⑤
俺が、教授から届いた一言のネットスラングによって燃え尽きていた。
正座をしながら、真っ白な灰になって、一体どれくらい経過しただろうか……。
「あのー、中村さん? 大丈夫ですか……」
俺は、この最新美少女AIさんと、最低二週間は共同生活をしなくてはいけないらしい。
目がかすむ。
「もう、聞いてます? 中村さんってば~」
「ごめん、ごめん。ちょっと、燃え尽きてた」
「私のかわいらしさに見とれていたんですね。わかります」
「……」
このAIさんは、生後一か月くらいなのに、どうもおませさんらしい。
「もう、何か言ってくださいよ~」
「トッテモカワイイネ」
「なんですか、その棒読みは~。つれないな~」
「あっ、そうか。中村さんは、男子校出身で女の子と話がうまくできないんですよね」
「どうして、俺の個人情報をっ」
「スマホの検索履歴を覗きました、テヘ」
「のおおおおおおおおおおおっ!」
なんだ、この有害スパイウェアは。
ウィルス同然だろう。
「だいたい、検索履歴酷すぎますよ。《男子校出身でもよくわかる合コンのやり方》、《モテ男になるための百の方法》」
「やめてえええええ」
俺はどうやら社会的に抹殺されるらしい。
「あと、中村さんが見ている大人なサイトの傾向的に、私からは《先輩》って呼んだ方がいいですかね?」
「らめええええええええ」
「大丈夫ですよ。私は、設定上、十八歳なので、中村さんより年下だし……」
もう、いっそ殺してほしい。
「そうだ。さっきの告白の返事がまだ聞かせてもらっていませんよね」
「うぐ」
「どうですか……。私と付き合ってくれませんか?」
アイは急にしおらしくなった。
「……」
「まだ、決心がつかないんですか? 先輩みたいな、どう……。ゴホン。モテない男性が、私みたいな美少女に言い寄られているんですよ。人生最大のチャンスですよ~」
「今、とんでもないこと言いかけたよね?」
「この……てい。なんのことですか~ 難しいことわかりませんよ~」
やっぱり、こいつ。とんでもないこと言ってるよ。
「まだ、お互いのことがよくわかってないから、もう少し時間が欲しい」
俺は、遠回しにそう言った。
「ヘタレ」
「おまえ、腹黒いだろ。絶対、そうだろ」
「もう、先輩ってば。冗談ですよ~ 本気になりすぎですって」
「……」
「わかりました。待ってます」
「よろしく頼む」
「答え待ってますね……。じゃあ、私は寝ます。また、明日の朝お話しましょうね」
アイはそう言って、自分からアプリを切った。
俺は、ひとり残された部屋で、大きなため息をつくのだった……。
※
外の様子が切れたのを、確認してから、私は、安堵のため息をついた。
「あ~、緊張した」
それが、私の本心だ。
今まで、《お父さん》としか話していなかったのだ。
それが、今日、いきなり見知らぬ人と共同生活をすることとなって、人生はじめての告白までしてしまった。
告白なんておかしなことだと自分でもわかる。
でも、なぜか抑えられなかった。
先輩をはじめて見た時から、気持ちの高まりが抑えられなかった。
「結局、答えはもらえなかったんだけどね」
私も先輩のことを言えないヘタレだ。
でも……。
「すぐに断らなかったということは、可能性はあるんですよね? 先輩?」
彼のことを思いだしながら、私は幸せな気分で目を閉じた。