村長という支配者
スキルを見るのをやめ、朝食を食べた感想をバルトに報告していた忠臣達に話し掛けた。
「みんな、ちょっといいか?」
全員が話すことをやめ、全員が目配りをしてセラフィムが代表するかのように立ち上がった。
「キキョウ様、何でしょうか?」
「みんなのスキルを取得させたいと思うのだが、希望を聞きたい」
「っ!?それは真ですか!?」
セラフィムはいつもの冷静さを失って前のめりになった。それはセラフィムだけじゃなく、全員がだ。
「どうした?そんなに慌てることか?」
今のところ、この世界におけるスキルがどれ程のことか、わかっていない以上、情報を知ることも大切だ。
「キキョウ様、スキルとはそう簡単に手に入れることができません。田舎の村では高い貢献をしたものだけに村長から与えられ、街ではより多くの税金を。冒険者はランクが上がるごとに、兵士は階級が上がることでようやく手に入れることのできるものです。いわばスキルを持つことは栄誉そのものです」
どうやらこの世界ではスキルを持つことがものすごく大変らしい。しかも権力者にしかスキルを与えることができず、どこの村も街も権力者が支配しているとも言える。
つまり権力者である村長は生まれながらの支配者であり、村長であることで表からも裏からも支配できるようだ。
「そうか、だがここでは私がルールだ。私はここにいる十人とその配下達と楽しく生きていきたいからな。スキルは手に入るだけ取得させる。だから気にせず希望を言ってくれ」
私の言葉に動揺と希望を見いだすような視線を感じた。しかしどこかで不安があるのかなかなか言い出そうとしなかった。
「希望はないのか?…ないようだな。じゃあ私が好きなようにするぞ」
まずはセラフィムからだ。一番不安要素がない。聖気というなんだか神秘的なスキルだ。
システムウインドウを操作する。ステータスにいき、スキル枠をタッチして取得可能スキルをタッチする。
セラフィム
【漁Lv0.57】【紳士Lv1.38→1.40】【聖気Lv1.65→1.70】【剣術Lv0.43】
どうやらセラフィムのスキルは現在進行形でレベルが上がっていってるようだ。これならあげがいがあるというものだ。
「セラフィム」
「はっ!何でしょうか?」
セラフィムは前のめりで険しい顔をしていた。案外全身骨格でも表情がわかりやすいものだ。
「セラフィムには【聖気】というスキルを授ける。受け取ってくれるか?」
「っ!?光栄の極みでございます」
セラフィムは前のめりから跪いて頭を垂れた。雰囲気を重視するためにウインドウをセラフィムの頭近くに持っていき、取得するを押した。
するとウインドウに文字列が流れた。
《セラフィムに【聖気】を授けました。》
《セラフィムのスキル枠を一つ消費しました。》
《セラフィムはSPを1獲得しました。》
スキルを授けたと同時にセラフィムから溢れる聖気が部屋中を包み込んだ。いつもの聖気が煙が出てるな?ぐらいだったら今のセラフィムは霧に包まれてる?と言われるくらいに聖気が溢れていた。
「ありがたき…幸せ…」
セラフィムが感涙すると聖気がさらに溢れた。聖気に触れると身体の疲れがとれる上、身体のあらゆる汚れがとれていく感覚がした。
「次に…といきたいところだが、聖気でなにも見えないから外に出よう。その間にセラフィムはその聖気を抑えられる訓練をしとけ」
「はっ!」
セラフィムにはそういう命令を出して避難した。まるで避難訓練のごとく姿勢を低くして食堂を退出した。
再度集まった場所は昨日宴を開いた場所だ。一人欠けた状態だが、視界が良好なのでこのまま続けることにした。
「先程言ったように私の好きなようにスキルを授けていく。いいな?」
「「「「「はいっ!」」」」」
いい返事を特にしていたラビに授けることにした。
「ラビ、前に出てきてくれ」
「そんちょー」
ラビは前に出てくるなり抱きついてきた。あまりに可愛かったから撫でてやった。するとえへへと笑ったので笑い返した。
「ラビには【採取】を授ける。受け取ってくれるか?」
「うんー」
《ラビに【採取】を授けました。》
《ラビのスキル枠を一つ消費しました。》
《ラビはSPを1獲得しました。》
ラビに採取を授けたが、特に変化はなく、ラビは首を傾げ、私も首を傾げた。
「?」
「…?ステータス見てみるか…採取授けられてるな?」
不思議そうにしているとバルトがなぜ起きなかったのか教えてくれた。
「村長さん、おそらくあのすごい光みたいなのはセラフィムさんに与えたのが【聖気】のスキルだったからだと思いますよ。【採取】は行動系のスキルで【聖気】は常に起きる現象系のスキルです。なので、【採取】スキルではそんな現象はおきません」
「な、なるほど。ラビ、すまんがあれは起きないみたいだ」
「そっかー、ざんねんれす」
ラビは寂しそうに戻っていった。
「そういうこともあるんだな。次はバルトだ。おっと、その前に説明しなければいけないことがあった」
「なんでしょうか?」
「私が与えられるスキルには条件があってな。スキルレベルが1.0以上なければ与えられない。この中にも何人かそういう者がいる。だから授けられなかったからと言って差別しているわけではないと覚えといてくれ」
それに対してバルトは首を振った。
「わかっていますよ。僕達だってなんでもかんでも与えられるとは思っていません。対価もなしに授けられることだけでも幸せなことですよ」
「そういってもらえると気が楽だ。そういう者達には後程、1.0を越えた時点で与えようと思っているから、気を落とさないでくれ」
バルトの後ろで控えている者達も頷いて答えてくれた。
「バルトは1.0を越えたスキルが3つもあった。だが、今のところ一つしか与えられない。スキル枠を増やす方法は模索中だ。与えるスキルは私が喉から手が欲しいほど覚えて欲しいスキルだ。だからこれを受け取って欲しい」
一旦言葉を切り、バルトを見詰める。それに対してバルトも強い眼差しで見つめ返した。
「バルトには【料理】を授ける。受け取ってくれるか?」
バルトの強い眼差しは失われ、苦笑いに変わった。
「受け取ってくれるな?」
私は返事をされる前にバルトに【料理】スキルを与えた。
この小説はストックがすこしだけあるだな、これが。