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うちの姉たちが怖すぎる

 中高一貫性の私立、冬東市(とうとうし)鈴村(すずむら)学園(がくえん)の昼休み。


 歩人はいつものように姉達に囲まれながらお弁当を食べていた。


 同じ一年生の桜と、二年生のあずきと、三年生の麻香麻と……大学一年生の眞由美と大学二年生の蓮華に囲まれてだ。


「なんで蓮姉と眞由姉まで来てんだよ……」

「実はあたし達今日は昼休みの後の三講義目が無くてさあ、ここ卒業生なら自由に入れるし別にいいだろ?」

「そうそう、それにここの空気が懐かしくて、ああ、もう一度高校生に戻りたい、私も去年まではここの生徒だったのに」


 お弁当を食べるスペース確保のためにそこらから四つの机をブン捕った蓮華とこんな時ばかりそれを制止しなかった眞由美、二人の姉にとてつもなく辟易(●●)しながら、歩人は大きく溜息を漏らした。


 痛かった。

 周りの視線が物凄く痛かった。

 男子達からの嫉妬光線はいつも通りとして、面倒見のよい姉御肌の蓮華とお母さん肌の眞由美に対して「お久しぶりです先輩、いやお姉さま」状態の女子生徒までもが歩人に嫉妬光線を送っているのだ。


 教室内だけに止まらず、それは廊下からも浴びせられる。

 

 姉達は皆、眞由美と母なずなの作ったお弁当の味にご満悦の様子だが、歩人だけはただただ居心地が悪いだけだった。

 

 そこへ、数人の冴えない男子数人が歩人達の前に登場、小脇に丸めた巨大用紙を抱えた男子がそれをバッと広げ、男子達が口々叫ぶ。


「これを見ろ南城(なんじょう)歩人(あゆと)!」

「これは新春鈴村学園男子流行語ランキングと無差別ランキングの一位をまとめた物だ!」

「男子流行語大賞一位歩人死ね! 二位歩人消えろ! 三位歩人邪魔! 四位歩人殺したい! 五位歩人お前の姉さんよこせ!」

「鈴村学園嫌いな生徒ランキング一位歩人!」

「犯罪してそうな生徒ランキング一位歩人!」

「死ねばいいのにランキング一位歩人!」

「将来ヒモになりそうな奴ランキング一位歩人!」


 男子達の叫びが終わると七三頭でメガネをかけ、不気味な顔をした男子が前に進み出た。


「南城歩人、悪いがこのデータからも分かるとおり君の存在は学園の風紀を乱すのだよ、現に今も美少女五人に囲まれながら昼食など羨ま、ゴホン、ムホン、破廉恥極まりない行為に身をやつし周囲の青少年に悪い影響を与えているのだよ」


(はざま)委員長、俺だって好きでやっているわけじゃ……」


 歩人の口にした(はざま)、という名に姉達が口々に反応した。


「間委員長って確かあーちゃんがボク達とお風呂に入ってるって知ったら殴りかかってきた人だよね?」とあずき。

「確か心が矮小(わいしょう)な人ですよね?」と麻香麻。

「あれ? 存在が矮小なんじゃなかったっけ?」と眞由美。

「違うって、(はざま)が矮小なのはチン○だぞ、夜全裸で街中走ってるの見たから間違いないって」と声を大にして蓮華。


 四人のセリフに間委員長は一歩後ずさりながら声をうわずらせる。


「しっ、失礼な、あれはお風呂上りに二階のベランダへ出たら柵が壊れて落ちてしまいそこへたまたま警察が来て追われて……」

「矮小なモノぶら下げながら街中走ったんだろ?」

「わっ、私のは矮小なんかではありません!」

「おいおい、歩人の半分も無いくせして見栄張るなよ」


 悪びれる様子も無く、あっけらかんと笑う蓮華と教室のそこかしこでヒソヒソ話が起こっている現状に間委員長は「キィイイイッ!」と言って制服の袖を噛み締めた。


「とにかく! 南条歩人! 君には学園の全男子生徒の総意により即刻退学して……」


 刹那、空気の色が変わり、間の言葉は切れる。


「なっ……!!」


 歩人に対する暴言に、姉達が敵意を剥き出しにしていた。

 もはや質量すら持った暴力的な殺意は爪となり、牙となり、間委員長に襲い掛かる。

 間委員長の目に映る彼女達の姿は決して可憐な美少女などではない。


 あずきが虎に。

 麻香麻が(ワニ)に。

 眞由美が(タカ)に。

 蓮華が鬼に。

 四体の猛獣全てがツメを、キバを、クチバシを、ツノを間委員長に向けている。

 桜ははぷるぷると震えながら歩人の腕にしがみついている。


「お、お姉ちゃん達恐いよぉ……」


 殺気の余波を受けた桜ですらこの状態。

 実際に殺気の標的となっていた間委員長達はそれぞれ、とてもでは無いが活字では表現できないほどマヌケで汚い悲鳴を上げ、一人残らず教室の外へと逃げていった。


「「「「じゃ、食べよ」」」」

「もう、蓮華姉さん、矮小な……なんて、教室でなんて事言うの」

「別にいいだろあのぐらい」

「あずきちゃん、卵焼き二個とわたしのから揚げ一個を交換しませんか?」

「いいよ、はい、ボクの卵焼き」


 途端に笑顔に戻ってランチタイムへ戻る姉達と未だ震える桜を見比べて、歩人は冷や汗を流した。


(姉さん達恐過ぎだって)

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