表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DIVE  作者: 関鯖
12/26

#05 盟 約(2)

 

 

 

 男の広げた翼を見て、椎名くんが目を見開き呆然とする。

 一方わたしはといえば、悪い予感に身を震わせつつも、男の腕の中で椎名くんの顔をただ見つめるばかりだった。

 嫌な汗が背中を伝い、全身がぞわぞわする。

 うなじの毛が逆立ち、緊張のあまり指先がますます冷たくなってゆく。

 この展開は、マズイ。

 本気でマズすぎる!!

 

「まじかよ……」


 呻くように言った椎名くんの言葉に、男は低く笑った。

 彼が一体何を考えているのか定かではないけれど――でも、これだけは言える。

 椎名くんに何らかの危害を加えようとしてることだけは確かだ。

 だって、そうじゃなければ、自ら進んで正体を明かすような真似なんて絶対にしないと思うし!


「……お願い、やめて」

「やめるって、なにを?」


 気怠く切り返されて、イラっとしつつ男を見上げた。

 っていうか……よくも抜け抜けと、この男はっ!

 この表情に、この態度。

 どう見たって椎名くんに何かする気まんまんじゃん!


「椎名くんに何もしないでって言ってるのっ! お、お願いだから……!」


 噛み付いた後、慌てて取り繕うように付け加える。

 だけど、必死で懇願するわたしに、彼は物憂げに微笑んで。



「無理だよ、綾音」



 素気なく告げた瞬間、彼の身体から無数の光が放たれた。

 突然の出来事に、わたしが成す術もなく唖然とするうちにも、青白い光の帯がまるで竜巻のように渦巻いて、椎名くんをあっという間に呑み込んでゆく。


「うわっ! なんだよ、これッ……!」


 絶叫する椎名くんを見て、わたしは慌てて駆け寄ろうとした。

 しかし、その刹那、しなやかな腕が伸びてきて、後ろから有無を言わさず抱きかかえられてしまう。

 黒い翼に囲い込まれて、呆然と見上げれば、男の表情は酷く冷え冷えとしたものだった。


「椎名くんっ……!」


 絶望的な気持ちで、わたしは叫んだ。

 椎名くんが光の中から抜け出そうと必死でもがいている。

 まるで溺れる人のように、こちらへ向かって手を伸ばしてくる。 

 しかし、必死で伸ばしたその腕も、瞬時に渦の中へと呑み込まれて――。


「御園……!」


 光はみるみる膨れ上がると、まるで繭のように椎名くんを包み込んだ。

 椎名くんが何か叫んだけれど、光の繭の中からはその声すらも届かずに。

 ――そして、次の瞬間。


「なに、これ……!?」


 信じ難い光景に、わたしは小さく叫び声をあげた。

 椎名くんの身体が金色に輝いたかと思ったら――なぜか、ふつふつと泡立ち始めたのだ。

 その腕も、頭も、足も、背中も。

 全身の表面があたかも沸騰しているかのように泡立って、金色の光の粒が次々と立ち上ってゆく。

 しかも、よくよく見れば、その粒たちは、立ち上るそばから光の繭へと呑み込まれてゆくではないか!

 いや、っていうか。

 これは、呑み込まれるというよりも……!



「もしかして吸収してんの? 吸収しちゃってんのコレ!?」



 やーめーてーー! と、わたしは声の限りに叫んだ。

 だって、なんで吸収? なんで吸収!?

 危害を加えるにしたって、イキナリ吸収しちゃうとかおかしくない!?

 つーか、『僕はそういうことしない』とか、さっきシレッと言ってなかったこの人!?


「嘘つき!! めちゃくちゃ吸収してんじゃん!!」

「まぁ、そうだね。正直あまり気乗りはしなかったけれど」

「気乗りしないって……嫌ならやめてよ! つーか、今すぐやめて!!」

「どうして? だって、こういう場合、仕方がないだろう?」

「はあ!? 仕方がないってなんでよ!?」


 噛み付くわたしに、彼は優雅に微笑んで、一言。


「なぜって、これはあなたの為だから」


 ……って、なにソレ!?

 意味分かんないし!!


「ま、僕が気に入らないっていうのもあるけどね」

「結局、理由それなんじゃん!!」


 彼の身勝手な言い草に怒りつつも、慌てて視線を戻したら、椎名くんは既にぐったりと目を閉じていて……。

 ていうか、ヤバイ!

 もしかして、椎名くん気絶してる!?

 それに、これって気のせいかもしれないけど……



(なんか、体の向こうが透けて見えてる……?)



 椎名くんが、透けている――!

 その事実に気が付いた時、わたしの身体に戦慄が走った。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ