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エピローグ前半

 歩人が退院したある日の休日、歩人は明るい声に起こされる。


「あゆちゃん!」


 目を覚ますと、母なずなの幼い笑顔に視界が埋め尽くされている。


「どうしたんだ……母さん?」

「うん、あのねー、今日ママの誕生日でしょう? だから、ママとデートしよ!」

「へっ?」


 歩人がマヌケな顔で聞き返すとなずなは歩人を無理矢理ベッドから引き抜きパジャマを剥ぎ取って行く。


「いいからいいから、今日はママとデートったらデートなの! ほら、早く着替えて着替えて!」

「早くって、朝メシは?」

「みんなの分は作ってあるから、あゆちゃんはママと喫茶店でモーニングメニュー食べるの!」


 まるきり駄々をこねる子供そのもののオーラを全身から放ち、手際よく歩人を着替えさせていく。


 歩人は、桜が先に起きて部屋を出ていた事を天に感謝した。






 それから、歩人はなずなに連れられて街まで行った。


 朝ごはんを食べてから、いい年した大人が行くなと思いつつゲームセンターとカラオケをハシゴして、ボーリングへ行ってから昼食を食べた。

 

 その後で映画を見てショッピングにつき合わされ、最後に夕日に染まる公園を歩くという、ありきたりな高校生同士のようなデートであった。


 途中、公園のベンチで座り、歩人はなずなと一緒に赤い夕焼けを眺める。

 しばらくすると、なずなが先に話を振った。


「ねえあゆちゃん、今日……楽しかった?」

「ん、まあな、そういえばこうやって母さんと二人で出かけるのって久しぶりだな」

「うん、そうだね……ねえ、あゆちゃん」

「?」

「あゆちゃんは、お姉ちゃん達の事好き?」

「ああ、好きだよ」

「女の子として?」


 歩人の肩がビクッと跳ね上がり、咳き込んだ。


「何言ってんだよ、姉さん達は姉さんだろ、だいいち母さんは俺が五股かけると思ってんのかよ……こうやってみんなでバカやってられるのも今だけだよ、どうせ、一〇年もすればみんなそれぞれの好きな人を見つけて、その人と結婚して、家庭を作っていくんだ、理想論ばかりは言ってられない、家族はいつかバラバラになるんだ」


 なずなの表情が曇るのを見て、歩人はなずなの手を握る。


「安心しろって、俺は男だからな、嫁さんを連れてくる事はあっても、俺が母さんを残してどっかに行く事は無いよ……」

「あゆちゃん……そう、思ってくれるんだ……」


 瞳の奥に僅かな不安を感じて、歩人はスッと、なずなの肩を抱き寄せると、今まで以上に優しく語り掛ける。


「まだ気にしているみたいだけど、貴方は俺の母さんですよ、例え俺を生んだのが代理出産でもね……」


 代理出産、卵巣に問題は無いが子宮に問題のある女性の為の出産方法で、健康な子宮を持つ女性の子宮に他人の受精卵を癒着(ゆちゃく)させ、他人が他人の子供を生むというものだ。


 歩人は、その代理出産で生まれた子である。


「でも、その相手の女の人って父さんの弟と結婚した母さんの従姉妹(いとこ)だろ? だから俺は母さんと血は繋がってるし、そして母さんのお腹の中で育って、母さんに生んでもらって、母さんのオッパイを飲んで、母さんに育てられた、これが他の親子と何が違うんだ?」


「あゆちゃん……」


 なずなの目が涙で潤む。


「この体は母さんが生んで母さんが育ててくれたモノだ、俺は、貴方以外を母さんだと思った事は無いよ」


 流した嬉し涙はあまりにも量が多すぎて、なずなはぼやける視界のまま歩人に抱きついた。


「あゆちゃーん……」


 そして、なずなの唇もまた、歩人の唇と重なった。


「!!?」


 驚く歩人に、なずなは可愛く笑ってウィンクをした。


「えへへ、別にいいでしょ、ママとのチューなんて赤ちゃんの時にいっぱいしてるんだから、他にも蓮華ちゃんも眞由美ちゃんも麻香麻ちゃんもあずきちゃんも桜ちゃんも、みんなみーんなママといっぱいチュッチュしてきたんだよ」

「……だから、それは赤ん坊の頃の話で……」

「いいからいいから、ほら、もう家に帰ろ、みんな待ってるから」


 なずなは赤面する歩人の手を引き、今度は家へと向かった。

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