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DIVE  作者: 関鯖
10/26

#04 真夜中の訪問者(3)

 

 

 

 何ともいえない微妙な空気が漂う中、暫し無言で見つめ合う。


「――しょう、かん?」


 消え入るような声で、わたしはひっそりと呟いた。


「わたしが……あなたを?」


 その問いかけに、彼が無表情で頷く。

 だけど……そんな突拍子も無いことイキナリ言われても!


「召喚って、何よそれ……」


 半ば呆然となりながらも、わたしはぐるぐると考えた。

 だって、召喚?

 わたしが?

 彼を?

 どうして!?


「召喚って、つまりその……魔女が呪文唱えながら、輪になって踊って悪魔呼んじゃう的な、あの召喚?」

「まあ、乱暴に言えば」

「『出でよ、なんちゃら!』とか叫ぶと、すごい戦力呼んじゃえます的な、あの召喚!?」

「……戦力? それはちょっと僕には分からないけれど」


 首を捻る彼を見て、わたしはハタと我に返るや慌てて言った。


「や、無い無い。無いって! わたしが召喚とか、ありえないし!!」


 声も高らかに、キッパリと否定する。

 だってゲームのキャラじゃあるまいし、わたしにそんな器用な事が出来るハズ無いではないか!


「そんなの無理だってば! だって、わたしフツーの女の子だし」

「だが、あなたは僕を呼び出したじゃないか」

「そんなこと言われたって、出来ないものは出来ないの!」

「なら、あなたはこの事態をどう説明するつもりなの?」

「いきなり説明しろとか言われても、そっちの勘違いとしか……」


 恐る恐る言ったら、彼の目がスッと細まった。


「僕は思い違いなどしていない。現にあなたは僕を召喚した。この事実は譲れないね」

「だけど、わたし本当に身に覚えがないし!」

「どんなに否定したところで事実は事実だよ、綾音」

「そんな! だって、わたし召喚獣とか呼べないもん!!」

「召喚“獣”……? 僕はケダモノではないのだが」


 彼は少し不愉快そうにため息をつくと、背中の翼を大きく広げた。


「それは、僕に翼があるから言っているの? だが、これはあなたの創ったものじゃないか」


 そう言うと、見ろといわんばかりに翼を軽くはためかせる。


「えっ、創った? わたしが? それを!?」

「そうだよ、綾音。あなたが僕を呼び出して、実体化したその時に」

「じ、実体化っ!?」


 またしても訳の分からないことを言われて、わたしは目を瞬かせた。


「実体を持たない僕のような存在が、一箇所に止められてしまうことさ。囚われると言ってもいい。あなたは僕にそれをやってのけた」

「やってのけたって……わたしが?」

「ああ、そうだ。僕は突然呼び出されて、気がついた時には、あなたの用意した器にまんまと閉じ込められていたというわけさ」

「そんなこと言われても……わたし、よく分からないよ!」

「僕だってそうだ。なにしろ、こんな間抜けな経験は初めてだからね」


 彼は顔をしかめると、わたしの首筋にそっと触れた。


「まさか、こんな事になろうとは……」


 ――この僕が、と。

 ため息混じりに呟きながら、わたしの頬を指先で辿る。

 彼は少し憂鬱そうな顔をして、物思いに耽っている様子だった。

 長い睫毛を伏せて遠い目をしている。


「それで、あの……これからどうするつもり、なの?」


 わたしはおずおずと彼に問いかけた。

 深刻そうな表情で押し黙ったままの彼に、少し不安を感じたのだ。


「――どうするって?」

「それは……えーと、この先の事とか」

「この先の事?」

「う、うん。ほら、色々と心配でしょ?」

「それは――僕がってこと?」

「え? そうだけど……?」


 微妙に噛み合わないやり取りに、少し戸惑いながら頷く。

 すると彼はちょっと呆れた顔をして、わたしの顔を穴のあくほどマジマジと見つめてきたのだけれど……。


「あなたはまるで他人事のように言う」


 その乾いた声音に、わたしは身を強張らせた。

 底光りする瞳で射るように見つめられて、ハッと息を呑む。


「酷い人だな。呼び出しておいて、それは無いだろう?」

「あの、わたし……」

「まだ否定するつもりなの、綾音?」


 物憂げな笑みを向けられて、わたしは総毛だった。


「わたし、そんなつもりは」

「どんなに否定しようが、どの道あなたは僕から逃れられない」

「そんな! わたし逃げようなんて……」

「そう? まあ、元より逃すつもりも無いけれど」


 己の無神経な一言に、彼を本気で怒らせてしまったと気付く。

 だけど、全ては後の祭りで。


「――綾音」


 暗く、甘やかな声音。

 彼の長い人差し指が、頬を優しく移動する。

 触れるか触れないかの感触で、そのまま頬を逸れ、その指はわたしの顔の輪郭をゆっくりと(なぞ)った。


「あなたは逃げられない」

「な……!」

「どんなにもがこうが、僕から逃れることは出来ない」

「……やめて!」


 わたしはそう言いながらも、自分の身体から徐々に力が抜けてゆくのを感じていた。

 今すぐにでも逃げ出したいのに、まるで金縛りにあったように身体が動かない。

 訳も分からぬままに、わたしの身体が何かに浸食されてゆく。


「お願い、やめて……!」


 もう駄目だ。これ以上抗えない、と。

 わたしが絶望的な気持ちで諦めかけた、その時。


「――御園ッ!!」


 ふいに大声で名前を呼ばれて。

 病室の扉が乱暴に開かれたと思ったら、そこに姿を現した人物を見て、わたしは目を見開いた。

 綺麗に日焼けした肌に、色の抜けた茶色の髪。

 その顔は、暗い室内に目がなれないせいか、まるで怒っているみたいで。


「なんで……!?」


 驚きのあまり、擦れ声で呟く。

 そう。 

 病室の入り口に立っていたのは、信じられないことに……

 昼間別れたはずの椎名くんだった。

 

 

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