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魔道具修復士は出会った

 今日は修復した魔道具の納品日だ。

 ロザリアとお継母様の動きを見ながら、なんとか昼過ぎに屋敷を抜け出すことに成功した。

 いつもの王都カドーの片隅に店を構える魔道具修復の店に行くと、ひとりの黒髪の若い男性がレイラを待っていた。


「悪いな。この間納品してもらった魔道具を修復した魔道具修復士にどうしても会いたいと言われてな」

 店主は断り切れなかったのだろう。非常に申し訳なさそうにする。

 どうやら、その男はレイラに話があるようだった。

 レイラの家の事情を理解した上で、魔道具修復士としての腕を信用して、仕事を渡してくれる店主のことは信用しているし、恩もあるから断る理由はない。

「大丈夫ですよ」

 ずたぼろの姿をしているとは言え、一応貴族の令嬢なので、顔がバレにくいように着てきたローブのフードを深く被り直し、その男と向き合った。


「お待たせしました。私が修復した魔道具になにか問題でも起きたのでしょうか?」

「突然ですまない。私はテオドールという名だ。テオドールと呼んでくれたら良い。先日預けた魔道具が素晴らしく動くようになったのでそのお礼と、貴女がよければ、どのように修復されているのかを一度見せていただきたい」

「私はレイラと言います。レイラとお呼びください。しかしお礼はいりません。仕事として当然のことをしたまでですし、報酬もいただいています。それと、修復の方法をここでお見せする件は難しいかと」

「簡単な修復作業で良いんだ。どうしてもだめだろうか?」

 テオドールと名乗ったその男はどうしても修復しているところを見たかったのだろうか。黒い瞳が見開き、食いつき気味に聞いてきた。

(黒い瞳…珍しい)

 

 返答に困り、店主の方を見て助けを求める。

「魔道具の修復は非常に繊細です。レイラ嬢、奥を使いな。それにレイラ嬢なら簡単に修復できる魔道具をテオドール殿から預かっている」

「ありがとうございます。使わせてもらいます」


 部屋に移動すると、店主がその男から預かった魔道具を運んできた。

「これは…子どものおもちゃですね。懐かしい」

 その懐かしさに思わず目を細める。

 母に教わった初めての魔道具の修復がこのおもちゃだった。木で作られた馬と馬車が決められた範囲をぐるぐると回るだけの単純なおもちゃだ。

 「甥のおもちゃなのだが、私がなにも考えずに触れてしまい、壊してしまったようだ」

 「触れるだけで?」

 触れるだけで魔道具のおもちゃが壊れるだなんて聞いたことがない。瞳の色が黒い人間は魔力が多いと言われているが、さっき見たこの男の瞳は黒だった。それに魔力の多さを象徴するかのような黒髪でもある。きっと彼も魔力が多いのだろう。

「ああ、私は少し他人より魔力が多いのだ。だから、常にその魔力を制御しているのだがその日は酒を飲んで、油断してしまいこの有様だ」

 お酒の失敗をテオドールは随分と反省しているのか、長身のその男が身を小さくし、整った顔立ちの眉をハの字に下げた。

「まあ」

 その様子がなんだが大きな犬が反省している様に見えて、それがとても可笑しくて思わずクスッと笑ってしまった。

「きみはそんな風に笑うのだな」

「えっ?」

「いや、なんでもない。私の独り言だ。ぜひ、このおもちゃを修復してくれないか。そうしなければ、可愛い甥から一生、口を利いてもらえない」

「それは由々しき問題ですね。では、早速取り掛かります」


 木で作られた馬と馬車にそっと自分の魔力を流し込み、おもちゃに込められた術式を浮かび上がらせる。

 

「これがこのおもちゃに込められている術式なのか?美しいな」

「そうですよ。あとはどこが壊れたのか、術式を見てやるだけです」


 この馬と馬車のおもちゃに込められた術式は 「回る」「範囲」「統制」の3つが組まれている。

 どのような魔力で触れたら、このようになってしまうのだろうか。

 術式がねじ曲がって、歪んでいるところの術式が抜け落ちていた。


「原因が見つかりましたよ。ほら、ここの術式が抜け落ちています。いますぐに新しい術式に書き換えますね」

 浮かび上がる古い術式を無効化し、新しい術式に入れ替える。使う人達の様子を思い浮かべながら、思いつきで追加で新しい術式も組み込んでおく。これを考えて作業する瞬間が一番楽しい。

 そして、テオドールはその作業をしている私をなぜか泣きそうな顔で見つめている。

 

「出来ましたよ。これであなたがお酒飲んでこのおもちゃに触れても壊れないようになりましたよ。よければ、いま魔力を解放して触れてみてください」

「まさかそんなことができるのか!」

 そう言うと、テオドールが大きな手でおもちゃを手に取り、魔力を解放する。

 強風が吹いているかのような、ものすごい魔力をレイラは感じる。でもその魔力は昔から知っているような懐かしく優しい魔力だった。


「走るか試して見てください」

 テオドールが手に持っていたおもちゃをテーブルの上に置くと、木の馬と馬車はカタカタと音を立てながら、テーブルの上をぐるぐると回り始めた。

「すごいな。本当に私が魔力を解放して触っても壊れない。どのような方法で?」

「そこは魔道具修復士として手の内は明かせないのでご容赦くださいませ。お見せできることは以上ですが、これでよろしかったでしょうか?」

 「ありがとう。私は実は魔術師なのだがとても参考になった。もし、またなにかあれば、貴女に相談しても?」

「ええ、まあ。私がこの仕事をここでしている限りは」

 家を出る計画をしていること、名ばかりの婚約者がいてまだ婚約解消をできていないことが頭をよぎり、いつまでここに来れるかはわからない。

 しかし、上品で人の良さそう満面の笑顔でテオドールに問いかけられて、断ることはできないと思った。

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