ぬすっと物語8 見られてた?
赤い果物を食べたので、お腹がぐぅ〜と鳴らなくなった。
おいらは人が来ないところからひょっこりと顔を出す。
まわりをさっ、さっと素早く見る。
うん、周りに人はいない。
おいらは前転をして、勢いをつけ、走り出す。
たたたたという足音がしたので、おいらは一旦立ち止まり、つま先立ちしてととととと歩く。
まずはこの大きな建物の中を見て回ろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
おいらは、おいらの卵が祀られている大きな部屋の入り口に付近に辿りついた。
相変わらず人が多い。
人がいなくならないとおいらの卵には帰れそうにない。
むっ、おいらの卵に何人か近づいて行っている。
大丈夫か、おいらの卵!
うーん、おいらの卵の周りで何か騒いでる。
何を騒いでいるのだろう?
でも、ここからだと何を言っているのかよくわからない。
ちょっとおいらの卵が心配なのだけれど。
おいらは耳の横に両手を添えた。
おいらの卵の周りで騒いでいる人たちの声に耳を傾ける。
「空の卵とはどういうことだ!?」
「どういうことだと言われましても、鑑定の結果が空の卵になっているのです」
「聖なる獣の卵なのですよ! 空の卵の訳がないじゃないですか!」
「そうだ! 卵は銀色になっているが、どこも割れていないのだから、空なわけがない!」
「しかし、鑑定の結果がそうなのです。私に言われてもどうしようもありません」
「そんなバカな」
おいらは今ここにいるから、卵の中は空っぽだ。
卵の中にできた家具もおいらのお腹の袋に入れている。
空の卵で間違いない。
おいらは物陰からうんうんと頷いた。
しばし、おいらは物陰から卵が心配で見ていた。
おいらの卵の周りで騒いだら満足したのか、騒いでいる人たちがようやくどこかに行くようだ。
ふぅ。
おいらの卵が無事で良かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
おいらが安心してその場を離れる。
むっ!?
なにか人に見られている気がするのだけど、気のせい?
気のせいだよね。
なんたっておいらは今見えないのだから。
あれ? 驚いている。なんで?
もしかして見えてた?
いやいやいや、見えなくなってたはず。
多分、おいらの気のせいだろう。
おいらは建物の外に繋がる入り口を見つけた。
……。
人多いな。
卵からでたばかりのおいらが建物の外に出るのはちょっと早い。
おいらは建物の中に引き返す。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
おいらの卵の周りにはまだまだ人が多い。
ちゃりんちゃりんと相変わらずお金が投げられている。
おいらも卵に戻りたいのだけど戻れない。
おいらがてくてくと歩いていると良い匂いがしてくる。
また厨房かなと中を覗いてみると、大勢の人が食事をしている。
どうやら厨房でつくった食べ物が運ばれて皆で食べているみたい。
食堂ってところかな?
おいらは部屋の中にさっと入り込む。
部屋の隅にある大きな樽の物陰に隠れる。
じーっと見ているとおいらは気付いた。
席に着いている人が、食べ物を持って来る人に食べたいものを伝えると食べ物を持って来てくれるみたいだ。
食べ終わると最後にお金を渡して帰って行くみたい。
でもおいらはお金を持っていないから、食べ物を頼めない?
おいらの卵の近くに投げ込まれるお金を拾ってきたら食べられるかな。
「おいおい、聞いたか!」
「なんだよ、うるせぇな!」
「聖なる獣の卵のことなんだけどな」
「あぁ!? 知ってるよ、今朝から銀色になってたって事だろ?
それがどうかしたのかよ?」
「それもあるけど、違うんだよ。どうやら鑑定士に鑑定を頼んだらしいんだけど、空の卵って出るらしいんだよ」
「空の卵? なんでだよ? 聖なる獣の卵だろ?」
「だよな? それで今度は別の鑑定士を呼んでみようってことになっているらしいぞ」
おいらのことを話しているみたいだ。
おいらはここにいるから、空の卵であってるよ。