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世間知らず

「つうわけでさ、さく姉俺の事全然信じてくれねえんだよ」


 歩人は背負うあずきに髪を噛まれつつ麻香麻と並んで帰り道を歩く。

 普段と違うのは歩人の傍らに桜がいない事である。


「まあ、桜ちゃんの言い分も分かりますが……さすがに山岡さんとは……」

「あむあむ、山岡はまずいよねー、あむあむ」

「今のさく姉は一度痛い目見ないと俺の言う事聞いてくれそうにないけど、痛い目に合わせないために注意してんだよなあ」

「とにかく噂を知らない子ですから」

「とにかく友達いない子だからねえ」


 すると歩人は視線を反らした。


「それ言ったら俺も男友達一人もいないんだけどな……」

「あれ、そうなんですか?」

「なんでー?」

「姉さん達のせいにきまってんだろうが!」


 歩人は額に青筋を浮かべて腹の底から叫んだ。


「幼稚園の頃から一日中ついて回って休み時間の度に教室に詰めかけ二四時間三六五日恥も外聞も無く人の事こねくりまわしやがって! ブラコンだかドラゴンだか知らねえがたまには俺に安息をよこせ! 初代ドラクエを見習え、パーティ主人公一人だろ!」


「FF派のわたしに言われても困りますよ」

「ボクも口笛と荒野のワイルドア○ムズ派だし」


「そこはどうでもいいんだよ! 小三の頃仲良かったふとし君は俺があず姉に耳噛まれているの見てから口きいてくれないし小四の時の卓也君は俺が麻姉に抱き付かれているの見てから冷たい目で見てくるし小五の時の(はざま)委員長なんて俺がまだ姉さん達と一緒に風呂入ってるって言っただけで殴りかかってきたんだぞ!」


「それただの嫉妬ですよね?」

「器ちっちゃいね」

「容赦ねえのな……」


 歩人が辟易すると気を取り直すようにあずきが首元に絡みついてくる。


「でも小六の時は問題なかったでしょ?」

「小六が一番ひどかったんだよこのニャンコ!」

「それ本当にわたし達のせいだったんですか?」

「決まってんだろうが! なんだ小六の時の修学旅行! なんで姉さん全員+母さんで学校休んで京都について来るんだよ! なんで俺を自分達の部屋に引き込むんだよ、おかしいだろ!」


 鬼の形相で睨む歩人に、だが麻香麻とあずきは悪びれる様子も無く、


「だって母さんの実家の頭首が旅行代出してくれるって言うから……」

「一人当たり二〇万円の超豪華コースだったよねー」


 言いながらあずきの顔が(とろ)ける。


「いや確かにフグの薄造りおいしかったけど、そのせいで俺が周りからどんな目で見られって、今頭首って言ったよな!? 頭首ってだれだよ!? 母さんの実家何やってんだよ!?」

「うーん、わたし達もよくわからないんですよね、蓮華(れんげ)姉さんなら盃を交わしたから詳しいと思いますけど」

「確か頭首の人に『良い目をしてる』とか言われたんだよね?」


 歩人の顔が青ざめる。


「なあ、まさかそこって白い粉などを販売してる場所じゃないだろうな?」

「さあ、子供の頃に一度だけ行った事があるだけですから……」

「そうだね、ボクもあの屋敷で覚えているのはおじさん達がみんな日本刀持ってるって事だけだから」


(ガチじゃねえかソレ!)


「そういえば何で専属の闇医者がいるんでしょうね」

(気づけよこのメ○ネ! メガネだからって心も曇らせるなよ!)


「殺した殺されたって言ってたからきっとアクション映画好きの家なんだね」

(そこのクソニャ○コ! お前は脳味噌までネコ並か!)


「「本当に、母さんの実家の神刃(かみや)一家ってなんなんだろうねえ」」

「んっ、カミヤってどういう字だっけ?」

「神様の神に刃って書くそうですよ」

「カッコいいよねー」

(もうダメだこいつらなんとかしないと)


「でも、それは置いといて、あゆ君て実際いい噂無いし、お友達ができないのはそのせいだと思いますよ」

「んっ、噂ってどんなだ?」


「うんとね、あーちゃんがボク達五人の全員の処女を奪ったとかボク達を毎晩日替わりでかわいがっているとか、休日の日は全員まとめて6Pでヤッてるとかだね」

「その見た目から想像もできない裏の顔を持つ夜の帝王で有名ですから」

「結局姉さん絡みじゃねえか! つうかそんなに有名なのか!?」


「ええ、学校で知らない人は一人しかいないくらい有名ですよ」

「またかよ! だから何でそいつだけ知らないんだよ!?」


「あっ、でもたった今学校全員が知りましたよ」

「どうしてだ?」


 スッと、あずきと麻香麻が同時に歩人を指差した。


(俺かーー!!)


 自分もまた、桜と同じレベルだと知り落胆する歩人。

 二人の姉は無言で頭を撫でまわし慰めた。


「っと、なんかグダグダ話ちまったけど話戻すぞ、とにかくさく姉と山岡をだな……」


 ビュン、と歩人達の横の道路を車が通ったのはその時だった。

 歩人はやや黙り込むと不意に麻香麻の手を引く。


「麻姉、今日はさく姉がいないから俺の左歩いてくれ、車道側は危ないだろ?」


 言われるがままに歩人の左へまわる麻香麻、その顔は完全に乙女で、


「あゆ君……」


 と、一人トキメいている。


「どうしたんだ麻姉、顔が赤いぞデデデデ!」

「ガウー!」

「あず姉力入れすぎ! いつもの甘噛みじゃ無くなってる!」

「ガルルルル!」

「あずきちゃん、このままじゃあゆ君耳無し法一になっちゃうから離して」

「アダダダダ! 千切れる! これマジで千切れるって……」


 三秒後、アスファルトに赤い雫が落ちた。



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