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境界の一線

人は楽しみと刺激を求める。私には渇望するゲームがあった。それが『饗宴の境界』というゲームだ。


このゲームでは初めにプレイスタイルを選べる。


それが、『国主』『傭兵』『商人』だ。ここまでならなくはない。しかしこのゲームのすごいところはゲームをプレイすることで()()()()()()()()()


普通は逆だが、このゲームは違う。これにはちゃんとした理由がある。それは、このゲームに出てくるNPCのAIの学習のためだ。


学習するためなら時間さえかければ行けるかもしれないが、人間のわずかな心境までもわかるはずもない。


ゲームをすることでプレイヤーはこのAIを育て、ゲームをすることでAIを育てるという仕事をしているのだ。そのため、このゲームを続ける限り他の仕事をしなくていい、つまりはこれからの人生をゲームだけして過ごせるのだ。


その代わりこのゲームの販売価格はなんと100万円。ふざけた料金だ!と思うかもしれないが、これにも理由がある。ログイン中の環境整備と健康管理に非常にお金を使うのだ。


介護プレイされながらやるゲーム果たして健康なのか?まぁ、不健康だよ。ということでプレイ時間は1日12時間、残りの12時間はゲームのメンテナンス時間。この時間にしっかり睡眠をとってね!だそうだ。


あとゲーム内で掲示板やら依頼書にリアルの仕事があったりもするらしい。そんなわけでゲームで金やるからお仕事やって健康的に過ごそうねってことだ。


そういうわけで今日からきれいなお姉さんに介護してもらうのだ。やったね!と思ってたらおばちゃんだった。そういう日もあるよね。


通された個室にはベッドと軽食や飲料水、それから空気清浄機に心拍の確認をする機材などがあり、贅沢な囚人といったところだろうか。


「こちらのお飲み物は自由にお飲みください。それから、ログインする際とログアウトする際は本部に通達されるようになっています」


「わかりました」


「それから1ヶ月にゲーム内で発信されたクエスト達成によって払われる給料も変わりますので、できるだけたくさんの課題をやっていただくようお願いします」


淡々と述べる女性は看護師ではなく、社員さんだった。


「それは強制ですか?」


「いいえ。ですが、あまりにも行わなければ追放されます。それから給料もその分引かれます」


「追放された場合はもう一度このゲームをすることは可能ですか?」


社員さんは口元を緩めて、フフッと笑った。


「ご想像にお任せいたします」


社員さんはここでの説明をしたあと、この施設の説明書とゲームログインする際の注意点を記した仕様書を渡してきた。


「では、私はこれで退出しますので、ログインする際にはこのベルを鳴らしてくださいね」


壁に掛かった鈴のようなものを指差して退出していった。


この施設に来るまで目隠しとヘッドホンで視覚と聴覚を封じられていた。そのため、ここがどこにあるかもわからない。しかも今のところ、あの女性にしか会っていない。


「ゲームに招待どころか、どちらかといえば牢獄だな」


冷蔵庫を漁ってラベルのついていないペットボトルを掴む。


「これじゃあ産地もわからんな」


水ソムリエでもない限り、味だけでは把握できない。味見をしてみたが、普通の天然水だった。


「それにしても、ここまでの設備を整えて何をやるのやら?」


最新のエアマットベッド、それもどれだけ寝ても褥瘡など、それどころか傷すら付かない。


「それにこの空気清浄機は確か…」


空気中に塵があろうと毒があろうと無毒化して身体にいい物質だけを排出するものだ。それも感染症にならないようにするための無菌室に置かれるほどの空気清浄機だ。


「この中から出さないつもりだな。一体何人が気付いてることか」


と言ってもすることはないのでベルを鳴らして社員さんを呼んだ。入ってきたのはおばちゃんではなく、ロリだった。


「お待たせしました。ゲームを始めるとのことでしたね」


ロリはこの世界のものとは思えない翼が生えていた。


「その羽は本物ですか?ちょっと触らせてもらっても?」


「だめです。デリケートな部分なので無理です。セクハラで訴えますよ?」


「では動かしてもらえますか?」


ロリ天使はため息をついてパタパタと羽を動かした。これは、生えてますわ。リアル天使だな。


「これでいいですか?」


「ええ、満足です。それで、私はこれからどこに連れていかれるんですか?」


「ゲーム以外に何があるのですか?」


「その羽を生やしてる人に言われても信じられませんね」


「はぁ…まぁいいでしょう。貴方にはここがどういう場所か予想がつきますか?」


「恐らく人体実験の施設でしょうね。ゲームは囮でログインと同時に精神を分離させて身体は実験で腐るまで使い古して、それと同時に死ぬという感じですか?」


「その通りですが、少し違います。まずはゲームを1ヶ月ほど楽しんでいただき、時間の感覚をずらしていきます」


時間をずらすか。それは簡単そうだな。リアルの時間経過とゲーム内の時間をずらせばいい。


「それから徐々にこの世界から解離させていき、最後には完全に身体と精神を切り離します」


「つまりは?」


「ええ、身体は私達の使いたいことに使い、精神の方は異世界に旅立って頂きます」


「異世界ですか。それはなんとも甘美な誘惑ですね」


「楽しんで頂けると思いますよ?」


ロリ天使の笑みには不思議と色気があった。


「楽しみですが、1つだけお願いしたい」


「羽は触らせませんよ」


「羽はいいです。1ヶ月になっても目覚めないようにしてください」


「それはいいですが、理由を聞いても?」


「私はこの世界をつまらないと思うんですよ。もう少し争いがあってもいいと思うんです。文明が発展していったのも争いがあったからこそ」


「否定はしませんが、肯定もしません」


「でしょうね。だから私はこのゲームに惹かれました」


「そうですか。では、そちらに寝てください」


ロリ天使に言われるがままにベッドで横になる。


「最後に言いたいことはありますか?」


「次の世界は愛せるといいね」


―――――――彼が眠ると私は彼の頬に触れた。


「愛せますよ、その為に私は貴方をここに呼び寄せたのだから」



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