混ざる話の夢を見た
夢の中で啓示を得た。
飼っている犬が亡くなったら位牌を畑に撒けという夢を獣医は思い出す。
☆☆☆☆☆
愛犬のもとに獣医が朝食を与えに行くと、愛犬の命は尽きていた。
「あの夢は予知夢だったのか……?」
獣医はそう呟くと愛犬を荼毘に付し、遺灰を作り始める。
★☆☆☆☆
「おっとっと」
できた遺灰を撒こうと畑に向かう途中で、獣医は石に躓きバランスを崩す。
「あーあ、この間植えたばっかりなのに」
遺灰は庭にあった幼木にかかり、獣医が払おうと手をかざした。
「あれ?なんか様子が――しまった遺灰が!」
手をひっこめた瞬間、幼木はみるみる大きくなり、大木へ姿を変えていく。
遺灰は成長する木の枝に引っ掛かり、はるか上空にまで登っていった。
★★☆☆☆
「まいったな……共同農園だってのに」
獣医は覚悟を決め、木を登るために枝に手をかけた。
木登りを始めて少し経つと、下からざわめき声が聞こえてくる。
獣医が見下ろすと、近くの住人たちが集まっていた。
「すいません。僕のせいです。原因が木の上にあるんでちょっと待って――」
猿山に集まったサルの姿を思い出しながら、大きな声で獣医はそう叫ぶ。
すると住人たちはわらわらとこぞって木に上り始めた。
「え?なんで登ってくるの!下で待っていてください!って寒っ!」
強い風が吹き、振動で揺れる中獣医はポケットからフードを取り出す。
「その言い方ではかえって逆効果ですよ」
どこからか聞こえた声に獣医が顔を向けると、鶴が話しかけてきた。
「くださいは命令口調になりますよ」
獣医は鶴の話を聞き、その言い方の通りに下の人たちに話しかける。
すると登ってきた人たちは地上に戻っていく。
「まさに鶴の一声ですね。ありがとうございます」
「前に助けていただいたお礼です。それでは」
鶴はそう言うと風に乗り、大空へ羽ばたいていった。
(どこかで見覚えがあると思ったら、前に助けた鶴だったのか)
獣医は元気にはばたく弦の姿を見送ると、遺灰の回収に向かう。
★★★☆☆
遺灰を回収し、獣医が地上に戻って説明しようとすると雉の声を聞く。
次の瞬間銃声が響き、草むらに隠れていた猟師が姿を見せにんまりと笑う。
(黙っておくのが正解かな)
獣医が言葉を飲み込んだ瞬間、急に視界が開いた。
★★★★☆
「夢か……」
獣医は大きく伸びをして、ベッドから身を起こす。
「子どものころに聞いた童話や昔話がたくさん出てきた気が――」
獣医が夢の中身を思い出そうとすると、急に布団が重くなった。
布団の上では愛犬が元気よく吠えている。
「はいはい。ご飯な。ちょっと待っていろよ」
獣医が愛おしそうに犬をなでると、犬も嬉しそうに破顔して尻尾を振った。
★★★★★
「さて、今日から診察開始だ。張り切っていこうか」
獣医はそう言って愛犬を連れ、診察室へと向かう。