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四季を巡る、少女たちのデスゲーム  作者: null
一章 四姫戦姫
5/30

四姫戦姫.5

これにて一章は終わりになります。

続きもすぐにアップしますのでよろしくお願いします!

 ゲーム終了を知らせる鐘の音の後、世界は脆く崩れ、再び蒼き深淵に戻っていた。


 すでに、紅葉の姿はない。あれはAIだったのだろうか…?


「さあ、ゲームは終わったよ」


 どこかで見ているはずの運営に呼びかける。


「良い宣伝になるんじゃない?まあでも、死体は明らかにやりすぎ。下手すると、PTSDになるよ、あれ。それから、アリスの性格が意地悪すぎ。見た目は完璧だけど、性根が可愛くない」


 自分の声がどこまでも遠く反響しているような錯覚を覚えていると、突然、青闇の中から拍手の音が聞こえてきた。


 振り向けば、そこにはアリスが立っていた。目に見えない階段を降りるように空中からゆっくりとやってくる。


 ふざけた動きだ。間違いなく、このVRは物理演算を組み込んでいない。


「おめでとうございます、スノウホワイト様。敗北する確率が最も高い初戦を無事突破するとは、さすがでございますね」

「…どうも」まだ茶番が続くのか、と辟易する。

「ですが――」


 ずいっ、とアリスが身を寄せてくる。かと思えば、彼女は雪花の胸ぐらを掴んで顔を近づけてきた。


「ちょ、っと!」

「私は容姿だけではなく、性格も可愛いのです。我が主とはいえど、その点を誤解されては困ります」

「分かったから、分かったから離して!」

「本当はみっちりご説明したいのですが…まぁ、いいでしょう。時間がありません」


 パッ、と胸ぐらを掴んでいた手を離したアリスは、先刻やってみせたように、虚空に青の文字を浮かび上がらせた。


 アリスの白魚のような指先が動けば、それに連動して、すらすらと文字が刻まれていく。


「…さっきも聞いたけど、なにしてるの、それ」

「夢と煉獄の舞台に上がるためのチケットでございます」

「またそれ…?もういいからさ、さっさと家に返してよ。っていうか、今、何時?私、ゲームを始める前の記憶がないんだけど、後遺症とか、残らないんだよね?」

「この場所において、時間など意味を成しません」


 答えになっていない答えの連続に、雪花がとうとう目くじらを立てかけた次の瞬間、ふぅ、と呆れたような、寂しがるようなため息が聞こえた。どうやら、アリスのものらしい。


「…人の夢とは不思議なものです。一枚皮を剥がせば、ただの欲望と変わりませんのに…誰もが美しい宝石のように語る」


 暗く澱んだ闇が、アリスの赤い瞳の中で渦巻いた。


 何かを懐かしむような、忌避するような、あるいは…吐き捨てるような響き。


 ちらり、とアリスがこちらを一瞥する。


「夢とは、希望とは、そんなに良いものですか?濃厚なチーズに合う、熟されたワインのように、人が生きていくうえで必要なものなのでしょうか?」


 雪花の目にはアリスが酷く物悲しそうに映った。


 少女の悲哀にかけるべき言葉を探しているうちに、再びアリスが文字を刻み始めてしまう。


(…何も、言ってあげられなかった…――って、AIなんだった…。でも、AIにしては、感傷的すぎない…?)


 十秒ほど経った頃、アリスの指先が文字を書きかけた状態で止まった。


「スノウホワイト様、僭越ながらご忠告がございます」

「忠告…?」


 ゆっくりと、彼女の指先が再び動き出す。


「少々――いえ、かなり痛みますゆえ、ご辛抱を」


 アリスの言葉を問い返す暇などなかった。


 直後、胸の中心にすさまじい熱と痛みが突き刺さる。


「うっ、あっ…!?」


 踊り狂う火炎が心臓に住み着いてしまったかのようだ。


 呼吸ができないまま、見えない床に倒れ込み、それから雪花はのたうち回った。


 こんな鮮明な痛みと熱、夢で感じられるはずがない…!


「あああっ、うっ、い、痛い…!何を、うぅ、ああぁ!」

「ご安心下さい、すぐ済みます」


 やがて、ドクンと鼓動が強く鳴った。


 心臓の辺りに、ぼんやりと赤い幾何学模様が浮かび上がる。フィクションなんかで見る魔法陣によく似ていた。


 それは、ひときわ強く明滅すると、痛みと共に嘘みたいに一瞬で消えてしまった。


 ぜいぜいと肩で息をしながら、雪花は立ち上がる。気色悪いくらい痛みはなくなっていた。


「あ、アリス、何をしたの…!?」

「貴方様はたった今、夢を叶える権利を手にされました」

「だから、その夢とかなんとかって、なんなの!?」

「そのままでございますよ、我が主」

「あぁもう、いい加減にしてっ!それじゃあ、何も分からないってば!」


 堪忍袋の緒が切れた雪花がそう怒鳴るも、アリスは怖がるどころ面倒そうに顔をしかめ、ぴょん、と一つジャンプした。


 目に見えない椅子があるみたいに、少女が何かに腰掛ける。それから、大儀そうに足を組み、両手を頬の横に揃えて言う。


「『退屈』、消したいのでしょう?」

「え、は…?」

「だからぁ、消したいのでしょう?現実という名の退屈の温床を」


 真っ白いニーソックスから覗く太ももが、妖しい光を放つ。


「それを叶える権利が、今、貴方に与えられたと説明しているのです、お分かりですか?」

「な、なによ、それ。意味が分からない。っていうか、ユーザーのプライベートに踏み込みすぎ!いい加減にしないと、正式に抗議するから!」


 勝手にさらけ出された胸の内をごまかすために、再度怒鳴り声を上げる。すると、とうとう少女は顔を歪めて嘲った。


「本当に鈍いお方。いつまで妄想に浸っておられるのですか?あはは、これがゲームなわけがないでしょう?」

「げ、ゲームじゃ、ない…!?」鵜呑みにしかけるも、ぐっと留まり、言葉を返す。「馬鹿にしないで!だったら、ここはどこだって言うの!」


 ふっ、とアリスは鼻を鳴らした。それから前屈みになり、揶揄するみたいに人差し指を振った。


「私は申し上げましたよ、ここは『夢と煉獄の狭間』だと」

「だから、それは設定でしょ!そもそも、アリスが言ったんじゃんか、これはゲームだって!」

「あぁ、そうでございますとも、これはゲームですよ」


 放たれた言葉に安心しかける。やっぱり、たちの悪い冗談だったのだと。


 だって、これがゲームや夢の類じゃないなら、さっきのあれは、人を…。


 雪花がぞっとする考えに蝕まれかけていたところで、アリスが大きく体をのけぞらせた。まるで見下すみたいな姿勢になった彼女は、いたぶるように雪花へと宣告する。


「このゲームは、命を賭け金にして夢を叶える壮大なゲーム。勝ち残れば夢を叶える権利を手にし、敗れれば、即、命を失うのです。あぁ、ご安心下さい、我が主。私の創造主がどんな夢でも叶えますとも。


 まぁ、何かご不満な点がございますか?そういう顔をしておいでです。それとも、これもまたゲームの趣旨とお考えですか?はたまた、貴方が巻き込んだ女のように、夢幻の類だとでも?


 愚かしい、そのような考えはおやめ下さい。


 だって、貴方様はもうご覧になられたでしょう?聞かれたでしょう?


『夢』破れた者の末路を、嘆きを、慟哭を。


 そうです、すでに打ち砕いておいでなのです。


『夢』という小綺麗な仮面を被せられた人の欲望を、その者たちがベットした『命』を!うふふ…」

18時に続きを掲載します。

全体としては5章程度を考えておりますので、よろしくお願いします!

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