プロローグ
「妊婦は××歳、南城なずなさん、ていうか次期院長のヨメです!」
二〇××年、三月三日の晩に南城なずなは分娩室で夫の手を握りながら笑う。
「シンちゃん、あたし元気な子、産むからね、ちゃんと取りあげてね」
「わかってるって、俺が間違うわけないだろ?」
産婦人科医どころか未だ医大生の夫が何故白衣で一緒にいるかといえば、答えは単純、ここは彼の父が経営する病院だからだ。
と、これからどれほどの長丁場になるかと思えば、彼女、南城なずなは大変妊娠に適した体をしており、出産にかけては天賦の才があると言っても過言ではなく、今まで通り、今度も何の抵抗も無くすんなりと子を産むことになるのだった。
「ふふ、おっとこっの子、おっとこっの子、これで南城家も安泰だね」
次の日の朝に病室で我が子を抱き、体を揺すって喜ぶ妻の姿に夫、南城真二は複雑な表情で「まだ俺すら院長じゃないけどね」呟いた。
「いやー、なんとか男の子生むまで頑張るぞって思ってたけど、ようやく、後を継げる子が生まれたね」
「いや、まあ、うん……ここまできたのも俺の責任だけど……その……」
頬を赤らめながら真二は目の前で子供をあやす何度出産しても抜群のスタイルを崩す事の無い、美少女(?)を眺める。
本人の動きに合わせて豊かな胸はいつもどおり揺れている。
病室のドアが開き、数人の幼女たちが入ってきたのはその時だった。
「かあさーん」
「おかあさん」
その中でそれぞれ赤子を背負った赤毛の幼女と緩い天然パーマの幼女が早足にベッドに近づき、その後ろを父の伊達メガネをかけた幼女がよたよたと歩きながら親指をしゃぶりカルガモのようについていく。
「って、お前ら家にいろって言っただろ」
「ままま、かたい事言ってないで早く赤ちゃん見せてよ」
「ごめんなさい、でもどうしても赤ちゃん見たくて」
と言いながら赤ちゃんを背負うパーマヘアーの幼女が顔を伏せる。
「別に謝ることじゃないだろ、新しい兄弟が増えるなら誰だって気になるって」
と言う赤毛の幼女も赤ちゃんを背負っている。
さらに服の裾はカルガモが如く後を追ってきたおしゃぶりメガネ幼女に掴まれている。
「…………チュクチュク」
自分には明らかにサイズの大きなメガネを無理矢理かけた幼女が、指をしゃぶりながらベッドに座るなずなと赤ちゃんをジッと見つめる。
その様子に気付いたなずなは五人の幼女に赤ちゃんを差し出して言った。
「ほうら、みんなの弟ちゃんだよ」
わぁ、とみんなの顔が弾けて、三人はその小さな手を握ったり頭を撫でる。
そう、彼女達は全員なずなと真二の娘であり昨日生まれた男の子の姉達である。
すると、背中の子も手を伸ばして触れようとする。
「おっ、桜も触りたいのか?」
言いながら背中の赤子を両腕で抱き抱える一番背の高い赤毛の幼女は、今年五歳になる長女の蓮華、腕に抱いているのは一歳にしてもう泣き黒子のある五女の桜である。
「あずちゃんも触る?」
天然パーマの幼女は今年四歳になる次女の眞由美で背負っているのは今年二歳になる八重歯の可愛い四女のあずきだ。
そして伊達メガネをかけたおしゃぶり幼女は三女で三歳の麻香麻である。
0歳の赤子を目の前にした一歳と二歳の幼女は二人揃って頭をペシペシと叩きながらほっぺを引っ張って遊んだ。
両親は一瞬、泣くかと思ったが頭を叩かれほっぺを引っ張られる男の子は実にうれしそうである。
しばらくすると二歳のあずきと一歳の桜は0歳児の手をギュッと握ったまま離さなくなる。
どうやら弟を気に入ったらしい、その様子に三女のメガネ幼女、麻香麻も弟の頭をギュッと抱きしめた。そして四女あずきはいつのまにか弟の頭にかぶりついていた。
「あらあらー、歩人ちゃん大人気ねえ」
「歩人?」
夫、真二の質問になずなは明るく「うん、何があっても、どんな場所でも歩いていける人になれますようにって願いを込めたんだよ、ねっ、あゆちゃん」
母の問いかけに笑って応える歩人を眺める赤毛の幼女蓮華が不意に尋ねた。
「ねえ母さん、こいつもうおっぱい飲むの?」
「飲むよー、いっぱい飲むんだからー」
と母が返した途端、何を思ったか蓮華は桜を歩人から離してベッドの上に乗せると歩人を妹達からひったくり、自分の服をめくって自らの平らな胸に歩人の顔を押し付けた。
「ほら吸え!」
言われなくとも歩人は蓮華の胸に吸い付いたが、いくら吸っても母乳が出ないと解るとすぐに口を離し、母なずなに手を伸ばし始める。
「なっ、こらお前、今あたしの胸を見限ったな、なまいきだぞ! あたしだってすぐに母さんみたいに大きくなるんだからな!」
「はいはい、もう、そんなに怒鳴っちゃ、あゆちゃんが驚くでしょ」
言いながらなずなが歩人を取り上げると赤毛幼女蓮華、パーマ幼女眞由美、メガネ幼女麻香麻はベッドによじ登り、八重歯幼女あずきと泣き黒子幼女桜は父親である真二に抱き上げられてベッドの上に移動する。
それからは五人で歩人一人をいじりまわしながら時間が過ぎて行く。
こうして、南城歩人は五人の姉に囲まれながらこの世に生を受けたのだった。
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