㉝
アイは、完全に俺のもとからいなくなってしまった……。
教授は、自壊プログラムを使ったと言われてた。
教授のもとにあるアイの元データは、俺たちの同棲生活の記憶は反映されていないらしい。
つまり、俺の知っているアイは、完全に消えてしまったのだ。
失意のうちに、俺はいつの間にか一週間も自宅に引きこもってしまった。
「さすがに、なにか食べないとな……」
あまり食欲はなかった。
しかし、最後にものを食べたのは、何時間前かすらわからない。
俺は立ち上がる。
しかし、気がついた時、俺は床にいた。
全身の力が入らない。
これはさすがにやばいと思った。
目がチカチカする……。
※
「中村、大丈夫? いるんでしょう。あれ、鍵開いている。入るよー」
女性の声が聞こえた。
「って、大丈夫? どこか痛いところはない」
声の主は、武田だった。
※
「バイト無断で休んで。わたしがいなかったら大変なことになっていたんだからね。いったい、いつからご飯食べてないの?」
武田の差し入れてくれたゼリー飲料を飲み干す。
「ごめん」
「答えになってないよ」
武田はあきれ気味だった。
「アイさんのこと、まだ引きずっているの?」
「ああ」
「そっか」
「それで、中村はこれからどうしたいの?」
武田は核心に迫った。
「……」
「わからないの?」
「アイに、もう一度、会いたい」
「そっかあ」
武田は、それを少しだけ寂しそうに聞いていた。
「がんばってね。わたしも応援するから」
「ああ」
そう言って、武田の顔は俺に近づいてきた。
「えっ」
俺はヘンテコな声をあげてしまう。
武田は、クスッと笑うとおれの頬に口をつけた。
「中村、きょどりすぎ」
「だって」
俺はもう完全にヘタレキャラだった。
「じゃあ、頑張ってね」
「ああ」
そう言って彼女は部屋を出ていった。




