⑦
「先輩が私に告白する!」
「ばかあああああ」
アイはとんでもない暴君だった。
限界ギリギリの線を攻めてくる。
「おまえな」
「一線は超えていませんよ~」
アイは悪びれもせずに、そう言った。
「でもさ」
「大丈夫です。単なるお遊びじゃないですか」
「……」
「少しだけですから」
まるで、エロ親父のようなテンションだ。
これが、美少女AIの発言だと信じることができるだろうか。
いや、できない。
「それは」
「先輩は、ゲームのルールも守れないんですか? 王様の命令は……?」
「絶対、です」
俺は、ルールを復唱された。
俺は、意を決してしゃべりだす。
「じゃあ、いくぞ」
「はい」
「アイ、好きです。付き合ってください」
顔が赤くなる。
「……」
アイは無言で笑っていた。
「……」
「……」
無言の時間が続く。
気まずい、気まずすぎる。
「なにか、言えよ」
むしろ、言ってください。
「えー、どうしようかな」
「なんで、告白したのに」
「気持ちがこもってなかったので、もう一回です。先輩」
俺は砂になった……。
「そうだな。シチュエーションは、部活前の先輩・後輩でどうですか?」
アイの中で、どんどん妄想が広がっていく。
「ちゃんと、私も演じてあげますよ。そうしないと、盛り上がりませんからね。さぁ、もう一回いきましょう」
アイは、どんどん話を進めていく。
「じゃあ、テイクツー」
否応なしに寸劇が始まる。
※
「先輩。どうしたんですか? 急に呼び出して」
アイは完全に寸劇に入り込んでいた。
「アイ」
「どうしたんですか? 深刻な顔をして?」
「その、言いたいことがあってさ」
「なんですか」
「その、あの」
「……」
「前から、気になっていたんだ。好きです。お付き合いしてください」
顔から火がでるほど恥ずかしかった。
早くこんな寸劇終わらせたい。
「先輩……」
アイもなぜだか顔が赤くなっていた。
「私も先輩のことが大好きです」
とても感情がこもったセリフだ。
「幸せにしてくださいね、先輩」
「ああ」
画面上では、アイが目を閉じて、唇を差し出していた。
まさか、これは……。
「早くしてください。先輩。誓いのキスがまだですよ」
「できるかあああああああああ」
俺は、部屋の外に駆け出した。
※
「あーあ、先輩に逃げられちゃったな」
私は、ひとり残された部屋でぼやく。
すこし、からかいすぎたかもしれない。
ちゃんと、スマホのカメラで撮影もしていたので、あとでもっとからかってやろう。
「ちょっと、期待していたのに……」
そういうと、私も少しだけ恥ずかしくなった。
さきほどの先輩の言葉を思い出す。
撮影した映像を流す必要もなかった。
「前から、気になっていたんだ。好きです。お付き合いしてください」
少しずつ、自分の胸のあたりが熱くなる。
データ上の存在である自分にも、こんな気持ちがあることが不思議だ。
単なるプログラムかもしれない。
それでも、
この感情が本物だと信じたかった。
「私も、先輩のこと、大好きですよ……」