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姉の絵

「それで麻ちゃん、絵のほうはどうなの?」


 眠たそうな顔でモソモソと朝食を食べる麻香麻に母のなずなが聞くと、麻香麻があくび交じりに、


「それが全然描けてないんですよね」


 と返す。


「えー、でも描くモノくらいはきまってるんでしょ?」


 舌っ足らずな問いかけに麻香麻はまたあくびをしてから返す。


「それが、その、私もこれが最後の大会ですから、やっぱり悩んじゃうんですよね」

「そっかー、でも麻ちゃん昔から良く花の絵を描いてたし、今回は一番得意なアサガオなんてどおかなぁ?」

「…………」


 少し黙ってから、麻香麻は視線を窓の外に投げた。


「ダメですよ……アサガオだけは……」


 他の姉達同様、朝食を食べ終えた歩人は廊下でドア越しにその言葉を聞いていた。





「歩人くん?」


 桜の呼びかけに歩人はハッとして、今まで自分が教室の椅子に座ったまま外を眺め続けていた事に気付いた。


「いや、べつに……」

「なんかボーっとしていたよ、何か考え事?」


 息を吐いて、歩人は制服のポケットに手を入れてイスの背もたれに体重を預ける。


「麻姉、高校最後の大会なのに絵が描けてないんだ……」

「そ、そうなんだ、あたし達で何か手伝える事があればいいんだけど……」

「麻姉さあ、子供の頃、よくアサガオの絵、描いてただろ?」

「あっ、そういえばそうだっけ、自分と同じ名前の花だからって、でも最近はあまり見ないよね、あたし達にはマユミとかレンゲとか、他にもアズキの花とか描いてあたしとお母さんにもサクラとナズナの絵を描いて誕生日にプレゼントしてくれたけど、アサガオの絵って描かなくなったの中学生から――」

「小学四年生」


 桜の言葉を遮り、歩人は机に肘をつく。


「俺とさく姉が小学校二年の時だよ……俺がアサガオの弟だからお前もアサガオだって、アサガオには水をやらなくちゃってクラスの男子達に水かけられて虐められたのを麻姉のせいにして、お姉ちゃんなんか大嫌いだって言っちまったんだよ、麻姉は俺の事心配してくれてたのにな」

「それは……」


 なんと言ってよいのか分からない様子で、桜は目を伏せる。


「麻姉はアサガオの花が大好きなんだ、なのに俺が描けなくした」


 自責の念が感じられる言葉に桜は歩人の肩に手を乗せて語り掛ける。


「そんなの考えすぎだよ、まだ麻香麻お姉ちゃんがアサガオ描きたいって決まったわけじゃないんだから、本当にただ最後の大会だから悩んでいるだけだよ」

「……だと、いいんだけどな」


 嘆息を漏らす歩人の隣で、桜は言葉を詰まらせた。




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