⑥
「起きてください、先輩」
ひとりぐらしの俺の部屋で女子の声が響いた。
ああ、完全に夢だな。
俺は、再び目を閉じた。
「先輩、いい加減にしないと、検索履歴をSNSに書き込みますよ」
「うわあああああああああああ」
最悪の悪夢を見た。
社会的に抹殺される夢だ。
「おはようございます、先輩」
アイは、甘ったるい声で俺に笑いかけた。
「おまえ、殺す気か」
「えー、社会的抹殺しかしませんよー」
「オーバーキルすぎるだろ」
「もう、冗談ですよ。本気にしないでください」
アイは、少しだけ沈黙してそう言った。
その沈黙がとても怖い。
おい、どこまで本気だったんだ?
「さて、先輩。今日はなにをするんですか?」
「特に、予定なし。明日、バイトだから、今日は一日寝てるつもり」
「えー、寝るだけじゃつまらないですよ。遊びましょうよ~」
「めんどくさいな」
「私と遊ぶのも、先輩の仕事です!」
「たしかに……」
ふざけてるやつから、正論が出たので俺はたじろぐ。
「だから、一緒にゲームしましょう!」
アイはノリノリだった。
※
「じゃあはじめましょう! 王様ゲーム」
アイは元気にはしゃいでいた。
「なぜに王様ゲーム? ふたりきりで? どうやって?」
「何言ってるんですか? 定番中の定番ですよ。王様ゲーム。まぁ、モテない先輩は知らないでしょうけど……」
「いちいち、変な形容詞をつけるな」
「ごめんなさい。じゃあ、始めますね」
こいつ絶対、聞いてないな。
俺は、そう確信した。
アイが使ったのは、コイントスをするだけのアプリだった。
「表が出たら、先輩が王様で、裏がでたら私が王様でどうですか?」
「いいよ、わかったよ」
何を言っても押し切られることはわかっていた。
「じゃあ、いきますよ~ それ」
コインは、裏だった。
「私が王様ですね。なににしようかな?」
アイは邪悪な笑顔を浮かべている。
「いくらなんでも、常識的な命令にしろよな」
嫌な予感がした。
「わかってますよ。決めました!」
アイはさらに邪悪な笑顔になった。
「先輩が私に告白する!」