ぬすっと物語7 厨房
ぐぅ〜。
おなかの音がさっきまでより頻繁になるようになった。
食べ物ってどこにあるのかな。
おいらは、人にぶつかったり、踏まれたりしないように気を付けながら、食べ物を探す。
なんだか良い匂いがする。
おいらはスンスンと鼻を動かした。
これってもしかして食べ物の匂い?
おいらは良い匂いがする方へと歩いて行った。
おわ、危ない。踏まれるところだった。
◇ ◆ ◇
人がいっぱいいるところに来た。
良い匂いもここからする。
ただ人の出入りが激しい。
タタタタと何かを切ったり、火で肉を焼いたりしている。
多分、ここは厨房と呼ばれるところだ。
あれが食べ物をつくっているのだろう。
おいらは厨房の中をじーっと観察する。
どうやって食べ物を手に入れたらいいのだろう。
「はいよ、できたよ。とっとと持って行ってやんな」
「はい!」
「この下ごしらえをしたヤツは誰だい!
もっと角をとらなきゃだめじゃないか!
やり直しな!」
「すみません! やり直します」
「昼は過ぎたけど、まだまだお客は多いんだ、最後まで気を抜くんじゃないよ」
「「はい!」」
むぅ、あの太い女の人。
あの太い女の人がこの厨房の長みたいだ。
扉の影からそっと見ているけど、食べ物を手に入れる方法がわからない。
とりあえず、中に入ってみる?
おいらは、こっそりと中に入った。
お皿に載せられた食べ物はすぐに人が持ち去っていく。
すぐに持ち去られるので食べようがない。
ぐぅ〜。
おいらのお腹がまた鳴った。
太い女の人がきょろきょろと見回した。
「何の音だい? でも、何もいないね」
あ、あぶなかった。
ん? あれは?
おいらはカゴに入れられている赤い果物を見つけた。
カゴに近づいいて、スンスンと鼻を動かしながら匂いを嗅いでみる。
食べられそうな気がする。
おいらは赤い果物を手に取った。
おいらが一口食べようとしたら、大きな声が聞こえた。
「ん!? リンゴが動いてる? 何かいるのかい!?」
あの太い女の人だ!
おいらはリンゴを急いでお腹の袋にしまい、厨房から外に出る。
厨房の外に出て、扉の影から、あの太い女の人をじっと見た。
「……。私の気のせいだったのかね。それとも、ぬすっとがいるのかね」
太い女の人は首をひねっている。
ぬすっとがいる?
それっておいらのこと?
ぬすっと=おいら。
つまり、おいらの名前はぬすっと。
おいらは厨房から離れて、人が来ないところを見つけた。
赤い果物をお腹の袋から取り出して一口食べる。
しゃりってしていて、甘くておいしい!
しゃり、しゃり。
もぐもぐ。
がぶ。
しゃり、しゃり。
もぐもぐ。
うん、食べるって美味しいみたいだ!