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「よく来てくれたね、中村くん」

 教授はいつになく上機嫌だった。


 出前はすでに届いていた。天ざるそばが二人前。

 今日みたいな暑い日にはご馳走だった。


「そんなに嬉しそうにして。先に食べていいよ」

 教授は笑いながら、そう言った。

 

 俺はどんだけ目を輝かせていたのだろうか。

 少し恥ずかしくなった。

 教授も書類を書き終えると、そばを食べ始めた。

 研究室には、そばをすする音がこだまする。


「それで、頼みたいことってなんですか?」

 そばを食べ終わると、俺はそう切り出した。

「ああ、きみに簡単なバイトを頼みたくてね」

「バイトですか?」

「そう、バイトだよ」

 そう言って教授は麦茶を飲み干した。


「実はね、きみには私の開発したAIの教育係になって欲しいんだよ」

「AIですか?」

「そう、人工知能だ。ご存知のとおり、人工知能の開発は世界的なブームとなっているだろう? 国も大学も研究機関もその開発に重点をおいている」

「はい」


「そして、私もそのプロトタイプを開発したのだ。生活に必要な基本的知識は、すべて覚えさせている。あとは、実地で学習を進めて、より人間に近づかせたいと思っている」

「そこで、バイトですか?」

「そう、きみの出番だ。きみのスマホにAIを導入して、共同生活を送って欲しい」


「嫌ですね、そんなの」

 俺はきっぱりとバイトを辞退した。

 そんなプライベートがダダ洩れになりそうな危険なバイトは嫌だ。


「なっ……」

「じゃあ、おそばご馳走様でした。また、二学期に……」

 俺はさっそうと部屋の出口に進む。


「バイト代弾むつもりだったんだけどな~」

「いくらですか」

 俺は報酬に食いついてしまった。


 教授は笑っていた。


 ※


「はー」

 俺は空を見上げていた。 

 セミの声が響いている。


 結局、バイトを引き受けてしまった。

「じゃあ、スマホにアプリとして入れておくから、家に帰ったら起動してね」

 教授は、今は絶対に起動するな。

 街中でも起動するな。

 

 と何度も注意していた。

 コンプライアンスがどうかとか言っていたが、嫌な予感がする。

 でも、引き受けてしまった。


 俺は、アパートの部屋の扉を開いた。


 ※


「よし、起動するか」

 コップ一杯の麦茶を飲んで、気分を落ち着かせる。


 スマホのホーム画面に、新しく追加された「AI」というアプリ。

 ストレートすぎる。


 俺は、その画面をタッチする。

 画面は起動画面に切り替わった。


 一分ほど経過した後、画面には女性が登場した。

 どうやら、彼女がAIらしい。


「はじめまして、中村さん。私はアイと申します」

 彼女は流ちょうな言葉でそう言った。

 AIだから、アイ。

 安直だ。


「こちらこそ、はじめまして」

 俺の方が、緊張で片言だった。


「中村さん、ひとつだけお願いをしてもいいですか?」

「なに?」

 彼女は、恥ずかしそうにそう言った。


「私とお付き合いしてください」

 こうして、俺たちの共同生活は始まった……。

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