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第三章

続いて第三話です。オリジナルの神話を作ってみました。少々長くなりましたがお付き合い下さいませ。



 レイラが目を覚ますと、窓から差し込む朝の光が柔らかく部屋を照らしていた。鳥のさえずりが心地よく、まるで現実世界で目覚めたかのような錯覚に陥る。しかし、隣で微動だにせず座っている『ああああ』の姿が、異世界にいる現実を突きつける。


 「おはよう、『ああああ』」


レイラは寝ぼけ眼で挨拶をした。『ああああ』は小さく頷くと、レイラに視線を向け、そして自分の身につけた新しい装備一式を指し示した。以前のぼろぼろの装備とは打って変わり、真新しい革の鎧、光沢のある金属の盾、そして鋭く研ぎ澄まされた剣が、『ああああ』の小さな体に不釣り合いなほど立派に輝いている。レイラは驚き、目を丸くした。


 「えっ!? いつの間に!?」


『ああああ』は、説明を始めた。レイラが寝ている間に、コウモリを倒した際に手に入れた素材と、採取していたアイテムを売ったお金と神父からもらった残り少ないお金を元手に、新しい装備を買ったことを伝えた。レイラは『ああああ』の新しい装備を見て、心強い気持ちになった。


 「ありがとう、『ああああ』。あなたのおかげで、安心できるわ」


レイラは笑顔でそう言うと、急いで身支度を整え、二人で宿屋を出た。カウンターで老人は相変わらず静かに本を読んでおり、二人に気づくと軽く会釈した


 「どうも、夕べはお楽しみだったかい?」


老人はニヤニヤと声を掛けるが二人は何のことか分からず顔を見合わせて頭に?マークを浮かべるが、レイラは少しして、老人の言葉の真意に気付き顔が赤くなった。老人はまるで全てお見通しといった様子で、レイラと『ああああ』の反応を楽しんでいるようだった。レイラは咳払いをして話題を変えようとした。


 「あの…朝食はありますか?」


 「ああ、もちろん。今日は、焼きたてのパンと温かいスープがあるよ。それと、教会で朝のお祈りをすると、神父様から良い話を聞けるかもしれんぞ」


老人がそう答えると、レイラの表情が少し明るくなった。美味しい朝食にも惹かれたが、神父様の話に興味を持ったのだ。この世界について、少しでも多くの情報を得たいと思っていた。


 二人は朝食を終えると、老人に礼を言って宿屋を後にした。朝の村は活気に満ちており、人々が行き交っている。レイラは『ああああ』と共に村の中心に位置する教会へと向かう。教会はこじんまりとした建物で、入り口の扉は重厚な木でできており、歴史を感じさせる。中に入ると、ステンドグラスから差し込む光が柔らかく教会内を照らしていた。既に数人の村人が祈りを捧げており、レイラと『ああああ』も静かに席に着いた。しばらくすると、白髪の神父が現れ、祈りを始める。祈りが終わると、神父は村人たちに語りかけた。


 「今日は、この世界の成り立ちについて話そうか……遠い昔、二人の神がおりました。名前は『エトゥン』と『ネプ』。二人は互いに協力し様々なものを創っていきました。大地、海、空、星、太陽、月……それから人間や動物、そして食べ物。しかし二人が創った生物は死なず、食べ物が腐ることもありません。なのでたちまち世界は色んなもので溢れかえってしまいます。

 そんな時にもう一人の神『レザレ』が現れました。『レザレ』は二人が創り過ぎたものを少しずつ消し、『エトゥン』と『ネプ』に生物には死を、食べ物には腐敗を与えることを提案します。『エトゥン』と『ネプ』は話し合いの末、『レザレ』の提案を受け入れました。生物は限られた時間を生き、食べ物は腐敗し、そしてまた新たな命が芽生えるという循環が生まれました……」


2人は神父が語るこの世界の神話に静かに耳を傾ける。


 「しかし、『エトゥン』と『ネプ』は、自分たちが創り出したものを消されてしまったことに、わずかながらも寂しさを感じていました。そこで二人は、『レザレ』に相談し、消えてしまったものたちの記憶や想いを、別の形で残す方法を考えました。そして生まれたのが、「本」です。本は、消えてしまったものたちの物語や知識、感情を記録する器となり、人々に語り継がれることで、再び命を吹き込まれる存在となりました。違う世界で人が死ぬと、生前強い思いを抱いていた本と共に、この世界に転送されます。そして、その本に宿る力を得て、新たな人生を歩むのです。しかし、本の力は強大であるがゆえに、それを悪用しようとする者たちも現れました。そこで、三人は残り少ない力を集め、本とその持ち主を守るための戦士を創り出し、永い永い眠りについたのです。」


神父は静かに語り終えると、村人たちに祝福を与え、祭壇を後にした。レイラは神父の話を聞き、自分がこの世界に来た理由、そして『ああああ』の使命の重大さを改めて理解した。そして、『シンデレラ』の絵本がもたらした奇跡、あの不思議な力を、もう一度感じたいと思った。あの力があれば、もっと強くなれる。レイラは『ああああ』に、もう一度あの力を試してみたいと伝えた。『ああああ』はレイラの言葉に頷き、静かに教会の裏庭へと向かった。そこは、人目につかず、静かに練習するには最適な場所だった。レイラは深呼吸をし、『シンデレラ』の絵本を両手でしっかりと握りしめた。あの時と同じように、絵本から力が湧き上がってくるのを感じたい。しかし、何度試みても、何も起こらない。絵本はただの絵本で、魔法の力など宿っていないかのように、静かにレイラの手に収まっている。


 「どうすれば…もう一度、あの力を…」


レイラは焦燥感に駆られ、額に汗が滲む。あの力があれば、『ああああ』を守ることができる。この世界で生き抜くことができる。レイラは、絵本を握りしめる手に力を込めた。すると、かすかにだが、絵本が温かくなっているのを感じた。そして、微かな光が、絵本のページから漏れ出してきた。レイラは息を呑み、目を凝らした。光は徐々に強さを増し、レイラと『ああああ』を包み込んだ。光が収まると、レイラの目の前には、灰と小さなガラスの靴の欠片が落ちていた。レイラは欠片を拾い上げ、手のひらで転がした。欠片は冷たく、儚い。まるで、レイラの希望を打ち砕くかのように。


 「これじゃ…何もできない…」


レイラは落胆し、肩を落とした。あの力があれば、どんな困難も乗り越えられると思っていた。しかし、現実は甘くなかった。ガラスの靴は砕け散り、魔法の力は失われてしまったのだ。『ああああ』は、そんなレイラの肩に静かに手を置いた。まるで、希望はまだ残っていることを伝えようとしているかのように。レイラはハッとした。確かに、ガラスの靴は砕けてしまったかもしれない。しかし、あの時感じた力は、確かにレイラの体の中に残っている。それは、希望の光、生きるための力。レイラは、再び立ち上がる決意をした。ガラスの靴の力は失われたかもしれないが、レイラ自身の力は、まだ残っている。


 「ありがとう、『ああああ』。私、諦めない。もう一度、あの力を手に入れるまで、諦めない」


レイラは力強くそう言うと、『ああああ』に笑顔を見せた。そして、二人は共に、新たな試練へと立ち向かうことを決意した。

それぞれの神様の名前の元ネタは、勘が鋭い方ならすぐ分かるかも…

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― 新着の感想 ―
 今公開されている全話を読みました。率直に申しまして、お話の雰囲気は結構好きです。ゲームボーイもしくはファミコンのRPGからそのまま飛び出してきたようなドット絵の勇者が、世界を救う為に戦う。ヒロインは…
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