⑳
俺は、スマホへダイブすると、アイが起動する前に即座に、電源を落とした。
アイに武田の来訪を知られるわけには、いかないのだ。
もし、知られたら……。
俺は、明日にはネット社会で抹殺されているだろう。
もしかしたら、アイは気がついているかもしれない。
しかし、まだごまかせる。
まだ、間に合う。
きっと、大丈夫だ。
俺はそう自分にいい聞かせて、スマホをそっとしまった。
「お待たせ~」
そして、そそくさと武田のもとへ。
「大丈夫。なんかすごい音したけど」
「大丈夫。大丈夫。最近、運動不足だから、すき間時間を見つけて運動しているだけだから」
「えー、怪しい。もしかして、大人な雑誌とか隠していたんじゃないのか?」
「ソンナモン、アルワケナイジャナイデスカー」
いえ、もっと危ないものです。
「ふーん、まあいいか~それじゃあ、お邪魔します」
「意外と片付いてるんだね。おとこのひとり暮らしなのに」
「だろう。俺、意外と家庭的な男なんだよ」
ひとり暮らしだとは言ってない。
「それじゃあ、遊ぼうよ。ゲームとかないの~?」
そう言って、武田は物色をはじめた。
「じゃあ、switchやろうぜ」
おれたちはゲームに興じた。
「ちょっと、それ反則でしょ」
「オフホワイト」
「男なのに、手段が汚い」
「ゲームに男女は関係ない」
「きたああああ。ゴール前で、赤甲羅!」
「嘘だ、こんなの認めないぞ」
「楽しかったねー」
「そりゃあ、ぶっつけで、三時間も遊べばな」
「お腹空いたね~」
「じゃあ、ご飯でも食べに行くか」
おれは提案する。
「あれ、本当に昨日のメール見てないんだね」
「えっ」
「ご飯作ってあげるよ! 台所借りるね」
(神さまありがとう)
「ご飯作ってあげるよ!」
「ご飯作ってあげるよ!」
「ご飯作ってあげるよ!」
女子が遊びに来て、ご飯を作ってくれる。
当たり前じゃねえからな、この状況。
おれは至福の瞬間を味わっていた。
そして、現実に引き戻される。
「ねえ、携帯なっているよ」
「おー」
ん、携帯?
携帯?
ケ・イ・タ・イ?
禍々しいバイブ音が部屋に鳴りひびいていた。
当たり前じゃねえからな。
当たり前じゃねえからな、この状況。




