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四女 八重歯×つるぺた×甘えん坊 あずき

「あーーちゃーーーーん!」


 背後から小質量超高速物体の接近を察知し、帰宅途中の歩人は通学路で振り向き対象を視認するとマトリク○の主人公も真っ青の仰け反りを見せそのままブリッジして人間砲弾を回避。


 目標を失った小型砲弾はそのまま道路標識の鉄柱に顔面から突っ込むと思いきや手をついてその鉄柱を中心に真横大車輪をキメた。


 遠心力の力も加わりより加速した小型ミサイルはブリッジした歩人へまっしぐら。

 素晴らしき腹筋の瞬発力ですぐさま上体を起こした歩人は今度は本場スペインのマタドール並の見切りで体をひねりつつ、あくまでも反射的にソレを叩き落した。


「ぎゃふんっ!!」


 ズザザザザッ、とアスファルトを滑ってやっと止まり、人々の通るアスファルトに大の字でうつ伏せに倒れる小動物は……


「゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ、鼻とヒザ擦りむいたぁああああ!! 痛いよぉおおおお! 全部あーちゃんのせぇだぁああああ!!」


 ギャグマンガが如く大量の涙を流しながらオモチャを取り上げられた幼稚園児のような声で泣きじゃくる、今年で一七歳になる姉に歩人は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「わ、悪い……つい……」

「ついじゃなーーい!」


 泣きながらビシッと指を差して怒りをあわらにするあずき、とは言っても容姿が容姿だけに迫力はこれっぽっちも無い。


 周囲の人々から「小さい子泣かすなよ」と冷たい視線を浴びる歩人は心の中で「コレは俺の姉ちゃんです」と叫んだ。


 見た目年齢一〇歳の一七歳は、


「おんぶーおんぶー、あーちゃんがおんぶしてくんなきゃヤダー!」


 と言って手足をバタバタとアスファルトに叩きつけている。

 だが歩人は慌てる事なく口を動かす。


「最初からそれが狙いなんじゃないのか?」


 冷静な視線に貫かれたあずきの鳴き声が止まる。

 ……


「そんな事ないよー」

「今の間はなんだ今の間は……?」

「うぅ、とにかくおんぶったらおんぶー、じゃなきゃお姫様抱っこー!」

「やれやれ……」


 と、怠慢な溜息をついて歩人は「ほらよ」と言って背中を差し出してしゃがみ込んだ。

 途端に表情のチャンネルを変えたあずきがスキップをするように背中に飛び乗ってきた。


「えへへー、あーちゃんの背中大っきい」


 歩人よりも余裕で頭一つ分以上も小さい二歳年上の姉は八重歯を見せてニパーっと笑って肩口に頬を擦りつけてくる。


「はいはい、ったく、これ何も知らない人が見たら絶対あず姉、俺の妹だと思われるぞ」

「むー、ボク妹じゃなくてお姉ちゃんだもん」


 頬を膨らませて反論するあずきはご立腹の様子で手を振り回し感情を表現する。


「まるで子供だな……」


 歩人の発言にあずきは何かを思いつき頭の上で電球を光らせる。


「ボク子供じゃないよ、だってー」


 あずきは歩人の首元に抱きつくと平らな胸を背中にギュッと押し当てた。


「子供はこんな事しにゃいもん、ねえねえ、ボクの胸気持ちーい?」

「全然」


 と、猫撫で声で問うてくるあずきをけんもほろろに斬り捨てて歩人は肩を(すく)める。


「だいいち、ありもしないモノの感触をどうやって確かめるんだよ、そういう事は霊媒師に聞いてくれ」

「にゃー! ボクの胸はオバケかー!?」

「存在の不確かさは似たようなものだろ?」

「なにおー!」


 背中であずきがニャーニャー騒ぐので歩人は姉を落とさないようバランスを取るのに必死である。


「ああもう暴れるな暴れるな、最近ハードなイベントばかりで本当なら入院してもいいくらいなんだぞ」


「むぅ、ハードなイベントって何さ」


「ええっと、まず蓮姉と一緒に不良グループ達と戦って内蔵出血と火傷、それから眞由姉を守るためにストーカーと戦って全身数十箇所の刺傷、麻姉の絵を会場に届けるのに自転車でハデに転んで全身打撲」


「全部お姉ちゃん達絡みじゃん! あーちゃんお姉ちゃん達にばっかり優しくて不公平だよー!」


「不公平って、俺はちゃんと平等に……」


「ウソつけー! そんなにHカップがいいのか、そんなにFカップがいいのか、そんなにDカップがいいのかぁーー!!」


「えっ、っと、そりゃ蓮姉の胸は量感と弾力ハンパねえし、眞由姉のはすげえ柔らかいし、麻姉の胸って大き過ぎなくて、ホント丁度良く大きくて、ああでも別に大き過ぎるのが嫌いなんじゃなくて大き過ぎるっていうのがまた…………」


 歩人が言えたのはそこまでだった。


 残りの言葉は背後で膨張し続ける殺気で呑み込んでしまった。


 ダラダラと冷や汗を流しながら錆びたブリキ人形のような動作で首を回すと、そこには涙をボタボタと流しながら息を荒げるあずき。


 背後にはキバを剥き出しにした虎の幻影が見えるほどの殺気を発している。


「ちょっ、あず姉……」

「ニャーーアーー!!」


 声を張り上げて叫びながらあずきは歩人の肩に、背中に、首に、耳に噛み付き、最後に両腕で首を締め上げながら頭にガブリと噛み付いた。


 あまりの痛みに歩人は悲鳴あげるがそれでアゴの力を緩めてくれるほどあずきはお人好しではない。


 胸の恨みは恐ろしいのだ。


 尻にムチを打たれた馬のように走り、歩人は家に向かった。


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