魔術師は追憶する
レイラ…
どこにいるんだ。長年、思い続けたレイラとやっと一つになれたのに。
あの日、やっとレイラを自分の腕の中に閉じ込め肌を重ねることができた。それなのに幸せな時間から目覚めるとシーツに残り香を残しレイラは消えていた。
時が経つにつれて、あの時間は幸せな幻だったのではないだろうか。そう錯覚してしまう日もある。
それでもレイラが残したたったひとつの魔道具だけは手元に残っており、これがあの日は幻ではなかったと教えてくれる。
レイラを抱いたときにレイラが身につけていたペンダント型の魔道具。
亡くなった母の物をすべて処分されたいま、唯一の遺品だと言っていたのに、それを私の手元に残してくれたことにレイラの愛を感じられずにはいられない。
「私を忘れないで」そう思ってレイラが残してくれたと信じている。
私は公爵家次男で王宮の魔術師団の副団長セオドア・ウォーカーだ。
そして、「テオドール」として、レイラに会いに魔道具修復の店を訪れていた。
婚約の顔合わせをしたあの日は、魔獣討伐の後で徹夜明けで行ったのがそもそも間違いだった。
レイラをないがしろにしていると思われても仕方ない服装に態度。
普段は仕事に厳しく無慈悲だとか冷酷だとか言われる私だが、あれは長年思いを寄せていた貴女に会えた緊張から、上手く話すことが出来ずに相槌を打つことで精いっぱいだった。
幼い時の面影を残しつつも、綺麗になったレイラ。
そして、あれから何度もシルコット侯爵家にレイラに会いに行ったが、具合が悪いとか、レイラが会うことを拒んでいるとか、なにかと言い訳をされては一度も会うことは叶わず、顔合わせの日の挽回が叶わなかった。
代わりに出てくるのは甘えた声でやたらと私にべたべたと触り続けるロザリア。不快そのものだった。
それでもレイラの義妹だからと我慢をしつづけたが、なにかがおかしいと気づいたのは最近だった。
シルコット侯爵家を監視させるとその異常性がわかった。
レイラが虐げられていること、たまに魔道具修復の店にレイラが現れていることを突き止めた。
だから私は幼い頃に彼女に救われたように、次は私がレイラを救いたかった。
「セオドア・ウォーカー」として会えば、萎縮させてしまう。だから、「テオドール」としてレイラに魔道具修復の店で接触した。あの店なら、ロザリアの邪魔も入らずレイラに会えた。
初めて笑う彼女を見られたときは、「テオドール」としてレイラの前に立ったことは正解だと思っていたのに、それがレイラを苦しめることになるとは思いもしなかった。
「テオドール」は「セオドア・ウォーカー」であり、レイラの婚約者だと言えていたなら、レイラは私の前から消えなかったはずだ。
私が本当のことを勇気をだして、レイラにもっと早く伝えていれば。
ただ、レイラに嫌われる勇気がなかった。レイラがテオドールに好意を持ったのは分かっていたから、その関係性を壊したくなかった。
いまは全てが言い訳でしかない。
私がまだ魔力過多で悩む少年だった12歳の頃に幼いレイラと出会っていることをレイラは覚えていないだろう。
その出会いは一瞬で、まるで吹き抜ける風のような出会いだったから。
私は魔力過多の発作で突然、震えがはじまる発作におびえる日々を過ごしていた。まだ身体も小さく、うまく魔力を抑制できる状態ではなかったのだ。
一応、魔力を抑制する魔道具を肌身離さずにペンダントとしてつけていた。
そんな時に子ども同伴のお茶会に、母に連れていかれたことがあったのだ。
子ども同士でかくれんぼしている最中に発作がはじまり、私は庭の片隅で隠れていたため、誰の助けも呼べずにひとり震えと闘っていた。
そんな私を見つけてくれたのが、レイラだった。
「どうしたの?具合悪いの?」
「お願…い。誰か、人を…母を呼んできて…」
「あなたのその震えは魔力過多の発作ね。少し待ってね」
人を呼んできて欲しいと頼んでいるのに、その少女は人を呼びに行かずに、私の首から下げていたペンダントを手に取ると、そのペンダントを彼女の小さな手のひらにのせて、魔力を込めた。
すると、不思議なことに術式が浮かんだのだ。私にはなにが書いてあるのかはわからない。だが、彼女は理解しているようだった。
古い術式を消すと、決して綺麗な字とは言えないが、なにか新しい術式を書いている。
それを書き終えると、そのペンダントを私の首に戻してくれた。
すると先ほどまでガタガタと震えていたのに、嘘のように治まった。
「どうして?」
「魔道具修復士として手の内は明かせないのでご容赦くださいませ」
そう言ってレイラは微笑む。
「きみは魔術師?」
「違うわ。魔道具修復士よ。貴方の魔力を抑制する魔道具の術式の一部が、貴方の魔力が強すぎるせいで抜け落ちたみたいね。だから、術式を修復しただけよ」
「魔道具修復士様、ありがとう」
そうお礼を言うと、レイラは恥ずかしそうにはにかんだ。
「あのね。お兄さんにお願いがあるの。このことはふたりの秘密にしてもらえる?そうしないと、お母様が悲しむの」
「もちろんだよ。ふたりだけの秘密だ。私も発作の話をすると母が悲しそうな顔をする」
たったそれだけの出会いだったけど、私はレイラに恋をした。それからいままでずっとレイラを思い続けている。
あれからすぐに両親にレイラと婚約したいと進言したが、婚約の話を進めるタイミングをシルコット侯爵夫人の闘病とご逝去で逃し、気づけばあの後妻のせいでシルコット侯爵は色よい返事をしなくなった。
だから、シルコット侯爵が投資に失敗したという話を聞きつけたときには、この機会を逃すまいとレイラの支度金をチラつかせて、ようやくレイラと婚約できることになった。
それなのに…
レイラはどこに…




