花より団子
ぐわーってしてぶわってしてるらしいので急いで浜辺にラビとフリードを連れて向かった。
森を抜けて浜につくと、山があった。山は上下して動いているが、その山には植物が一切生えておらず、ツルッとした表面には水滴がついていた。
「ぬ?村長殿、助けに来てくれたか?」
「この子に呼ばれてね」
「よくやったぞ、サーラ」
「もちろんです、リーダー。僕にかかればこんなもんですっ!」
擬音系わんこはどや顔で一匹のコボルトに報告していたが、あれは私でなければ反応できないと思うが。
「それで漁は成功したのか?」
「もちろんじゃ」
アルベルトは浜辺に打ち上げられた魚を指差した。
「これは…多すぎないか?」
「そう言われると思って生け簀を作ってる最中だ」
「どうやっ…」
突然、山だったものが飛び上がり、岩場に落下した。すると山のまんまるとした形が岩場に型どられた。そこに隙間から入ってきた海水が満たされていった。
「あれは?」
「アリスに穴をつくってもらっとる。あそこに魚を入れて漁に行かなくても魚を食べるものじゃ」
「なるほど」
アリスは何度も飛び上がっては落下してを繰り返した結果、わりと深めの池が完成した。隙間の大きいところには岩を置き、細かいところには砂を注いだ。
少しだけ大きいところはそのままだ。ここからは小魚が入ってくることを考えてのことだ。これを3つ作った。
一つはでかい魚。ここはすぐ食べるもの。二つ目は中くらいの魚。少しだけ待つ、もしくはでかい魚に食べさせるところ。最後は海草を育てる場所。ここは穴を大きくして小魚を誘う。
「こんなもんじゃな」
「あぁ、とりあえず魚の問題は解決したな。アリスもありがとな」
「キュアアアキュアアア」
「アリスも褒められて喜んでおる。アリスはこのふっくらした魚が好きなんじゃが、あげてもいいかの?」
「いいぞ。これはアリスがとってきたものだ。気にせず食べてくれ」
「キュアキュア」
アリスが美味しそうに食べていたので、ひとまずは褒美はあれでいいだろう。
「ん?村はこっちじゃなかったか?」
「おいおい、俺は言っただろ?どう見ても逆だろ」
声のした方を見てみると木を抱えたアッシュとワークマンだ。その後ろからサイスとマヒル、セイヤ、バルトの順でやって来た。
「村長さん、さっきぶりだね」
「あぁ、バルトか。成果はどうだ?」
「なかなかいいものがあったよ。ちょっとこれを見てくれ」
バルトが見せてきたのは小さな真っ黒な種だ。
「これは?」
「これはねぇ、魔晶花といってね、光合成と魔素の吸収によって魔結晶を作り出す花なんだ。それも植物全体が魔結晶になって、最後は大量の種とともに飛び散って子孫を残す植物なんだ」
「魔結晶?」
「魔結晶はね、ここではまだ使い道はないけど、魔道具を使うときの動力として使えるんだ。あとは高値で取引されるから、街にいく際は重宝するよ」
「それはいいな。栽培しようか。ワークマンと相談して育ててくれ」
「わかった。僕はちょっといってくるよ」
バルトがワークマンのところで談笑しているのを眺めてると白い煙を纏った骨が来た。
「貴公が村長殿か、私はセラフィムの名を預かった聖骸族。今後ともよろしく頼む」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む」
セラフィムと握手を交わした。
「セラフィム、ちょっと来てくれ」
「承知した。今いく。村長、後程話をしよう」
セラフィムを呼んだのは擬音系わんこを褒め称えていたコボルトだ。
「これなんだが、これ食えるか?」
「ぬ?それは食えぬぞ。捨て置け」
「だから言ったろ?サーラ。これはどう見ても毒々しい。毒のある魚だと」
「でもでも、リーダー、とってもきれいなのです!」
サーラはきらきらした眼でリーダーの持つ魚を見詰めた。
「きれいなものには毒があるっていうだろ?」
「でもぉ~」
「でもじゃない。これは…こうだっ!」
リーダーコボルトは持っていた毒々しい魚を海に放り投げた。
「あーっ!?」
毒々しくも光を乱反射する魚はきれいな放物線を描きながら海に、ぽちゃんという寂しい音を鳴らして消えていった。
「綺麗だったのに…」
しょぼーんとしたサーラは魚が生み出した波紋をの中心を眺めた。
「綺麗な魚よりもうまい魚はどうだ?」
サーラの頭をポンポンと撫でながら丸々と太った魚を差し出したのはセラフィムだった。
「うまい…魚!?これ、これ、食べていいの!?」
セラフィムの持った魚は先程の綺麗な色をした魚とは違うが、それとは違った光沢を帯びていた。
「サーラ、これならいいぞ。確かにこれはうまい魚だ」
「いいの!?リーダー」
「いいとも」
リーダーコボルトもサーラの頭をポンポンと撫でていた。
なんとも可愛がりのあるコボルトだ。ぜひもふりたいものだが、村長がいきなり撫でるのも唐突すぎて引かれるかもしれない。
「ぜひとも私も食べてみたいものだ」
自然な形で話に入ったが、どうだろうか?不安だ。
「そんちょーだ!」
「村長殿」
「おぉ?始めましてだな」
わりと好感触だが、果たして。
「はじめましてだ。この村の村長をやることになったハ…いや、キキョウと、気軽に呼んでくれ」
「そんちょーはそんちょーなのです!」
「キキョウか、綺麗な響きだ。私は貴公のことをキキョウ様と呼ぼう」
「俺はライゼルだ。俺は兄貴って呼ぶぜ」
順に、サーラ、セラフィム、リーダーコボルトだ。それぞれの個性によって感じ方の違いがあるのだろう。
忠臣の全員との自己紹介が無事に終わった。