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第二章

続いて第二章。



 トタス村を出て蜘蛛の森でレイラと出会い、彼女がこの世界に転送された経緯、そして『ああああ』の使命が語られた。レイラは状況を理解し、この世界で生きていくことを決意して、二人は共に旅に出ることになった。

 『ああああ』は、少しばかり頼りない見た目に反して、勇敢で機転も利く戦士だ。しかし、言葉を発することはなく、なぜか頭の中に直接メッセージが聞こえてくるようだった。レイラはそんな『ああああ』の様子を少し面白がりながらも、不安な表情を隠しきれずにいた。


 「ねえ、『ああああ』。私、これからどうすればいいの?服もボロボロだし、お腹も空いたし…」


レイラは蜘蛛の糸で汚れた服を眺め、ため息をつく。読者モデルをしていた彼女にとって、森の中をさまよう事態は現実とかけ離れたものだった。

 『ああああ』はレイラの言葉に頷くと、地面に落ちている木の枝を拾い、地面に何かを描き始める。それは簡単な地図のようなもので、近くの村への行き方を示しているようだ。レイラの不安は完全には拭いきれなかったが、『ああああ』の様子に少しだけ心が安らいだ。二人は並んで歩き出し、森を抜けて村へと向かうことにした。

 しばらく歩いていると、前方に明るい光が見えてきた。それは森の出口のようで、二人は出口へと足を速め、光の中へと飛び出した。


 そこは緑豊かな草原が広がる美しい場所で、遠くには小さな村が見える。レイラは初めて見る景色に目を輝かせ、深呼吸をした。新鮮な空気と、温かい日差しが、彼女の心を癒やしていく。


 「ねえ、『ああああ』。あそこに見える村に行けば、何か食べられるものがあるかな?」


レイラは遠くに見える村を指さしながら、『ああああ』に尋ねた。ドットで描かれた『ああああ』は、頷いてみせる。

 しばらく歩くと、草原に一本の川が流れているのが見えた。レイラは川辺にしゃがみ込み、両手で水をすくって飲んでみた。冷たくて美味しい水だった。喉の渇きを癒やしたレイラは、『ああああ』の方を振り返る。

 『ああああ』は川辺に生えている草を摘んで懐に仕舞っていたが、そのうちの一つをレイラに差し出した。それは、森の中で『ああああ』が食べていた野草と同じものだった。レイラは少し躊躇したが、『ああああ』が美味しそうに食べる様子を見て、恐る恐る口に入れてみた。少し青臭いような独特の味がしたが、空腹だったこともあり意外といけると思った。

 二人は川辺で少し休憩した後、再び村に向かって歩き出した。村は徐々に近づいてきて、家々の形や、煙突から立ち上る煙まで見えるようになってきた。レイラは期待に胸を膨らませながら、『ああああ』と一緒に村の入り口へと進んでいった。


 村の中は静かで、石畳の道が迷路のように入り組み、家々はどれも古く、どこか懐かしい雰囲気を漂わせている。レイラはキョロキョロと辺りを見回し、まるで絵本の中に迷い込んだような不思議な感覚に陥っていた。

 しばらく歩いていると、道の脇に小さなパン屋を見つけた。店先からは香ばしい香りが漂ってくる。空腹だったレイラは思わず足を止めた。


 「ねえ、『ああああ』。あそこのパン屋、行ってみない?」


レイラは『ああああ』に声をかけ、パン屋を指差した。『ああああ』も頷き、レイラと一緒に店の中へと入っていった。

 店内は薄暗く、木の棚には様々な種類のパンが並べられていた。カウンターの中には、白いエプロンをかけたふくよかな女性が立っていた。彼女はにこやかな笑顔で二人を迎えた。


 「いらっしゃいませ~」


レイラは言葉が通じることに安堵したが、この世界の通貨を持っていないことを思い出した。しかし『ああああ』は「勿論自分が払うよ」と言わんばかりに、お金が入った袋を取り出しレイラに見せた。それを見て安心したレイラはいくつかパンを選んで、お金は『ああああ』が持っていたわずかなお金で支払った。二人は店の前で早速パンを頬張った。焼きたてのパンは温かくて、ふわふわとした食感だった。レイラは久しぶりの食事に満足そうな表情を浮かべた。


 「美味しい!」


レイラは満面の笑みでそう言うと、『ああああ』はパンを一口で食べてしまった。


 パンを食べ終えると、レイラ達は再び村の中を歩き始めた。すると、広場のような場所に子供が集まっているのが見えた。何事かと近づいてみると、そこでは村の子供たちが輪になって遊んでいた。子供たちはレイラと『ああああ』の姿を見つけると、興味深そうにこちらを見てきた。レイラは少し緊張したが、子供たちに笑顔で近づいていった。すると、一人の女の子がレイラに話しかけてきた。


 「ねえ、お姉ちゃんたち、どこから来たの?」


女の子の問いかけに、レイラは戸惑った。この世界に来た経緯を説明するのは難しいと感じたからだ。隣に立つ『ああああ』を見ると、彼は地面に木の枝で何かを描き始めた。簡略化された地図のようなものに、トタス村と蜘蛛の森、そして現在の村の位置が描かれている。さらに矢印で移動経路を示した。


 「えっと…遠いところから来たの」


レイラは『ああああ』の絵を指しながら、曖昧な返事をする。幸い、女の子はそれ以上深くは聞かず、すぐに話題を変えた。


 「ふーん、私はシェリー!これは弟のトム!」


 女の子は元気よく自己紹介し、隣に立つ少し恥ずかしがり屋の男の子を紹介した。トムは小さく頭を下げた。他の子供たちも次々と自己紹介を始め、広場は賑やかになった。

 子供たちは『ああああ』の姿に興味津々で、ドットで描かれた体に触ったり、身振り手振りを真似たりしている。『ああああ』は、少し困ったように笑みを浮かべながら、子供たちの遊びに付き合う。レイラはその様子を微笑ましく見守っていた。都会の喧騒から離れ、子供たちの無邪気な笑顔に囲まれて、レイラの心は穏やかになっていく。

 しばらく子供たちと遊んでいると、シェリーがレイラの服に付いた蜘蛛の糸くずを見つけ、指差した。 

         

 「それ、蜘蛛の糸でしょ?蜘蛛の森に行ったの?」 


レイラの表情が曇る。蜘蛛の森での出来事を思い出すと、再び不安が込み上げてきた。しかし、シェリーは心配そうにレイラの顔を見つめて


 「大丈夫?蜘蛛の森は危ないから、気をつけないと」


と優しい言葉をかけた。それを聞いたレイラの心は温かくなった。この世界に来たばかりで不安だらけだった彼女にとって、シェリーの言葉は大きな慰めとなった。そして、この世界にも優しい人たちがいることを知り、少しだけ希望が持てるようになった。


 「ありがとう、シェリー」


レイラは心からの感謝を込めて、シェリーに微笑みかけた。

その時、村の奥から鐘の音が響いてきた。子供たちは「もうこんな時間だ!」「早く帰らないと!」と言いながら、家路へと散っていく。シェリーとトムもレイラに別れを告げ、手を振りながら走っていった。


 再び静けさを取り戻した広場で、レイラは『ああああ』と共に夕焼け空を見上げた。オレンジ色に染まった空に、一匹のコウモリが飛んでいた。それは近くの家の軒先に、まるでこちらを見るように止まる。コウモリは翼を丸め、静かに佇んでいた。その姿は、レイラがこの異世界に迷い込んだ現実を改めて突きつけてくるようだった。


 「……帰りたい」


思わず呟いた言葉を聞いた『ああああ』は、レイラの沈んだ様子に気づいたのか、心配そうに肩に手を置いた。ドットで描かれた手が、温かさを感じさせないことに、レイラは少しだけ苦笑する。


 「そうだよなぁ帰りたいよなぁ……クックック」


どこからか不気味な声がして二人は周りを見渡すが誰も居ない。


 「こっちだよこっち」


少しずつ大きくなるコウモリの影。どうやら声の主は先程のコウモリだったようで、翼を広げてその正体を表した。コウモリは、まるで闇夜に溶け込むかのように黒い翼を広げ、人間ほどの大きさにまで膨れ上がった。その姿は、先ほど軒先に止まっていた小さなコウモリとはまるで別物だった。大きく裂けた口からは二本の牙が覗き、鋭い眼光でレイラと『ああああ』を睨みつけている。


 「クックック……まさかこんな辺境に転送者がいるとはなぁ。俺は運が良い。お前の本は俺がいただく!」


コウモリはそう言うと、鋭い爪をレイラに向け襲いかかってきた。レイラは恐怖で体が硬直する。咄嗟のことに対応できず、ただ立ち竦むことしかできない。その時、『ああああ』がレイラの前に飛び出し、コウモリの攻撃を木の盾で受け止めた。小さな体で大きなコウモリに立ち向かう姿は、頼りなくも勇敢だった。コウモリは『ああああ』の行動に一瞬驚いたようだが、すぐに体勢を立て直し、再び攻撃を仕掛けてくる。『ああああ』はコウモリの攻撃を巧みに避けながら、地面に落ちていた石を拾い上げ、コウモリに向かって投げつけた。コウモリは石を軽々と避けると、小馬鹿にしたように舌を出し襲い掛かる。


 「当たるわけねぇだろバーカ!」


レイラは恐怖で震えながらも、『ああああ』の姿を見て、勇気を振り絞った。読者モデルとして生きてきた彼女は、これまで危険な目に遭ったことはなかった。レイラは震える手で、ポケットからリップクリームを取り出した。それはいつも持ち歩いていた、お気に入りのブランドの限定品だ。この世界の出来事を理解しようとする中で、普段通りの行動をすることで、少しでも冷静さを保とうとしていた。


 「役に立たないのは分かってるんだけど…」


呟きながら、レイラはリップクリームを鞄に戻した。確かに、リップクリームがコウモリを倒せるわけでもないし、この世界の謎を解き明かしてくれるわけでもない。それでも、慣れ親しんだアイテムに触れることで、不安定な精神状態を少しでも落ち着かせようとしていた。その時、コウモリは速く、鋭い爪で『ああああ』の腕をかすめた。ドットで描かれた顔に、苦悶の表情が浮かぶ。まるで、ゲームのキャラクターがダメージを受けた時のように。


「『ああああ』!」


レイラは思わず叫んだ。傷ついた『ああああ』の姿を見て、彼女の心に熱いものがこみ上げてきた。元々の世界では守ってくれる人はいないと思っていた。でも、今は目の前で傷つきながらも、自分を守ろうとしてくれる存在がいる。読者モデルとして守られるだけの存在だったレイラにとって、それは初めての経験だった。

 その瞬間、レイラの手に『シンデレラ』の絵本が出現し、淡く光り始めた。驚いたレイラは、思わず絵本を強く握りしめた。すると、絵本からまばゆい光が放たれ、レイラと『ああああ』を包み込んだ。光が収まると、レイラの目の前には、ガラスの靴が置かれていた。それはまるで、『シンデレラ』の物語に登場する、魔法の靴のようだった。


 レイラの心臓は高鳴っていた。直感的に、この靴が今の状況を打開する鍵になると感じた。ためらうことなく、レイラはガラスの靴を手に取り急いで履き替えた。ガラスの靴は、レイラの足にぴったりと収まった。そして、靴を履いた瞬間、レイラの体には不思議な力が満ちていくのを感じた。力強く、それでいて温かい、今まで感じたことのない感覚だった。コウモリは、突然の出来事に驚きを隠せない様子で、攻撃の手を止めていた。


 「な、なんだ今の光は……?」


と呟き、警戒心を露わにする。レイラは、ゆっくりとコウモリに向き直った。恐怖は消え、代わりに静かな決意が彼女の心を満たしていた。ガラスの靴を履いた足で一歩踏み出す。その瞬間、レイラの足元から、光が地面に広がり始めた。ガラスに乱反射された光は波紋のように広がっていく。


「何か分からないが……ヤバそうだ!」


 コウモリは、広がる光に驚き、慌てて飛び上がろうとする。しかし、光はレーザーのように素早くコウモリの翼に穴を空け、動きを封じた。身動きが取れなくなったコウモリは、恐怖に歪んだ顔でレイラを見つめる。


 「一体……何が……?」


レイラは、静かに口を開いた。


 「これは……シンデレラの……魔法……?」


言葉と共に、レイラの足元から放たれる光がさらに強さを増す。光はコウモリを捕縛し完全に動きを止める。


「な、なぁ待ってくれよ……ちょっと驚かそうとしただけなんだ!許してくれ!」


コウモリは許しを請うが、問答無用と言わんばかりに『ああああ』は持っていた剣でコウモリを真っ二つに斬り裂く。するとまるで浄化されるかのように、ゆっくりとコウモリは消滅し、辺りは静寂に包まれた。残されたのは、夜の静かな村と、光り輝くガラスの靴を履いたレイラ、そして、傷が癒えつつある『ああああ』の姿だけだった。


 レイラは、安堵の息を吐き出し、震える手でガラスの靴を脱ぐ。すると、まるで靴は役目を終えたかのように灰になって崩れてしまった。何が起きたのか、レイラ自身完全には理解できていなかった。しかし、『シンデレラ』の絵本が、自分を守ってくれたことだけは確信していた。そして、この世界で生き抜くためには、本の力が必要不可欠だと悟る。隣に立つ『ああああ』は、レイラに駆け寄り、無事を確認するように肩に手を置いた。レイラは、『ああああ』のドットで描かれた顔を見つめ、心からの感謝を込めて微笑んだ。


「ありがとう、『ああああ』。なんとか勝てた……」


『ああああ』は小さく頷き、近くの宿屋を指差す。どうやら、『ああああ』は、そこで夜を明かすことを提案しているようだった。二人は、共に宿屋へと歩き始めた。


 宿屋は村の中心部にあり、古びた木の看板には「旅人の宿」と書かれていた。入り口の扉は少し傾いており、開けるたびにキーキーと音を立てた。中に入ると薄暗い室内に、木製のテーブルと椅子が並んでいた。カウンターの後ろには、白髪交じりの老人が座っており、静かに本を読んでいた。老人は二人に気づくと、ゆっくりと本を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。


 「いらっしゃい。旅の者かね?」


レイラは頷き、老人に部屋をお願いした。『ああああ』は泊まれる部屋があるか尋ねた。老人は少し考えてから


 「部屋はあるが、少し狭いんだよ」


と答えた。レイラと『ああああ』は顔を見合わせ、狭い部屋でも、安全な場所で休めるならそれで十分だと伝えた。老人は鍵を渡すと、奥の部屋へと案内してくれた。部屋は確かに狭く、二人が並んで寝るといっぱいになるくらいの広さだった。窓からは村の夜景が見え、静かな夜空に、星々が輝いている。レイラは窓辺に立ち、景色を眺めた。都会の喧騒とは無縁の、静かで穏やかな世界。レイラは深呼吸をし、この世界で生きていくことを改めて決意した。


 「ねえ、『ああああ』。私、頑張るよ。この世界で生きていくために」


レイラは『ああああ』にそう言うと、ベッドに腰を下ろした途端、どっと押し寄せる疲労に抗うことができなかった。蜘蛛の森での恐怖、コウモリとの戦い、『シンデレラ』の絵本がもたらした奇跡…そして、『ああああ』との出会い。息つく間もない出来事の連続に、心身ともに疲弊しきっていた。


『ああああ』はレイラの隣に座り、静かに頷いた。言葉は交わせなくても、心は通じ合っている。レイラはそう感じ、温かい気持ちになりながら、抗えない眠気に襲われた。


 「うぅ…ちょっとだけ…」


呟きながら、レイラはベッドに倒れ込み、すぐに深い眠りに落ちる。『ああああ』は、眠るレイラの寝顔を見つめ、そっと布団をかけると静かに立ち上がり、窓辺へと歩み寄る。夜空を見上げながら、この世界の成り立ち、そしてレイラを守ることの意味を、静かに考え続けていた。夜風は冷たく、窓の外では木々がざわめいていた。まるで、これから始まる新たな冒険の始まりを予感させるかのように。


               ~♪(謎のメロディ)

第一章より頑張って少し長く書いてみましたがいかがでしょうか?


2025年4月14日 修正

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