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DIVE  作者: 関鯖
24/26

#08 二つの海(2)

 

 

 なんでいきなり椎名くんの家なんだろう?

 ビックリしながら、ぐるぐると考える。

 だって、そっちの方がよほど無理だと思うんですけど……。


「そんな驚いた顔すんなよ。なにもオレと一緒に住むわけじゃないからさ」

「え? なにそれ、どういうこと?」

「言い方が悪かったよな。オレが言ってるのはさ、叔父さんのマンションの事なんだ」

「椎名くんの、叔父さん?」

「そ、叔父さん」


 そう言われても、イマイチ良くわからなくて聞き返す。


「で……そのマンションが、どうしたの?」

「ああ。叔父さん急な転勤が決まってさ、部屋が空いちまうから、急遽オレが留守番代わりにそこに住む事になったんだけど。よかったら、オレの代わりに御園がそこに住めばいい」

「ええっ。でも、それじゃ椎名くんが」

「オレはいいよ。実家あるし」

「いや、椎名くんは良くても、いきなりそんな……」

「大丈夫だって! 叔父さんにはオレから話通すしさ。大学までも結構近いぜ?」


 ――いいから任せとけって、と。

 満面の笑みで言われて、わたしの胸はズキリと痛んだ。

 屈託の無いお日様みたいな笑顔。

 この笑顔に参っちゃってる女の子を、わたしは何人も知っている……。


「やっぱり無理だよ……」

「なんでだよ。おまえの家族に反対されるからか?」


 拒んだら、椎名くんが励ますようにわたしの肩を揺さぶってくる。


「ううん、そうじゃないけど」

「じゃあ何が無理なんだよ。叔父さんの事なら、オレがちゃんと説得するし」

「だから、それが無理なんじゃんっ……!」


 尚も食い下がろうとする椎名くんの腕を振り払うと、わたしは一歩後退った。

 困ったようにこちらを見つめる、薄茶色の瞳。

 その優しい眼差しも、彼の笑顔も。

 ふざけてわたしの頭をくちゃくちゃにする、暖かくて大きな手も。


(……ほんと、罪つくりなやつ)


 そう思ったら、如月ゆりの泣き顔が脳裏をかすめて、切ない気持ちが込み上げてきた。

 彼女は椎名くんのために、どれだけ涙を流したのだろうか?

 そして、それは多分……わたしも。


「やっぱり無理だよ」


 喘ぐように言うと、わたしは椎名くんを呆然と見つめた。

 ――そして。



「だって、椎名くん死んでるんだもの」



 震える声でわたしが言ったら、椎名くんの表情は一瞬にして凍りついた。

 

 

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