ぬすっと物語6 見えなくなった
おいらはぐぅ〜ぐぅ〜と鳴るお腹に手を当てる。
空腹に耐えながら周りから人がいなくなるのをひたすらに待った。
だけど、ちゃりんちゃりんという音がいつまでも聞こえてくる。
むぅ。
はやく人がいなくならないだろうか。
おいらの姿が見えなければ、おいらは食べ物を探しに行けるのに。
おいらが見えなくなったら、……!?
銀色の壁に映っていたおいらがいなくなった!
えっ!?
おいらはここにいるよ。
あっ、おいらが見えた。
もしかしておいらは見えなくなれる?
あっ、おいらが見えなくなった。
でも、おらはここにいるよ?
あっ、おいらが見えた。
見えなくなーれ。
あっ、おいらが見えなくなった。
ここにいるよ。
あっ、おいらが見えた。
……ふっふっふ。
見えなくなったらおいらはここから出て食べ物を探しに行けるぞ!
あっ、おいらが消えた。
おっし!
そうとわかったら、このまま出発だ!
おいらは、透明のままドアの近くまで行く。
おいらの姿が見えないのは便利なようで慣れるまでちょっとむずかしいかもしれない。
おいらはゆっくりとドアノブに手をかけて、ドアを開けようとして思い出した。
このドアを開けるときぃと音が鳴るんだ。
周りには人が多いから、おいらがドアを開けると気付かれてしまう。
むむぅ。どうすればいい?
でも、ゆっくり開ければ音は鳴らなかった。
おいらはゆっくりとドアを開ける。
隙間から外の様子をうかがい、お金は投げられているが、近くには人がいない。
さっと出て、さっと閉めれば、気付かれないはず。多分。
すー、はー。
おいらは大きく息を吸って吐いた。
そーっとドアを開けて、そーっと閉める。
そのままぴたっとドアにくっついたら、ドアがなかった。
銀色の大きな卵があるだけだ。ドアが消えちゃった。
おいらが卵にくっついたままじっとしていると、ちゃりん、ちゃりんとお金の音が聞こえてくる。
おいらが外に出たことは気付かれていないな。
おいらはそーっと周りを見回した。
ふっふっふ。
これは気付かれていないと思う。
おいらは卵から離れて、卵が置かれた台からそっと降りた。
足下にお金があったので、滑ってこけた。
じゃらんっと大きな音がして、お金が散らばった。
……。
周囲のざわめきが止んだ……。
ちゃりんちゃりんという音も聞こえてこない……。
気付かれた?
おいらはそのまま転がる。
ちゃらちゃらとお金の音がするけれど、気にしちゃダメだ。
ごろごろごろと転がる。
お金が散らばっていないところまで転がったら、おいらは立って走り出した。
人とぶつからないように、華麗に走った。
ふぅ。
おいらは壁際まで走って大きく息を吐いた。
なんとか外に出られた。
ぐぅ〜。
おいらはお腹をさすさすとさする。
うん、食べ物を探そう。