした。


 すると柘榴の木から、ひとつだけぽとっと、柘榴が転がり落ちた。


「おおっ!シリルすげぇー」

「やるな!」

「どうやったんだよ」

「あれはね」


「あれは、基本的な詠唱だろう。「ひとつだけ」「落ちろ」だな坊主。そんなに小さいのによくできました」

 シリルは知らない大人の男性に褒められて頭をポンと撫でられた。

 その大人の男性はシリルに触れた瞬間、驚き、シリルを撫でた手を見つめたまま固まった。

 そして、ようやく動いたかと思うと、しゃがんでシリルの顔をまじまじと見た。

 「うん。そうだよ。おじさんもできるの?」

 シリルは褒められたことがうれしくなって、その男に警戒することを忘れてシリルは男に話しかけた。


「…ああ、私もできるぞ。でも私が詠唱するなら、「熟したもの」も入れるぞ」

 その男は驚いた表情のまま、なんとかシリルの問いに答えた。

 そうするとシリルは顔を輝かせる。

「おじさんはすごいね!「じゅくす」はどんなことばなの?」

 その男は、涙をためながら口角を上げた。


「ママのもとに案内してくれたら、「じゅくす」の詠唱を教えてやるぞ!」


 そのやり取りのそばで、落とした柘榴を割って食べてみた子どもが「すっぱーい」と叫んでいた。



「ママー!おきゃくしゃまよぉ!」

 リアンの魔道具屋で仕事をしていたレイラの元にシリルが大人の男性の手をひいて帰ってきた。

「シリル?」


 レイラはその男性を見るなり、口元を手で押さえ、息をのむ。

「腕の良い、魔道具修復士がここにいると聞いたんだが合っているかな?」

「ええ、どんな魔道具でも修復して見せますよ」

 レイラが溢れる涙を拭こうともせず、満面の笑みで応えた。

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