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三女 メガネ×オタク×ドジ 麻香麻

「まちやがれ歩人!」

「まちやがれー!」


 いかにも雑魚キャラのセリフを吐きながら二人の少年に小学生の歩人は追いかけられていた。


 逃げ始めてから一分もしないうちに歩人は転び、二人の男子は追いつくと手に持っていたジョウロで歩人に水をかけ、歩人は服も髪もびしょびしょになってしまう。


 幼い歩人は泣いた。

 何故こんな事をするのだと、何故こんな目に合わなければならないのだと、ソレに対し、二人の男子の答えは驚くものだった。


「だってお前の姉ちゃんアサガオなんだろ?」

「アサガオの弟なんだから、お前もアサガオじゃん、先生がアサガオには毎日水をあげましょうって言ってたじゃねえか」


 言って、男子達はまた歩人に水をかけ始める。


「やーいアサガオー」

「アサガオアサガオー、歩人の姉ちゃんアサガオー」


 水をかけられ、泣きながらなんの抵抗もしない歩人の耳に、聞きなれた怒号が聞こえたのは、その時だった。


「くぉらクソガキ共ぉおおおッ!!!」


 砂塵を巻き上げ爆走する赤毛の女子に男子達の顔がひきつる。


「げげ、蓮華だ!」

「逃げなきゃ殺される!」


 二人は慌てて逃げようとするが時既に遅し、小学生とは思えない速さで迫ってきた蓮華は全く同時に両手の拳を突き出した。


「あたしの弟に何しとんじゃボケぇええッ!!」


 蓮華のハンマーのような拳が二人の男子の顔面に直撃、鼻血と乳歯を飛び散らしながら数メートル先の花壇までブッ飛んだ二人は仲良く天に召された。


「ったくクズどもが、ああいう馬鹿は一度死なねえと治らねえな」


 指をバキバキと鳴らしながら蓮華が気絶している男子から視線を歩人に戻すと、ぼろぼろと涙を流しながら歩人が見上げてくる。


「れんげおでぇぢゃーん…………」

「教室に迎えに行ってもいないと思ったらまったく、虐められたらあたしの教室来いって言ったろ?」

「あうぅ……」


「おねえちゃーん」

 続いて蓮華が来たのと同じ方角から二つの鞄と一つの黒いランドセルを抱えた眞由美が走ってきた。


「遅いぞ眞由美、ほい、ランドセル」


 蓮華は眞由美からランドセルを受け取ると歩人に渡してからまた二人の男子に視線を戻した。


「おい歩人、目え覚めるのにはもう少しかかるはずだから今のうちに金玉に蹴りいれてこいよ」

「いや、ぼくはそういうの……」


 尻込みする弟に蓮華は袖をまくりあげる。


「じゃあ代わりにあたしがトドメ刺してくる」

「お姉ちゃんはやり過ぎ!」


 ずんずんと歩みを進める蓮華を必至に抑えながら眞由美が言うと、さらにもう一人の姉が加わる。


「あっ、お姉ちゃーん、あゆくーん」


 声の正体は、明るい笑顔を振り撒きながら一枚の絵を手に持った麻香麻(あさがお)だった。


「あっ、麻香麻ちゃん」

「おう麻香麻、今度はなんの絵描いたんだ?」


 姉二人にそう問われると嬉しそうに笑って麻香麻は絵を三人に見せびらかした。


「えへへー、わたしと同じ名前の花、アサガオですよー、見て見てあゆ君、うまいねって先生にも誉められたんだよ」


 だが何も言わずにうつむく歩人の様子に首を傾げて、麻香麻は歩人がびしょ濡れである事に気付く。


「あゆ君どうしたの? なんで体濡れてるの?」


 心から弟を心配した姉の発言。

 それに対して歩人は急に顔を上げて麻香麻の絵を地面に叩き落した。


「アサガオの弟だからだよ!」

「えっ…………?」


 歩人にそう言われて、麻香麻は花壇に倒れている蓮華が殴ったのであろう二人の男子が手にジョウロを持っている事に気付いた。


「お姉ちゃん帰ろ」


 蓮華と眞由美の手を引き、歩人が歩き出すと、麻香麻は思わず遠ざかる背中に手を伸ばして、急に歩人が振り返る。


「アサガオお姉ちゃんなんか大キライだ!」



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