ひねくれ者の嫁
とある日の朝のこと。
あ、申し遅れたが俺、ふつーのリーマン。嫁は専業主婦。
ちな、子供は今年から高校生。毎日弁当がいる。
嫁も早起きして作っていたのだが……。
(ん? 一人分にしては多いな)
俺は朝飯のトーストを齧りつつ、テーブルに並んだ弁当の中身を見た。
冷ますために平皿に入れてある。
嫁、流しにたまった洗い物をせっせとやってる。
俺はそれ以上、特に気にせず、洗面所に向かった。
歯を磨いて顔洗ってひげ剃って。別室で着ていくシャツを選んで出社準備。
あ、そうそう、俺、会社で飲むお茶わかしてたんだ。もう冷めたかな。
台所に戻る俺。するとそこに、お弁当が二つ並んでいた。
ん? 嫁もどこかに出かけるのか? まあ別にいいけど……。
嫁、冷ました中身をテキパキと詰めてこう言った。
「良かったら持ってって。迷惑だったらおいて行って」
私が昼に貰うから。と嫁。
え?
「だから、食べたかったら持って行ってって言ってんの」
と嫁は言いつつ、蓋をして箸を添え、巾着に入れた。
俺には相変わらず背中を向けたまま。娘の弁当を詰めてる。
娘が、行ってくる―と言ってその弁当を受け取る。
行ってらっしゃい、気を付けてと言う嫁。
そんな嫁は背中を向けたまま、貴方も気を付けて行ってらっしゃいと言った。
「ああ、行ってくる」
俺はそれ以上言わず、作ってくれた弁当を鞄に入れた。