魔道具修復士は恋をする
それからというもの、テオドールは魔術師として使っている魔道具の修復の仕事の依頼をレイラに持ってくるようになった。
レイラが魔道具の修復の納品に行くと、店にテオドールが必ずいるのだ。
「また、ここに来たの」
レイラはそう言いながらも微笑んでしまう。
どうやら、テオドールはレイラが来る日を予め店主に聞いているようだったが、レイラはそれが嫌でなかった。
というのも、店主に店の奥を借り、ふたりで議論しながらテオドールが持ち込んだ魔道具を修復していく過程が楽しかった。
テオドールに深入りしたら、自分のことも話さないといけなくなるので、あまり深入りはしないようにレイラは気を付けていたが、どうやらテオドールは王宮で魔術師として仕事をしているらしかった。だからなのだろう、テオドールはとても聡明で幅広い知識を有し、議論を交わす相手としては十分だった。
レイラは魔道具の修復を王宮で魔道具修復士として働いていた母からひとつずつ教わった。
しかし母はレイラにこのことは誰にも言ってはならないと、強く厳命していた。
そのこともあって今までレイラは誰にも魔道具修復の話をすることはできなかったのだが、テオドールの前だとレイラが魔道具修復士であるとわかっているので遠慮なく話せることもレイラが心を許してしまう一因だった。
屋敷から抜け出せるわずかな時間だったが、レイラにとってはそれがかけがえのない時間になっていった。
そして、レイラがテオドールに恋をするには十分な時間だった。
「今日は一緒に外でランチを食べないか?」
テオドールが初めて食事を誘ってきた。耳まで赤く染めながら手を差し出してくる。
レイラは名ばかりのセオドア・ウォーカーという冷酷魔術師の悪名高き公爵家の次男の婚約者がいるが、テオドールにはそのことはまだ言えてない。
いつかは言わなければならないとずっと心に引かかっている。
恥ずかしいから早く手を取ってと、困ったような熱い眼差しでレイラを見つめてくるテオドール。
それが可笑しくって、うれしくって、レイラはテオドールの手をゆっくり取った。
「なるべく急いで食べるわよ」
テオドールには自分の境遇については一切話をしていない。
自分の境遇に同情はしてほしくなかったし、ただの「魔道具修復士のレイラ」として見てほしかった。
(近いうちにテオドールに全てのことを打ち明けよう)
レイラはそう心に決めた。
いまは急いで食べて帰ればなんとかなるだろうとテオドールと一緒にいたいと思う自分の心を優先した。
♦♦♦
「お姉様はどこに行ったの?」
ロザリアが使用人のひとりにレイラがいないことに気づき、声をかけた。
「この時間はレイラお嬢様はいま庭で草むしりをされてるはずですよ」
そう言われて、ロザリアは不信に思った。
(あの女、最近よく姿を消すのよね)
「テオ、お姉様がどこにいるか探して」
そう指示を出し、しばらくして使用人から耳を疑うような報告があがってきた。
(許せないわ。勝手に屋敷を抜け出すなんて。お姉様はいつだってこの屋敷で疲れた顔をしながら仕事をしているのが一番似合っているのよ。私があの女の公爵家の次男の婚約者を奪うまでは私の引き立て役としていてもらわなければ、面白くないのよ)
「お姉様を連れ戻さなきゃね。抵抗するようなら少々、手荒なまねをしてもね。戻ってきたら、うーんとお姉様にはお仕置きが必要ね。楽しみだわ」
そう言って、ロザリアが浮かべる表情を見た使用人は、その恐ろしさになにも言えなくなってしまった。




