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昨日はとんでもない目にあってしまった。
AIの美少女にのせられて、告白する寸劇を演じさせられた。
そして、からかわれて、コンビニに逃亡という綺麗なオチまでつけてしまった。
「もうやだ。こんな生活」
俺は深いため息をつく。
昨日の惨劇は終わりではなかったのだ。
むしろ、はじまりだった。
事件は、数時間前に起こった。
※
「起きてください、先輩」
アイは、俺を起こしていた。
しかし、俺は無視をして、寝たふりをしていたのだ。
今後、黒歴史が量産されないためにも、アイとの関わりはなるべく断ち切る。
これが、俺の考えた作戦だった。
コンビニで雑誌を立ち読みしながら考えた渾身のストラテジー。
だが、最新のAIは無残にも俺の考えの先にいた。
「もう、バイト前に遊ぼうって約束したのに。あー、もしかして寝たふりですか。そうですか。なら、こっちにも考えがあります」
そう言って、アイは静かになった。
俺は、二度寝しようと決心して、目を固く閉じる。
そこで、惨劇は誕生した。
スマホのスピーカーから生まれた音によって……。
――
「前から、気になっていたんだ。好きです。お付き合いしてください」
「先輩……」
「私も先輩のことが大好きです」
「幸せにしてくださいね、先輩」
「ああ」
――
「なんじゃこりゃあああああああ」
俺は布団から飛び起きた。
昨日の王様ゲームの罰ゲーム音声が、なぜかスマホからリピートされてくるのだ。
「やっぱり、寝たふりでしたね。先輩」
「おまえ、なにしてるんだよっ」
「昨日、隠し撮……。ゲフン。撮影した二人の愛の動画を眺めていただけですよ」
「いま、隠し撮りっていっただろう。おまえ、盗撮は犯罪だからな」
「あー、酷い。先輩だって寝たふりして、私を無視していたのに。そんなこと言うなら、この動画をサイトにアップしちゃいますよ。【美少女AIに告白してみた】っていうタイトルで」
いくら罰ゲームで強要されたとはいえ、普通に見たら、自分からAIに告白しているやばい男の映像だ。
そのやばい男というのが、俺なわけで……。
そんなことをされたら、俺は社会的に抹殺される。
「ごめんなさい。それだけは許してください」
俺はスマホに向かって土下座した。
※
以上が、今朝起きた虐殺の全容である。
思いだしただけでも、怖気が走る。
「早く教授帰ってきてください……」
俺はそうぼやきながら、バイト先に向かった。