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2、これは誘拐?

 

「なんで私を殺さないんですか?」

「死にたかった?」

「それは……」

「ま、頑張りなよ。俺の気まぐれで生き延びたわけだし」


 私の質問に答える気は無いらしい。暗殺者は適当にはぐらかすと走るスピードを上げた。頬を風が切る。その感覚に、ここがあの地獄から出た外の世界だと実感した。


「……腕が痛いです」

「まぁ、斬りつけたしね」

「やはり、私を殺してくれないんですか?」

「殺しても良かったけど」

「だったら……」

「冗談だよ」


 冗談とは思えない温度感で返された言葉に止血された左腕を見る。左腕の痛みに嫌でも先程の出来事が思い出された。


 覚悟を決めて瞑った目はあまりの痛みに直ぐに開くことになった。しかし、想定していた痛みは心臓でも首でもなく左腕を襲った。真っ白なベッドを赤に染めていく血を呆然と見ている私に彼は「まるで誰か殺されたみたいな惨状だ」と態とらしく言うと、慣れた手つきで止血をした。そのまま私に来ていた夜の色をしたローブを被せ、荷物のように背負うと夜道を駆け出したのだ。


 そして、今に至る。


 何故か私は生きている。死を望んだ私への当てつけなのか。目的は分からないが生かされてしまったようだ。


 恨めしい気持ちで暗殺者を見ると月明かりに照らされた男の銀髪がキラキラと光っていた。さっきまで男が被っていたローブは私が着せられている。フードのせいで前が見えにくい。でも、不思議と不安はなかった。実感がないからか夢の中にいるような感覚だ。久しく見ていない幸せな夢とも言えるんじゃないか。


「もしかして……私の夢の中の住人ですか?」

「うるさい。あんま騒いでると舌噛むよ」

「うん……黙っておきます」


 夢の住人さんは手厳しい。都合のいい夢か、そう思うと星が綺麗だとか月がよく見えるとかそんなことが気になり始める。


「星が綺麗ですね!」

「はいはい、綺麗だね。少し遠いから寝なよ。お喋りは好きじゃない」

「何処へ行くのですか?」

「遠い国」


 相変わらず男は答える気は無いのか適当に返す。でも、ここが夢だと確信できた。私があの屋敷から逃げられる訳ないんだから。不思議な感覚だ、誰かが私の話を聞いてくれるなんて。


「私、あの国に行ってみたいです」

「連れてかないよ」

「いいじゃないですか。少し聞いてください」

「図々しくなったね」

「夢の中ですし」

「そう」


 この夢がもっと続けば私はどんなに幸せだろうか。私は開放感からか気が大きくなっていた。


「花の国……って知ってますか? おばあちゃんが生きてた時……話してくれたの」

「眠そうだね」

「確かに……眠いです」

 

 夢なのに眠たい。でも寝てしまったらきっとこの夢は終わる。何とかして目を覚まそうと見上げた空には星が輝く。闇に包まれた街はどんどん遠ざかる。心地の良い揺れと、背中から伝わる体温に耐えきれず目を閉じた。




「う……ん」

「起きた?」

「あれ? ここはまだ夢の中」


 男の声に一気に意識が覚醒して飛び起きる。しかし、目の前には夢で会った紫の瞳と銀の髪をもつ男がいた。通った鼻筋に形の良い唇。夢では分からなかったが、見つめ合うのが恥ずかしいくらいには整った顔立ちをしている。あの国で一番の美貌の持ち主と言われた第一王子もきっとこんなに素敵な容姿はしていないと確信できた。


「ここはフローレンス」

「フローレンスってあの西の国ですか?」

「俺からすれば、トルッカ王国が東の国なんだけどね」

「そ、そうですよね。いや、そうではなくて……何故私がフローレンスに?」

「俺が連れてきたからね」

「そうですか。長い夢ですね……痛い。何するんですか」


 突然、左腕を掴まれたかと思うと激痛が走る。これは、昨日切りつけられた……夢じゃない?


「夢じゃないから」

「そうみたいですね」


 男の言葉に返す言葉が見つからず、混乱した頭で考えるが私を連れてくる理由は分からない。魔法も使えない、権力もない。とるなると、まさか体目的……?


「そんな貧相な体に興味ないから」

「何故、考えていることが……それに、喜んでいいのか悲しめばいいのか分からないのですが」

「普通に口に出てたし。とりあえず喜んどけば?」

「嬉しくないですけど……それで、どうして私を連れてきたのですか?」


 答えてはくれないだろうと思いつつ理由を聞いてみるが、やはり返答はない。少し落ち着いて周りを見渡すと、生活感の無い部屋ということが分かった。殆ど物は置いていないし、最低限といった感じだが私の暮らしていた場所よりはマシである。


「さて、そろそろ行くよ」

「何処にでしょうか?」


  天国ですか? それとも地獄? 私自身は悪行を重ねてきたつもりは無いけれど、生まれてきたことが恥だと言われたし……地獄に行くのかな。尋ねると何でもないことのように男は言った。


「王様のとこ」

「そうですか……王様?」

「さ、行くよ」

「え? ちょっと待って下さい」


 戸惑う私の手を引く……なんて優しいものではなく、半ば引きずられる形で連れてこられたのは立派な装飾の施された扉の前。あの小部屋から出た途端綺麗な廊下が広がっていて別世界に飛ばされたみたいな感覚になった。


 連れてこられた理由が分かるだろうか。無難に王様の奴隷とか? 色々な想像が膨らむが心の準備はできない。そんな私の心など露知らず無情にも扉は開いた。

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