㉞ 最終回
‐三年後‐
「ついに完成したね。中村くん」
「はい」
俺と教授は、すべてが始まった場所でもある教授室で話をしていた。
「とても長かったですね。お手伝いしていただいて、ありがとうございます」
俺は教授にそう言った。
「僕は自分が蒔いた種だからね。それくらいしないといけない義務があるよ。でも、武田君には、ちゃんとお礼を言うんだよ。彼女には……」
「はい」
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ」
「えっ」
「さすがに、娘の恋路に親はしゃしゃりでられないだろう?」
「ありがとうございます」
「お義父さんは、まだ早いよ」
「言ってませんよ」
※
俺は、ついにアイの復元に成功した。
スマホに残っていたデータの残滓、ふたりの会話をできる限る思いだして足りないデータを紡ぐ作業。
いくつもの困難を乗り越えて、俺はここにいる。
そして、俺はスマホを開いた。
そこには、アイがいた。
「先輩……。どうして……」
色々と話したいことはあった。
たくさんあった。
でも、それは言わなくてもわかっている。
だから、簡単な言葉を伝える。
「三年前の忘れ物を届けにきた」
三年間で覚悟は完全に固めた。
だから、俺はもう迷わなかった。
無機質な感触だが、俺にとっては天使の柔らかさのように感じる。
「先輩って本当にばかですね」
アイは、目を潤ませながらそう言った。
俺たちは再び歩きはじめた。(完)




