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メールを開くと、そこには動画が添付されていた。
俺は、躊躇なくその動画を開いた。
画面に現れたのは、アイだった。
「先輩、見てくれましたか?」
アイは、静かに笑っていた。
「この前は、ごめんなさい。あんな別れ方になってしまって。先輩のことだから、今日はお父さんのところにいって、すべて聞いたところだと思います」
この映像はいつものアイとは違って、一方通行だ。
だから、こちらから声をかけることはできない。
それがとてももどかしかった。
「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって……」
アイは教授と同じように謝罪した。
「先輩とは、ずっと一緒にいられないとわかっていました。それでも、わたしはどうしてもあなたと一緒にいたかった。わたしには、先輩の幼馴染のマナさんの記憶があります。だから、彼女が好きだったあなたに会ってみたかった」
アイは独白を続ける。
「小さいころの姿しか知らないあなたがどんな風に大きくなって、どんな声になっていて、どんな生活をしているのか。あなたが触れあうことができる場所にいるとわかっただけで、わたしのなかでの気持ちは、もう抑えることはできなくなっていました」
「そして、あなたとの共同生活は、とても幸せでした。花火をまたみることができた。それも二回も一緒に。ふたりで変な話をしたり……。先輩は、わたしのこころのなかでドンドン大きくなっていきました。もっと、一緒にいたい。もしかしたら、このままずっとあなたのもとにいれるんじゃないか。少しずつ、欲がではじめました。でも、武田さんに言われて気がついたんです」
「……」
「AIは人間とは結婚できない。当たり前のことです。わたしが、あえて見ないようにしていたことを彼女は気づかせてくれた。わたしが、先輩の近くにいたら、たぶん、もう、だめなんです」
「アイっ」
一方通行だとわかっていても、俺は叫んでしまった。
「昨日のデートは、わたしの最後のわがままです」
画面に、文字が浮かび上がる。
【アポトーシス】
「アイっ、おまえ……」
「先輩、あなたのことがずっと大好きでした。だから、お願いです」
画面のアイは少しずつ崩壊をはじめる。
「わたしのことは、どうか忘れてくださ……」
言い終わる前に、画面のアイは完全に消滅した。
俺は、地面に崩れ落ちることしかできなかった……。




