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古代史読みもの「コノドント」

作者: 西端統宏


大きくても2~3mmくらいの化石は、顕微鏡を使わないと何だかわからないのだが、数は何しろたくさん出てくるため、微化石 microfossil と呼ばれて地質学・古生物学では重要な分野になっている。

この微化石のひとつにコノドント conodont というものがある。世界中の主に古生代、一部は中生代初期の三畳紀の地層に含まれ、示準化石 index fossil としても活用された。形としては大雑把に円錐形で、最初に認識された19世紀半ば頃には何か魚の歯だろうと考えられた。古生代の生き物で硬い歯を持つものは、当時はそんなにたくさんは見つかっていなかったこともある。後には三葉虫の爪の先だとか、ゴカイの仲間にもこんな歯を持つものがあるとか、歯ではなく消化管の中で砂を選り分ける機能を果たしたとか。いろいろな説が出たものの、どんな生き物がコノドントの主であるかはずっと推測の域を出なかった。


カナダにある古生代カンブリア紀の地層の一つ、いわゆるバージェス頁岩に大量の「未知の分類群」が含まれていることがわかったのは1960年代のことだった。バージェス動物群といえば知っている人もあるだろう。この中に、新たなコノドントの主候補が現れた。モリスが1976年に記載したオドントグリフス Odontogriphus だ。この動物はその時点では1つしか標本が見つかっていなかったが、コノドントの主である可能性が示唆されて注目を浴びた。口のような部分の回りに触手が生えていて、この触手の基部にコノドントを思わせる構造があったのだ。しかし、モリスの記載はあくまで可能性の示唆にとどまっており、オドントグリフス自体のわけのわからなさもあって、この時点でも未だ確証は何一つ無かった。


事態が動いたのは1983年。スコットランドの石炭紀の地層から見つかった古代魚、クリダグナサス Crydagnathus の口に整然とコノドントが並んでいたのだ。このあと、近い仲間でコノドントを口に生やした化石が次々に見つかる。コノドントは一種類ではないが、ほとんどはこのクリダグナサスの仲間と考えられるようになった。

クリダグナサスの仲間は、実は厳密にいえば魚ではない。体の大部分はヤツメウナギなど円口類に近い構造だが、円口類が持っていない硬い歯を実現しているところはもう少し後に出現したグループであることを示す。現世のアゴのある魚たちやその子孫より前に栄えた、脊椎動物のもう一つの枝だった。

栄えた?

もちろんだ。最初の段落に戻ってみてほしい。コノドントは世界中から見つかっている。世界中にいたわけだ。絶滅してしまったグループとはいえ、古生代の初め頃のカンブリア紀から中生代初め頃まで、三億年の間地球の海という海にいた生き物だ。普通に考えて「進化の失敗作」などではあり得ない。

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― 新着の感想 ―
こういうの大好きです!! 楽しく読ませていただきました。
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