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巻き込まれたミリュシーヌ

「待ってくれ、ミリュシーヌ!」

「あら? あれは王子さまじゃない?」

「そうだな。どうも今日もミリュシーヌを追いかけているらしい」

「このところずっとよね。よく飽きないものだわ。それにミリュシーヌもよく付き合っていること」

「ほら、ミリュシーヌは面食いだろ?」


 学院では最近身分違いの恋に関する話題で持ち切りだ。留学してきた王子がミリュシーヌに猛アタックを仕掛けるものだから、皆してそれを余興として観ている。


 もちろん、当のミリュシーヌが嫌がっていたら止めに入るぐらいはするつもりだったけど、ミリュシーヌも案外楽しんでいるので放置されていた。

 ミリュシーヌも王子に言い寄られて悪い気もしていなかったし、暇潰しにはなるだろうと付き合っていた。誰も、教師ですらまさか王子が本気だなんて思っていなかったのだ。


「ミリュシーヌ、僕と結婚をしてくれないか? 国の許可は取ってきたんだ」


 告白され、ミリュシーヌはまず何を言っているんだろうとと首を傾げた。

 それから記憶違いだったかな?と確認の意味で重要なことを聞いた。


「祖国に婚約者が居たんじゃないの?」

 ミリュシーヌの記憶に間違いがなければ、公爵家の次女だったはず。さすがにそんな重要なことを記憶違いするほど死にたがりではないはずだが。


「居たよ? でも、君のために別れてきた」

「……はっ?」

「両親も君と結婚出来るならと大喜びなのに仮にも公爵家の人間が喚き散らすから大変だったよ。平凡な人間は感性が貧しくていけないよ」

 面倒になったから最後には処刑したと聞いて血の気が引いたのを感じた。

 ヤバい。ヤバすぎる。

 こんなバカだとは思わなかった。


「違うんです。許してください!! ()()()!!」

 ミリュシーヌが叫ぶ様を眺めていた人垣はすぐさま飛んで逃げていた。普段の落ち着いた様子はかなぐり捨て、あるものは鳥に姿を変えて空に、あるものは風に舞い、あるものはドラゴンの背に乗り一瞬でも速く遠くへ行こうとしていたが、遅すぎた。


「――愚か者」

 雷鳴を轟かせ姿を現した女神は逃げようとするモノを尽く捕え、愚かな娘を黒焦げにしてから踏みつけた。


 唯一無傷だったのは王子だが、二つの理由から彼は惨状を理解することは出来なかった。

 人間と神の時間は異なる。人間の一生など神にすれば瞬き数回と同じぐらい記憶に残らない。ミリュシーヌが叫び終わるよりも前に彼の意識では認識できない超高速で事態は動いていた。


「ぐっ、ぐぎゃああああ!!!???」

 もうひとつの理由を脳が理解しようとするより先に体が理解し、瞬時に限界を迎えた。

 半人前の神々ではなく本物の神が力を抑制することもなく降臨したのだ。

 英雄の血筋でも勇者でもない凡夫(おうじ)など耐えられるはずもない。


 まずは神々しさに眼が潰れ、轟音によって鼓膜が破れ、衝撃で内蔵や骨のいくつが損傷し地面が砕けたことにより立っていることもままならずただ痛みにのたうち回ることしかできなかった。


「虫のようにすれば許してもらえるとでも?」

 女神は情けないと思うより先に王子の体を直し、つまみ上げた。


「お前もいつまでも寝ている? さっさと起きろ」

「ガハッ! 御母様違うんです。私が唆したわけではないんです!?」

 踏みつけられたまま見た目だけは復活したミリュシーヌは必死に許しを乞う。全ては王子の独断で自分は関与していないのだと。


「たわけ。私が何も知らないとでも?」

 女神は知っていた。娘と周りが特に諌めもせずに面白おかしく観ていたことを。

 だから責任を取らせるために神々共(おや)を殴り付けてから駆け付けたのだ。そうでなければ公爵家の次女が死ぬ前に終わらせている。


「さて、一応の言い分を聞こう」

「ミ、ミリュシーヌの母上ですね? 何やら誤解があったようですが、違うのです!」

 ミリュシーヌをはじめとした神の子らは思った。滅んだ、と。


 この学院は主に神々や精霊の子供が通っていて、常識を知らないと簡単に世界が壊れてしまうために力の影響を測る目安として跡取りでない王族を留学生として招いていた。つまり生徒の過半数が見習いの神のようなもの。


 そしてミリュシーヌの母と言えば正真正銘の神。それを名前を知らないのかわからないが名を呼ばず肩書きで呼ぶなどあれ得ない。


「慈悲として名を呼ぶことを許す。呼んでみよ」

「……? ああっ、女神アティスメチティナでしたっけ? 義理の息子になるのですからあまりかしこまらずに、母上とお呼びしたいのですが?」

 恐れ知らずの発言によって、王子の国は大部分が消滅した。地面には大穴が開き、数億年は元に戻らないだろう。かつて文明があったなど想像も出来ないに違いない。


「まずはどうして婚約者を殺した?」

「なぜって、ミリュシーヌを娶るためです。偉大な神の血を取り入れる栄誉をなそうというのに一族揃って意味のわからない戯れ言を喚くので反逆罪で処分しました」

 

「公爵家は私の怒りを買わないために反対したのだ。それをお前達は未練があるからなど宣い、忠臣を切り捨てた」

「何を怒っておられるのか、わかりかねます。血筋が問題なのでしたら、ご安心ください。これは母上が好きな『真実の愛』なのですから」


「私が、何だと?」

「あなたは愛の女神だ。当然娘の幸せは祈るでしょう? それに真実の愛には祝福を授けるのではありませんか?」


「ハハッ、ハハハハハハハッ!!」

「愚かが過ぎると笑えると言うが、本当だな」

「確かに私は愛を司っている。だが、忘れているようだがお前の国では私は純愛を司っている神だ。だからこそ、私の前で交わした愛を一方的に破棄するような輩は私を裏切ったことになる」


「!?」

 ようやく間違いに気付いたのかと恐怖で震えるもの達は思ったが、今更だとも思っていた。今更気付いたところで助かるはずもない。


「だが、まさかその相手が我が娘だとはな」

 女神からの眼差しを受け、ミリュシーヌは体を縮こまらせて視界から外れようとした。

「御母様、聞いて、聞いてください」

「大方、神には相手にされないからちやほやされて喜んだのだろうが、だからこそお前をここに通わせていたのだぞ?」

 ミリュシーヌは神の中では幼く、力も弱いことから周りに勝てる相手がほとんどいなかった。だからこそ王子に褒められるのは嬉しかった。


「お前はこいつを滅した後で、こいつの国に赴き、こいつに殺された娘の魂が生まれ変わるまで再建を命じる」

 神の時間感覚でも何千、何万の時間がかかるか。それに被害者の娘が生まれ変わる確率なんてどれぐらい低いのか。

 学院で数百年修行すればよかっただけなのにとんでもないことになってしまい、ミリュシーヌはただただ泣き崩れた。

 しかも、その土地は母の怒りでできた場所。常に怒り狂う母の気配を感じながら過ごすことは地獄でしかなかった。


「お前は私の祝福が欲しいのだったな。くれてやろう平等な愛を、な」

 つまみ上げられていた王子は女神の手で魂まで戻され、転生する。


「身分違いの愛に餓える獣よ。お前は千回の命をやる。その命で、身分、年齢、性別、種族などを越えて愛を育め。その愛の果てを見届けた時私の信じる愛が理解できることを待っていてやろう」


 こうして元王子はまずは微生物から始まり何度も何度も転生した。はじめはどうしてこうなったのかを覚えていたが、百を越える前にはこういうものと諦め、理由を忘れながらも普通の恋愛とは呼べない愛を育むこととなった。

 運が良い時には子孫を作れる相手に廻り合い、また子孫は作れずとも穏やかな生を歩んでいた。

 最後の方では思いの通じた相手といることが何よりの幸せだと悟り、最後の生を終えてからは魂が浄化され別の生を歩み始めた。


「ったく、呆れるわね」

 元王子の魂を回収したミリュシーヌは母の罰にゾッとしつつも神として職務を全うした。再生を何度も試す内に神格が上がり、愛の女神にして誕生を司る神へと成長した彼女は祝福を与えて魂を輪廻に戻した。


「これでようやく御母様のお怒りも静まったようだし、やっと復学出来るわ」

「それにしても御母様は恐ろしいわね。いくら身分違いの恋だからって、自分が罰を受けるきっかけになった人間のペットになるなんて想像もしてないでしょうね」


 地上を見れば令嬢の生まれ変わりが元気にはしゃいでいる姿がある。

 過去を知らない存在は性別を変え、虫が大好きな少年になっていた。


「でもカマキリって本当にオスを食べるのね」

 それが観たいがためにオスのカマキリを大量に集めた元令嬢はまさかそのカマキリの一匹が自分を殺した存在であることも、カマキリになって自分に恋したことも知らずに微笑んでいる。


「王子さまを観てた私達もあんな感じだったのかしらね?」

 もしかしたら、他のカマキリも前世で彼女を苦しめた存在の生まれ変わりだったりして?

 女神の彼女はそんなことを思いながら、天界へと還って行ったのだった。

 いかがでしたか?

 コンセプトは「王子の方が身分が低い」です。なので王子には「さま」を神には「様」で表現してます。久々に作品を書きましたが楽しんでいただければ幸いです。

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