姉を守れ
放課後、あずきと麻香麻からの情報も含めて山岡への不信感を最大限に膨らませた歩人は桜にハッキリと諫言する。
「さく姉、山岡とはもう会わないでくれ」
下駄箱へ向かう途中でいきなり弟にそんな事を言われた桜は、口をキュッと結ぶ。
「朝からなんなの歩人君、あたしが誰と付き合おうと歩人君には関係ないでしょ、歩人君なんて山岡さんと話した事も無いじゃない、なのに酷いよ!」
「だけど……」
「とにかく、今日はあたし山岡さんと帰るからね!」
弟が止めるのもきかずに姉が向かう先、玄関の前にはまた、髪を染めた山岡がいた。
二人の背中が歩人から遠ざかる時。
本当に、本当に一瞬の間だが……振り向いた山岡と歩人の目が合った。
「ッ!」
歩人の童顔の瞳孔が開き、眉間に薄いシワが浮かぶ。
確信だった。
あの山岡という女の悪意を、歩人の瞳は感じ取った。
「あーちゃーん!」
あずきの限りなくタックルに近い抱き付きを腰の中心に受け、歩人は「グハッ!」と声を漏らしてバットを振りすぎた老人のように崩れ落ちた。
「大丈夫ですかあゆ君、もう、ダメじゃないですかあずきちゃん」
床に倒れ伏した歩人を起こそうと麻香麻が腕を掴んだ。
「ほら、あゆ君起きてって、重!? と思ったらあずきちゃん早く降りて下さい、なんでまだ腰に抱きついてるんですか!?」
「ヤーダ、このまま帰るー」
「ああもうわがまま言わないで下さい、ほら降りて、痛、ちょっ、噛まないでください」
「ガウー!」
「だから痛いって、痛い、これリアルに痛いですから、あずきちゃん!」
ぼやける意識の中、そんなやりとりを聞きながら歩人は思った。
(母さん、俺はもうダメかもしれません)