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魔道具修復士は愛を知る

 テオドールと初めての外食。

 いつもは、お継母様とロザリアに屋敷を抜け出しているのがバレるのが怖くて、急いで帰っているのだが、いまは少しでもテオドールの傍にいたかった。

 テオドールの落ち着いた声をずっと聴いていたかった。

 テオドールは甘酸っぱい生のいちごは苦手だとか、幼い頃は病弱だったとか、そんな些細なことでもテオドールのことを知れるのは喜びだった。

 テオドールがレイラを熱を籠った瞳でみていることにも、薄々気づいている。そして、自分も同じように熱の籠った瞳をテオドールに言葉で伝えていなくても返している。

 永遠にこの時間が続けば良いのに。そう願わずにはいられなかった。

 楽しい食事も「急ぎ」食べたのに、気づけばもう絶対に急いで帰らなければならないぐらいの時間が経っていた。

 「もう帰らなければ」そうテオドールに切り出す。

 お互い名残惜しい気持ちを抑え別れようとした時に、見覚えのある顔が現れた。

 その顔を見た瞬間にレイラは血の気が一瞬で引いたのが自分でわかった。そして、足元が音を立てて崩れていくような感覚に陥った。


「このアバズレ!婚約者がいる身で男となに飯を食ってんだよ!」

 そう、ロザリアに汚い言葉で罵られ、一瞬のうちに顔を引っ叩かれ、レイラの身体は地面へと吹っ飛んだ。

 そして、地面に転倒したレイラの手を掴むどころか、ひとつの束に纏めていた髪を掴まれ頭をグイっと引っ張られる。

「い、痛いっ!」

「帰ったらお仕置きだ。わかっているんだろうな」

 髪を掴まれ、引きずられるようになったところで、テオドールがロザリアの手を掴み、レイラとロザリアを引き離した。


「お前は自分のになにをしているのか、わかっているのか」

 テオドールはレイラが聞いたこともないような怒りを抑えた低い声でロザリアに問うた。

 ロザリアはテオドールの顔を見ると驚愕の表情で「ありえない」と呟いたあとは、訳のわからないことを叫び、テオドールに手を掴まれても暴言を吐き暴れ続けた。

「ううっっ、この女が全て悪いのよ。お母様に言いつけてやる」

 そんな捨て台詞をロザリアは吐くと、テオドールの手を力強く振りほどき、扇子を投げつけてきた。

 そして自分の側仕えを怒鳴りつけると、一緒に屋敷の馬車に飛び乗って、レイラを置き去りにして帰っていく。

 一瞬の出来事に呆然としてしまうが、次の瞬間、すぐに屋敷に帰らなければさらに状況は悪化することにレイラは気づく。


「怪我はしていないのか?」

 テオドールの手によってようやく地面から起こされ、手足を確認すると、手足は擦りむき、右頬は真っ赤に腫れあがっていた。

「大したことはありません」

(今日はこれぐらいでまだマシだったわ。それよりも早く屋敷に帰らなければ)

(でも、もうテオドールには名ばかりだと言っても婚約者がいることもバレてしまった。すべてを説明しなければ。私がテオドールに恋をしたばかりにテオドールを私の事情に巻き込んでしまったわ)


「テオドール、私の妹が大変失礼しました。申し訳ございません。怪我はありませんか?今日はこれで失礼させていただき、後日説明とお詫びをさせていただきます」

 自分で言っていて気づく。婚約者がいるのだからもうこれ以上、テオドールに会ってはいけないと。

「あっ、でもこれ以上、テオドールにお会いすると迷惑をお掛けすることになります…ね。会うのをやめた方が…」

 目の前のテオドールが見たこともないような悲痛な表情でレイラを見ていることに気づく。

(私に会えなくなるだけでなんて顔をしているの。私もあなたに会えなくなるのは辛い)

 涙が滲んでテオドールがだんだん見えなくなってくる。


 ロザリアに殴られてもいつものことだとひょうひょうとしているレイラを黙ってみていたテオドールだったが、レイラの足から血が流れているのを見つけ、そしてもう自分に会えないと口にするレイラに我慢できなかった。

 「もう今日は屋敷に帰るな。明日、私とレイラの屋敷に行こう。それですべては解決する。まずはこの怪我の手当てをするのが先決だ」

 「えっ?だから、私には名ばかりのこんや…」

 最後まで言葉を言わせてもらえず、あっという間にテオドールに横抱きをされると、テオドールが詠唱を始めた。するとすぐに大きな魔法陣がテオドールの足元に出現した。

「えっ?テオドールこれは?」

「私にしっかり掴まっていなさい。転移するぞ」

 テオドールの魔力が相当なものだとはわかっていたが、これほどのものだとはわかっていなかった。

 彼は本当に魔術師なのだ。

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