表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
触って! ヒーラーサノ先生!!  作者: 茶柱春子
♢ 第一話 魔王の娘と表情筋 ♢
PR
8/31

1-7

「……で、何で僕も一緒に?」

「あら、良いじゃない。憧れの舞踏会よ」

 自分をエスコートしながら廊下を歩くタキシード姿の佐野に、濃紺のゴシックドレスを身に纏ったカトゥが悪戯っぽく笑う。

(さ、サノ、サノのタキシード……え、カッコよ、カッコいいんですけど?? この人、体が引き締まってるから、礼服着ると凄くスマートに見えるわ……)

 内心は彼の珍しい姿に、大変興奮していたが。

「いや、確かに憧れはありましたけど、参加したいって訳ではなくてですね……」

「遠慮することは無いぞ。お主には世話になったからの!!」

(あああああああお父様可愛いぃいいいいい。え、は、ほんっとこのタキシード作ってくれた方天才!! 最高!! お父様には花丸上げます!!)

 同じく特注のタキシードを着たブンちゃんに、カトゥは一人荒ぶっていた。一方の佐野は、困ったように眉尻を下げている。

 彼女達は今、舞踏会の会場となっている人族の城にいた。本来であれば、入れるのは招待された者達だけなのだが、今回無理を言って、佐野を従者として同行させたのだ。

「さて、先に注意もしたが、ここでのお触りは厳禁じゃぞ 良いな? 絶対じゃぞ? フリではないからな??」

「前科があるのであれですけど、そこまで信用無いんですか?」

(これに関しては、正直うんとしか言えないわ……)

 心配する父に全面同意しながら、カトゥは見えて来た会場入り口の扉に深呼吸をする。

(……大丈夫、お父様もいる。サノもいる。それに、昨日はきちんと笑えていたんだから)

 何度も自分に言い聞かせるが、最後の一歩が中々踏み出せない。扉の前で立ち往生していたカトゥだったが、ふいに、頬を触られて、顔を上げる。

「あ、すいません。何だか緊張しているみたいだったので」

「……分かる?」

「ガッチガチですよ」

 バレバレだと言う佐野に、呻き声が漏れた。これじゃだめだと思うものの、ここに来て、今までの縁談で言われた言葉がフラッシュバックする。

「うう……」

「じゃあ、緊張しないおまじないをかけましょう」

「おまじない?」

 何をするつもりかと思えば、彼はタキシードの内ポケットから、一枚の小さな手鏡を取り出した。

「さ、これを持ってください」

「あ、はい」

 言われるがままに、小さな鏡を右手で受け取る。覗き込むそこには、緊張しているのが丸わかりな自分の顔しか見えない。

「いいですか? 今ここには、カトゥ様のお母様がいらっしゃいます」

 佐野がそう言って、カトゥの目を手で覆い隠す。ほんの一瞬の事だったが、彼が手を退けた瞬間、鏡の中に母が見えた。驚いて佐野を見るが、彼は優しく微笑んだままだ。

「さ、カトゥ様。お母様とおしゃべりしましょう」

「……あの、あのね、()()()。私、今凄く幸せです」

 促されるままに、カトゥは鏡の中に語り掛ける。

「貴女に救われたあの日から、ずっと悩んでました。私が生きてていいのか。本当は、お母様も、私を憎んでいるんじゃないか。私が、死ぬべきだったんじゃないかって。ずっと、ずっと……考え続けてきました。でも、答えは出なくて、それがとっても苦しくて……。私、もっと、お母様と一緒にいたかった。でも、貴女は私の前からいなくなってしまった。私の、せいで……」

「カトゥ……」

 ブンちゃんが、そっとカトゥの手を握った。

「でも、でもね。昨日、この人に言われて、私、気付いたんです。お母様は、ずっと私と一緒にいてくれたって。もう、一緒に語らう事も出来ないし、一方的に話しかける事しかできないけれど……お母様は、私の中にずっと生きてる。正直、あの日の自分を許す事は、まだできないけれど……いつか、いつかちゃんと許す事が出来たら」

 鏡の中の母が、かつてのように微笑む。

「その時は、一緒にあの花畑に行きましょう。また花冠を作って、みんなに配って回りましょう」

 返事は当然無い、それでも、カトゥには確かに母の声が聞こえた気がした。

「それじゃあ、行ってきます」

 そう一言告げて、彼女は佐野に手鏡を返す。

「改めて……エスコート、お願いね」

「姫様の、仰せのままに」

 彼は恭しくお辞儀をすると、左腕を差し出した。彼女がそこに右腕を絡ませると、それを見ていたブンちゃんが会場への扉を開く。

(っ……眩しい)

 中から溢れる光に、カトゥは目を細めた。何度か瞬きを繰り返して、ようやく慣れた頃、室内が静まり返っている事に気付く。

 周囲を見渡せば、会場にいる全ての人族の目が、カトゥ達を見ていた。

(け、結構な人数がいるぅ……やめて! そんなに見つめないで!!)

 口には出さないながら、思わず足が半歩程下がる。体まで後ろに行こうとしていたのを、いつの間にか腕を解いていた佐野の手に止められた。

「大丈夫。胸を張って、堂々と」

 聞こえて来た力強い声に、カトゥは無言で前に進み出る。

 従者として連れて来た佐野は、入り口に控える事になる。ここからは、カトゥとブンちゃんの二人だけになるのだ。

(大丈夫。胸を張って、堂々と)

 彼の言葉を、心で繰り返す。不思議と、佐野が隣に立っているような気がした。

 カトゥ達が奥へと歩くたび、人の波が割れていく。

「これはこれは、遠路遥々(えんろはるばる)、良くおいで下さいました」

 辿り着いた部屋の中心で、今回の主催者である国王がにこやかに挨拶をしてきた。

「招待、感謝するぞ! それにしても、お主も随分老け込んだの」

「いやぁー、貴方様にそう言われると、より年を取ったと思わずにはいられませんなぁ」

(そう言えば、国王はお父様とは旧知の仲だったっけ。仲良さそうで羨ましい……)

「あの」

 横からかけられた声に、カトゥが振り返る。プラチナブロンドの髪を後ろに流し、白いタキシードを着た青年が立っていた。

「カントゥス様、でございますか?」

(レディに名前を聞くなら、まずは自分が名乗るのが礼儀だと思うんだけど??)

「……ええ。貴方は?」

 少しぶっきらぼうに告げれば、彼は慌てた様子で名乗りだす。

「申し遅れました。私はアルベルト。この国の第二王子です」

(あら、じゃあこの方が、縁談の第一候補かしら)

 年を聞けば二十になったばかりらしく、至らない所は見逃すことにした。

「えっと、良ければ少し、お話をしませんか?」

(あれ、舞踏会なんだから、てっきりダンスのお誘いかと思ったのに)

 そう思うものの、もしそうならば断わっていたのだが。

「えっと、初めはダンスをお願いしようと思ったのですが、まだ出会って間もない男と踊るのは嫌かと思いまして……」

 気まずそうに話すアルベルトに、カトゥは驚いた。今までの人族は、大体が断っても強引に誘ってくる者達ばかりだったのだから。

「良いわよ。お話しましょう」

「……!! 良かった、では、こちらへ」

(うーん、なんだろ。ハウンドの耳と尻尾が見えた気がしたんだけど)

 誘われた先は、料理やワインの並べられた、比較的小さなテーブルだった。

「カントゥス様は、舞踏会は初めてですか?」

「いいえ、何度か経験があります」

「あ、そ、そっか。そうですよね、確か、魔族は僕達よりも長生きだから」

 失敗したと言う表情を隠そうともせず、彼はあわあわしている。その様子が面白くて、カトゥは思わず、吹き出してしまった。

「あ……!!」

 くすくすと笑う彼女に、アルベルトは頬を赤くする。カトゥはそれを、笑われて恥ずかしがっているのだと思った。

「貴方は、今回が初めて?」

「っ、は、はい!」

「そう。でも、慣れないと駄目よ? これから先、こういった場に出る事は増えていくでしょうから」

(第二王子だけど、式典や祭典には参加するだろうし……慣れておいて、損はないしね)

 そんな事を考えながら、テーブルに置かれていたクラッカーを一枚(かじ)る。

「あ、あの!!」

(ぼあっ!? な、何事!?)

 急に大きな声を出したアルベルトに、驚いてクラッカーを落としかけた。魔法で何とか防いだ事にホッとしたのも束の間、急に手を取られて向きを変えられる。

「わ、私と、婚約していただけないだろうか!?」

(……ほあ!?)

 さっきまでの大人しさは何処へやら、カトゥの返事を聞くでもなく、グイグイ来る彼に、口元が引き攣るのが分かった。

「ちょっと待った!!」

(今度は何!?)

 割って入って来た人物は、アルベルトを引き離すと、カトゥの手を取って至近距離で見つめてくる。

(いや近っ)

「この僕と、婚姻を結んでいただけないか?」

(貴方もなの!?)

 まさかの連続告白に、カトゥはなぜだと疑問で一杯だ。

「いや、俺と結婚してほしい!!」

「馬鹿を言うな! 魔族の姫、僕と夫婦になってくれないか!?」

「いや、私と!!」

 しかし、考えている間にも、一人、また一人と結婚相手に立候補して来る者が現れる。仕舞に男達は、誰がカトゥと結婚するかで勝手に揉めだした。当の本人は、完全にほったらかしである。

(ええ……これ、どういう状況……?)

 困惑していたカトゥだったが、背後から感じた魔力に、音が出るのではという勢いで振り返る。そこには、男達に向けて今にも魔法をぶっ放しそうな父の姿があった。

「ぶぶぶブン殿、ブン殿!! 頼む、それはいかん、死人が出るぞ!!」

「ブンちゃん様!? 流石に人様のお宅で魔法は不味いですよ!?」

(あ、これは本気で駄目なやつだわ)

 しがみ付く国王と、遠くから叫ぶ佐野の言葉も、残念ながら魔王には届かなかった様だ。

「かわいい娘は、嫁にやらぁああん!!」


――ドッカーンッガララガッシャンジャララララ


 魔王の言葉と共に、大爆発が起きる。カトゥは瞬時に転移魔法を発動させると、国王とサノを回収し、素早く防御魔法を展開した。

 それにより、彼女達は無事だったものの……。

「う、うわあ……」

 爆風が治まった室内の惨状に、佐野が呆然と囁いた。

 調度品はほとんど壊れ、柱はひび割れ、天井には穴が開き……とてもじゃないが、舞踏会など続けられそうに無い。

「あの、父がすみません……」

 申し訳ないと頭を下げれば、国王は朗らかに笑う。

「いやいや、元はうちの息子共が悪いのです。気にしないでくださいな」

「でも……」

「息子達なら心配せんでください。あれでもそれなりに力のある者ばかりじゃからの。死んではおらんじゃろ」

(それはそれでどうなんですか……)

 国王の言葉に、カトゥは苦笑した。

「それにしても……良く笑うようになりましたな」

「……! そう、かしら」

「うむ。きっと、貴女にとって、とても良い事があったのでしょう」

 そう言って微笑まし気な国王に、カトゥはその通りだと、心の中で返事をする。

「さて、片付けはどうしようかの」

「父上にやらせますので」

 そう言って、カトゥは部屋の中心で子供のように駄々を()ねるブンちゃんを見た。

「うぢのむずめば、ぜっだいに、よめになんじょやりゃん!!」

(ぐううう、凛としたお父様も良いけれど、癇癪(かんしゃく)を起して泣き喚く姿も可愛いぃい。でもそれとこれは話が別だから……でも、もうちょっとだけ……いや、自分の家ならいいけど、ここは人様の御宅なんだから、早く撤収しましょう)

「カトゥ様、ブンちゃん様を回収しましょうか」

 困ったように頬を掻く佐野に、カトゥは微笑みながら頷き返す。

「……お美しくなられましたな」

「ふふ、ありがとうございます」

 国王からのお世辞に笑顔で答えながら、未だ泣き続ける父親の元へ向かうカトゥだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ