8.人の幸せ
さて、これからのことを話さないと・・・・・
「みう、俺と君で人を幸せにする、って話だけど・・・・
具体的にはどうすればいいんだ?」
「はいっ、それはですね・・・・・」
とポケットからスマホを取り出す。
「私と主様の行いによって人が幸せになったと判定されると、ここのハートに1つずつ色がつくんです」
スマホの画面には
【しあわせポイントを100個ためると、天使試験が受けられるよ!】
と書いてある。
「んー、それは一体だれが判断してくれるんだ?」
「えっと・・・・多分・・・・大天使様ですね!
みう達の先生です」
「ふむ」
「なぁ、聞くけど幸せって、一体どういうことなんだ?」
「えーっと・・・・・
実はみうも・・・・よくわかんないです・・・・・
それを学んでくることも、課題のひとつなので・・・・・」
「ふむ・・・・・」
やっぱり漠然としすぎている。
しかもポイントを100個って・・・・・・
これ、100人分ってこと?
俺は慈善団体でも何でもないんだけどなぁ・・・・・
その前に、俺を幸せにしてもらいたいんだが。
「はぁ・・・・」
思わずため息が出た。
みうが心配そうな顔でこちらを見ている。
「みうはさ・・・・・このまま俺とここで暮らすってことでいいのか?」
みうの動きがピタっと止まる。
「いえっ!あの・・・・・
主様のご迷惑であれば、わたしは外でもどこでも大丈夫ですので!
だからどうか・・・・・」
ドキっとした。
今まで見せたことのない、必死な顔と暗くて寂しげな表情。
みうは、こんな顔も出来るのか。
「あ、いや、違うんだ。
追い出そうとか考えてるわけじゃなくて・・・・・
みうはさ、女の子だし、俺と一緒でいいのかな、って・・・・・」
「みうは天使です!
主様のお側にいられるのが、いちばんうれしいです!」
「ん、そっか、わかった。
じゃあ一緒に暮らすための準備をしないとな」
「準備・・・・?」
「まずは外に出るための洋服と・・・・」
「服?あっ!」
みう、お洋服、着れますよ!」
と言うと、体がふわっと光って・・・・・
白いTシャツとハーフパンツ姿になった。
胸には「みう」と書いたゼッケンがついている。
これって・・・・・小学生とかが着ている体操着じゃないか?
「うーん、みう、これはちょっと違うなぁ」
またガーン、という効果音が聞こえてきそうな顔をする。
「みう、お洋服間違いましたか・・・・」
「ええと、何でその服になったか教えてくれるか?」
「人間界のことをお勉強したときに、見たんです・・・・・
覚えてるのがこのお洋服しかなくて・・・・・」
「なるほど、見て覚えれば着替えれるってことか?」
「はい・・・・・」
「んじゃこれは出来る?」
スマホの画面から、適当な女の子のスナップを見せる。
スマホの画面をじーっと見て・・・・・
「やってみます!」
俺が見せたのは、白いワンピースにベージュのカーディガンを着た女の子の写真。
元々着ていたものに似ているから、とりあえずいいかなと思って選んだ。
「どうですか!?」
「ん、バッチリ」
「わぁ、やりました!」
へへっと笑う。
「そしたら準備も出来たし、買い物に行こうか」
みうを連れて家を出る。
暖かくなり始めた外は、心地よい風が吹いていた。
着替えの心配がなくなったので、スーパーと100均と・・・・
さすがにベッドをもう一つ置くスペースはない。
うーん、俺が来客用の布団で寝るかぁ・・・・
後ろをついて歩くみうは物珍しいらしく、キョロキョロしている。
「はぐれるなよー」
「は、はいっ」
パタパタと駆け足で隣に並んだ。
が、またすぐ俺と離れてしまう。
あ、そうか。
俺と歩幅が合わないのか。
気付かなかったな。
「ごめんな、少し歩くの速かったか」
「いえ、だいじょぶです!
天界では羽で移動することが多いので、ちょっと慣れてなくて」
「そか」
「主様はやさしいですね・・・・・」
とつぶやいて、一瞬沈んだ顔になったのを、俺は見て見ぬふりをした。