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姉とのデート

「クッソ二〇六キロかよ」

「この一トンて機械のミスじゃねえの?」


 パンチングマシーンの前にはガタイのいい若い男が数人集まっていた。


 皆、全国ランキング一位にしてこのゲームの上限値でもある、パンチ力一トンの表示を見ていた。


 そこへ……


「あんたら、やんないならどいてくんない?」

「ああ?」


 男達が振り返ると、そこには女と小柄で童顔の少年が立っている。


「……どうぞ」


 以外にあっさり場所を明け渡して男達は観戦モードに入る。

 とは言っても、観戦対象は二人のプレイではなく、蓮華の爆乳だったりする。

 だが、数秒後に彼らの視線は一瞬で変わる事となった。


「よし、じゃあ歩人先にやれ」

「これやるの久しぶりだな、前にやった時は確か八〇〇キロだったな」


 今の言葉で男達の視線が歩人に向かい、同時に、


(かつ)ッ!!!!」


 全身の筋肉がフル稼働、突きに使う全ての間接の呼吸が合う。


 雷鳴が如く床を踏みしめた健脚から放たれた肉体は拳を先端にして、マシーンのサンドバックのようなマトに激突した。


 男達が今までの人生で聞いた事も無いほど巨大な打撃音がゲームセンターを支配する。


 ありとあらゆるゲームの音が入り混じる騒音の中でもそれは確かな存在感を全て客に伝えた。


 ディスプレイには、一トンの表示がされていた。


「やーっとあんたも一トン出るようになったか……あたしなんか中学の時にはもう出してたよ」

「姉さんと比べられたら誰も勝てないって……」


 姉弟同士の日常会話の横で開いた口の塞がらない男達だが、本当の驚愕まだ先である。


「ほんじゃ、次はあたしの番だな」


 歩人からグローブを受け取り、蓮華が拳を振るった。

 今度の音は、質が違い過ぎた。

 金属の悲鳴、爆音のように轟いた空気の振動に男達の総身が凍りついた。

 パンチングマシーンのマトは千切れてディスプレイに突き刺さっている。

 バチバチとショートしながらマシーンが機能を停止させると蓮華は、


「うっしゃ!」


 と喜び、店の奥から店長のオヤジが慌てて走ってくる。


「ちょっとちょっと、今の音はって……れ、蓮華さん!?」


 店長は大破したマシンよりも蓮華の顔に驚き、揉み手状態で腰を低くした。


「久しぶりだな店長、元気だったか?」

「いや私は元気ですけどたった今マシンが元気じゃなくなったじゃないですか、カンベンしてくださいよホントに……」


 冷や汗をかきながらあくまで下手(したて)に出る店長に蓮華はあっけらかんと笑う。


「はは、まあまあ、明日タダで修理屋よこすから許してくれよ」

「タダでって……」

「安心しろって、今貸しがある電器屋と技術者が合わせて八人くらいいるから」

「はぁ、相変らずスゴイですねぇ」

「まぁ、うちの姉さんですから」


 そんなやりとりを眺めながら男達の一人が店主に恐る恐る声をかける。


「あの、この人……誰っすか?」


 すると店長は慌てたように平手で蓮華を差す。


「知らないのか!? このお方はあの地上最強の生物オーガ! 南城蓮華さんだ!」

「れれれれれ、レンゲェエエ!?」

「オーガってあの象殺しの!?」

「蓮華ってあの(くじら)殺しの!?」

「三時のオヤツにライオンを殺して食べるあの!?」

「地面を殴って地震を止めたっていうあの!?」


(だから蓮姉学生時代何してたんだ!?)


 男達は全員揃って土下座すると床に額をこすりつけた。

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