9.人の幸せ(2)
一通り生活に必要なものや、食料を買いそろえた。
みうは少し後ろを荷物を持ちながら歩いている。
「みう、それ重くないか?
歩くの慣れてないのに、大丈夫か?」
一番軽い袋を持たせているけど、それでも心配だ。
「はいっ!だいじょぶです!」
ん、思ったより元気そうだ。
アパート近くのゆるい坂道まできた。
ここを登ればまもなくだ。
すると
「キャァアアア、誰かー!!!!」
と悲鳴が聞こえた。
俺たちが驚いていると、坂の上からベビーカーが・・・・・
落ちてきた!?
「主様!赤ちゃんが乗ってますよ!」
「なんだって!?」
ベビーカーを止めなければ!
が、その後ろから・・・・・
車が走ってきた。
「うっそだろ!!!!!」
どうする!?
このまま見過ごせば、多分ベビーカーはどこかにぶつかるか、車にひかれてバラバラ。
赤ちゃんも無事ではすまないだろう。
俺が行っても、ベビーカーごと車にはねられるかもしれない。
見ず知らずの赤ちゃんを助ける義理は、ない。
けど・・・・・
このまま黙ってみていていいのか。
俺は、何もしないで後悔しないか?
そう考えたら、体が勝手に動いた。
どうなるかわからないけど・・・・・
やってみるしかない!
落ちてくるベビーカーを受けとめて、車から避けられれば・・・・!
おれはベビーカーに向けて走り出し、坂の途中で受け止めた。
勢いがついているから、結構重い。
受け止めた衝撃で足がもつれる。
車が迫ってくる。
ベビーカーを持ち上げて走らないと。
けど・・・・もう間に合わない・・・・・!!!
「主様っ!!!!!」
みうの叫び声。
その瞬間ふっと体が浮き上がる感覚がした。
いつの間にかベビーカーと俺は、白い光に包まれて、道路脇に着地していた。
車は急ブレーキの音を立てて止まる。
坂の上から母親が、泣きながら小さい子供を連れて坂をおりてきた。
車の運転手も慌てて降りてくる。
中年のスーツを着た男性だ。
「君たち、大丈夫か!?」
「リコ!ああっ・・・・・
無事なのね!?
うっうっ・・・・・」
声にならない嗚咽。
「私がよそ見をしていて、気付くのが遅れてしまって・・・・。
君、怪我は?
あとそちらの赤ちゃんは・・・・・」
「あ、俺は大丈夫だと思います。
それより赤ちゃんの方が・・・・・
俺が受け止めた時に、結構衝撃があったんで・・・・・
今は大丈夫かもしれないですけど、後々なにかあるといけないんで、病院に連れていってあげて下さい。
2人共、車とはギリギリで接触してないんで」
「あなたがリコを助けて下さったんですか!?
ああっ、何てお礼を言ったらいいか・・・・・
うっうっ・・・・・」
母親は涙が止まらない。
「君が勇敢にこの子を助けようとしなければ、今頃、この子の命はなかったかもしれない。
それどころか下手をすれば、君の命だってわからない状況だった。
そして私も・・・・・・人殺しになってしまっていたかもしれない」
男性が神妙な顔で言った。
「接触はなかったと君は言ってくれたが・・・・・
万が一何かあったら、ここに連絡を」
そう言って男性は、一枚の名刺を差し出した。
【DINグループ 専務 仁科 】
DINグループ・・・・?
どっかで聞いたことあるような。
「お気遣いありがとうございます。
では、頂戴します」
男性は母親にも同じ名刺を渡していた。
俺と赤ちゃんに目に見える怪我がないことと、ベビーカーや車にもキズがないことから、警察への連絡をしないことを双方に確認し、男性は車で去っていった。
落ち着いてから母親に話をきくと、母親が荷物を落として拾おうとちょっと手を離した隙に、上の男の子がベビーカーを押してしまったらしい。
その先に坂があって・・・・・・
この状況になったらしかった。
「お母さん、リコ・・・・ごめんなさい」
男の子が涙目で母親と妹を見ている。
「コウ・・・・お母さんこそゴメンね」
母親が男の子を抱きしめる。
当の赤ちゃんは、ベビーカーの中であぶぶーと声を上げていた。
俺は怪我がなさそうなのを見てほっとする。
「お母さん、早めに赤ちゃんを病院に連れていってあげて下さいね。
お願いします。
さあ、俺たちも行こうか」
後ろで見ていたみうに声をかける。
「はい」
「あっ!待って下さい!
あとで主人とお礼に参りますので、ご連絡先を教えて下さい!」
「あ・・・・いえ、そこまでは・・・・・」
「とんでもない!
このままお礼もせずにいたら、私が主人に叱られてしまいます!」
「あ、えーとじゃあ・・・・電話番号だけ・・・・・」
俺たちは電話番号を交換して、その場を離れた。