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勇者のほしいもの

 執務室を出て、廊下と歩いていたら中庭の手前に人影をひとつ、見つけた。

 キラキラの金髪の青年がぽつんと立っている。月光を受けて佇む姿は、戦場で見かけるのとは別の意味で美しい。相変わらず絵になる男だ。


「陛下?」


 俺の気配に気が付いて、アレックスがぱっとこちらを向いた。あわてて跪こうとするのを推しとどめる。


「いい、楽にしてくれ」

「……は」

「ひとりでどうした? まだ宴会は続いているだろう」


 尋ねると、美丈夫はへにゃりと力ない笑顔になった。


「あちらにいると、際限なく酒を飲まされるので抜けてきました。人気のない場所を探してうろうろしていたら、ここに」


 アレックスは勝利の立役者だ。酒を飲ませて絡みたいやつは多いだろう。

 これはこれで大変だ。


「まさか陛下のお邪魔をしてしまうとは、失礼しました。すぐ退出しますね」

「いやいい、好きなだけ逃げ込んでろ。お前にも休む時間が必要だ」


 慌ててその場から離れようとした勇者を止める。

 確かにこの辺りは城塞の中でも指揮官向けのエリアだが、一般兵絶対立ち入り禁止、というわけではない。まして勇者だ、咎める理由なんかない。


「必要なら、俺の名前を出してもいいから」

「……ありがとうございます」


 許可を得て、勇者はふんわりと花のように微笑む。

 素直だ。


「……いいやつなんだよなあ」

「陛下?」


 思わずため息をついた俺を見て、勇者がきょとんと眼を丸くする。

 こんなの暗殺できるわけないだろ。罪悪感でこっちが先に死ぬわ。


「どこか……お加減でも?」

「なんでもない。それよりお前、何かほしいものはないか?」

「ほしいもの、ですか?」


 さっきまでお前の暗殺を検討していました、とは言えず、俺はとっさに別の提案をする。


「勝利はお前のおかげだからな。国から与える褒美の他に、俺から個人的に何か贈りたい」

「陛下が、直々にですか?!」

「ああ。目録に載るようなものじゃないから、金でも女でも自由に希望を出していいぞ。反対に、俺の裁量を越えるものは無理だが」


 なんでも、と言われてアレックスはごくりと喉を鳴らした。

 おや。

 さわやかイケメン勇者でも、ほしいものの前ではこんな顔をするらしい。


「あの……少し、変なものでも、いいですか……?」

「許す。この場で何を言っても不敬に問わないことも誓おう」


 迷う勇者に、無礼講のお墨付きもつけてやる。

 だって気になるじゃないか。男にも女にも愛されるキラキラ好青年が胸に秘めている欲望が何なのか。

 アレックスは、白い頬を赤く染め上げ、もじもじと手を合わせながら、希望を告げた。


「陛下の……童貞がほしいです」

「うぇ?」


 変な声が出た。


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