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異世界死刑囚  ― 五つの地獄譚 ―  作者: 紡里


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8/11

医聖の拷問室(前半)

 特殊刑務所から三人の死刑囚が消えた。

 異世界召喚の可能性が高いらしい。

 それなら、そろそろ自分の番かと期待が膨らむ。


 以前にも増して、異世界召喚の小説を読むようになった。


 もて囃され、大切にされる場合もある。

 ひどい扱いを受けて酷使されたり、殺されたりする場合もある。

 膨大な力を戦争に利用されることもある。


 当たり外れが大きすぎて、異世界ガチャとでも言えばいいのか……。




 寝ている間に、異世界召喚されたらしい。

 顔も洗っていないし、髪に寝癖がついているかもしれない。

 ちょっと、配慮に欠けるんじゃないの……と、初っぱなから不機嫌になってしまう。


「何? こんな所に呼びつけて、何のつもり?」

 脅すような声音になったのも、仕方ないと思う。



 浅黒い肌に入れ墨の人々。

 上半身裸で、アクセサリーをジャラジャラつけている。


 切り出された石の上に寝かされているんだけど、表面がツルツルじゃなくて、荒削りな感じ。


 ――そこはかとなく、生け贄の香りがするぞ。



「これは、一体、何のつもりか?!」

 大声で叫んでやる。

 威厳を出して、簡単にはやられないぞとアピールするのだ。



 一番豪華な装いの男が進み出てきた。おそらく、王か神官といった者だろう。


「地が闇に飲まれるのを防ぎたい。どうか、その身を神に捧げてほしい」


「はあ? 今まで何人捧げてきたのさ。それで、どれだけ保ったわけ?

 無意味なことは止めろ!」


 ガーンと背後に見えるようにショックを受けている。


「そういうさぁ、迷信に頼るのやめな? 具体的に何に困ってんの?」

 あまり追い詰めて逆上されたら困るから、優しく手を差し伸べてやる。


「……今は特に無い」

「ないのかよ! そんなんで異世界から呼ぶなや」


 現地人の反応を見るに、今まで召喚された人たちは生け贄にされてるんだろうな。


「じゃあ、歓迎の宴でも開いてもらおうか」


 王様、押しに弱そう。今まで自分より威張る人を見たことがないんだろうな。

 転げるように駆けだしていく臣下たち。

 頑張りたまえよ、と心の中でエールを送る。


 生け贄の台座から降りたら、寝間着と手のひらに赤い汚れがついていた。

 うわ、生け贄の血かよ。

 召喚する直前まで何やってたんだか。


 あれ? もしかして、生け贄を捧げて私を召喚した?




 生け贄以外は、実に平和な世界でした。


 嘘を吐くと地獄に落ちるという宗教観。

 上下関係がキッチリしていて、策を練って誰かを蹴落としても意味がない。

 神様が見ているから、仕事は誠実に全力で。


 なんだか、清く正しく美しくを実践している。


 そーゆーのさー、息が詰まるんだよね。

 虫唾が走るというか。

 校則は破りたいし、赤信号は無視したい。

 そういうの、わかる?




 さっそく、生け贄の儀式を担当する神官を呼びつけた。


 この世は罪深くて汚れやすいから、聖なるものを捧げて、浄化するのね?

 最も聖なるものは、熱い血潮の心臓だと。はいはい。


 神様はそんなものを捧げなくても守ってくれると思うな~という話をした。


「では、あなたを召喚した事実をどうお考えになりますか?」

 と質問された。

 そうね、確かに何かしらの力はあるでしょうね。


「ちなみに、何人使ったの?」

「五十人ほどですね」

「! 馬鹿じゃないの? そんなことしてるから、ケガレが溜まるのよ!」

 あまりの衝撃に、つい日本人的な感覚で叫んでしまった。


「ケガレ……ですか?」

 お、それっぽく聞こえたらしく、神官が興味深いと思っているようだ。


 いや、ここで発想を変えてみようか。

 そんなに命が軽いのなら、私の趣味に使わせてもらってもいいんじゃないだろうか。




 私の趣味は、残酷な歴史や拷問の器具だ。


 中国の後宮における女たちの戦い

 中世ヨーロッパの魔女狩りや異端審問

 中南米の生け贄の儀式

 日本のキリシタン弾圧なども、なかなかのものだ


 人間はどこまで残酷になれるのか。

 どんな本性を隠し持っているのか。

 自分が正義だと確信したときに、驚くほど悪辣な罪を重ねる。


 残虐さを通して、真理に近付ける気がするのだ。



 それに、中世の拷問器具のバリエーションもすばらしい。

 人を痛めつけるのに、装飾にまで拘る美意識。

 おそらく、清貧生活をしている非力な修道士でも扱えるよう、テコの原理やネジを使っているのだと考えている。



 拷問器具展でレプリカを見た私は、ますます熱心に知識をむさぼった。

 3Dプリンターで再現できないかと考えたこともある。




 ある日、SNSで「自分の家が嫌だ」という書き込みを見つけた。


 山の中腹に立つ実家には、山道で事故を起こした人が血まみれでチャイムを押したり、行方不明者が出て警察が目撃情報を訊きに来たりするという。

 怪我をしてイライラしているのはわかるが、助けてあげている自分たちを怒鳴りつけたり八つ当たりする人もいる。

 そんな人を助けたくないと思う自分は悪い子でしょうか。

 ――という内容だった。



 そのとき、私はひらめいた。

 同じような条件で、空き家になっているところを探した。

 安く売りに出されていたので、即購入。


 期待していたとおり、人が来る。

 感じがよければ助けて、感じ悪かったら趣味に付き合ってもらう。

 山奥で監視カメラもないのだ。

 物音を聞きとがめるご近所さんもいない。



 楽しく趣味にいそしんで数年。

 バレて、警察に捕まった。

 色々なものが証拠として押収された。

 道具は仕方ないが、図録とか資料は返してほしいと思っていた。

 裁判で死刑判決が出たから、もう取り戻せない。せめて、国会図書館に寄贈したいんだが。



 そんな私から見たら、迷信にとらわれて生け贄の儀式をするなど、許せない。

 もっと、深く、真剣に向き合ってほしい。


 手始めに、私の世話役に任命された神官から話を聞き、この世界の生け贄の作法について知識を深めなければ。


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